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「理事長室にて」

―――――――――――――――――――――

「んん…」

間の抜けた声を出して俺は瞼を閉じたまま意識を取り戻す。

そうか、ようやく夢から目が覚めたのか。いや実に長い夢だったな、うん。まあ色々最悪だったが中々に面白い夢だった。さて、今からまたいつも通りの日常を過ごさなければいけないな。はぁ、学校めんどくさいな…

そんなことを考えてからようやく俺は瞼を開けた。そこにあった全く知らない天井を見て、そして俺はさすがに現実を見た。

ああ、やはり夢なんかじゃないのか、と。


うすうす感づいていたことだった。事はうまく運ばないが、自分の思ったように自由に行動できるし、風とかもリアルに感じるし、なんというか…妙に意識がはっきりしていた。

しかし、だからと言ってこんな異世界があるというのもそれこそ現実味の無いものだ。

まあ、一応は現実として受け入れることにして、とりあえず今は周りの状況を確認しないといけない。

「よっと…って痛っ!」

起き上がろうとしたとき、首にちょっとした痛みが走った。そういえばあの幼女に気絶させられたんだっけな。


しかし、たいしたことは無い痛みなのでそのまま放っておき、辺りを見回す。見た感じは書斎のような部屋だ。いくつかの本棚とそれにぎっしりと入った書類や、俺がさっきまで寝ていたソファ、その横にあるテーブル(よく見たらそこに俺のヘッドフォンとパーカーが置かれていた)それとトロフィーや表彰盾が数個飾ってあるその部屋はまるで、

「…なんか校長室みたいだな」

「惜しいですね。ここは理事長室です」

独り言のつもりで言った言葉だったが、意外なことに声が返ってきた。

俺が声がした方に顔を向けると、そこには和風の衝立があった。

俺は少し痛む首を押さえながら立ち上がって、衝立の向こうを覗き込みそこにいる人物に声をかける。


「よお幼女、まさかの幼女の方が誘拐する事件、逆幼女誘拐事件か?」

そう、その衝立の向こうにはアンティークデスクに座っているさっきの幼女がいた。

幼女は今度は最初から殺気を込めた目で俺を見た。

「…あなたは懲りない人ですね」

「お前にそんなこと言われる筋合い無いぜ。人を気絶させた上に誘拐しやがって。最初から思っていたが、貴様やはり普通の幼女じゃないな?」

釣り上げられたことと馬鹿にされたこと、それと誘拐されたことの腹いせに笑顔で嫌味を言う。しかし…


ズドムッ!

俺の横をなにかが通り過ぎる。振り向いて確認すると、衝立に穴が開いていて、その向こうに大きな万年筆が刺さっていた。

俺は冷や汗をかきながらもういちど、今度は幼女の方を振り返る。そこには殺気だけがこもった目で、そして何かを投げたような姿勢で立っていた。無表情のままのせいで、余計に殺気が際立っている。

「…次幼女などと言ったら衝立にしますよ?小魚」

「…すみませんもう言わないんで勘弁してください」

ガチで震えながら俺が謝ると、ようやく幼女の気が収まったのか、体勢を崩して再び椅子に座った。


「全く、私を何歳だと思ってるんですか?」

「いや、まあ大体8歳くらいかなぁーって」

「では後8本くらい投げましょうか?」

幼女はそんなことを言いつつも、さすがにこれは本気ではないようで机の上の書類に目を向けたまま言う。

「つーか、だったら結局お前何歳なんだよ…」

「それはそれで言いたくありませんが、あなたよりは年上ですよ。小魚」

「マジで言ってんのかそれ…あと一々小魚っていうのやめてくんない?」

「あなたへの仕返しなので嫌です」

相変わらず一瞬もこちらに目を向けずに書類を見たまま幼女(外見)は返事をする。

その仕返しに幼女って言ってやろうか思ったが、ガチで穴だらけにされそうなんでやめておく。


「しかしだ、だとしたら俺はお前を何て呼べばいいんだよ?」

そう、そもそも俺が幼女と言い続ける理由、それは単に名前を知らないからである。後ちょっとした嫌がらせもあるが。

それでも名前を知ったらさすがに何回も幼女だなんて言わない。俺のみが持たんし。

俺がそう言うと、幼女は今気づいたかのようにあ、と言って立ち上がる。

「そういえば言ってませんでしたね。私はイリエス。イリエス・ノーセラスです」

そう言って幼女、もといイリエスは無表情に一礼する。

「そうか。俺は優斗、鳴宮優斗だ。よろしくな、イリエス」


俺もそれに返して自己紹介をする。さすがに一礼するのはあれなので、片手を上げるだけで済ます。

しかしあれだな。年上だのなんだの言っても、こうして普通にすれば幼女に見えるのだから不思議だよな。

「はい。これからよろしくお願いしますよ、小魚」

なんせ中身がこれだからな。

ん?これから?

「っと、それだよそれだよ。今のこれからだとか、屋上での役に立つとか言ってたけど、俺に何をさせたいんだ?」

普通に話していて忘れていたが、そういえば俺はイリエスに担がれてここに連れてこられてたんだった。それはイリエスも同じだったようで、

「ああ、そういえばまだ何も説明していませんでしたね。ではまずはここがどこなのかから教えましょうか」

と言って窓際に向かって歩き、しまっていたカーテンを開ける。


そこには校庭が広がっていた。遊具などは無いことから、多分中学校か高校なのだろう。しかしそんなことはどうでも良かった。

その校庭には20強くらいの人たちがいた。普通の人たち以外にも、街で見たような獣人たちも数人いた。

そして、その人たち1人1人が手から火の玉や水を出したり、地面を変形させて壁のようなものを作っていたりしていた。

俺にその様子を窓越しに一通り見せたイリエスは、振り向いて言う。


「ここは国立エストリア魔法科高校まほうかこうこうの敷地内の理事長室です」


「魔法科高校?なんだそりゃ?」

現実には聞いたことのない高校の種類について疑問に思った。

「魔法科高校とは、将来的に冒険者や騎士などの、魔法を使う職業に就きたいと思っている生徒たちが通う学校です。簡単な話、普通の高校は主に勉強をして魔法学を少ししか習わないのですが、魔法科高校は魔法学を主とし、それに必要最低限の勉強を教えるのです。そして、あなたをここへ連れてきたのはそれに関係することなのです。えっと、ユートさん…ですよね?」

イリエスは喋りながら再度椅子に座りなおした。正確に言うならば「ゆーと」と「ゆうと」のイントネーションは少し違うのだが、イリエスのようにこの世界の人がカタカナ名だと考えたら、それも仕方ないだろう。

「それでユートさん、あなたをここに連れてきたのはですね…」

イリエスは静かに、はっきりとした声で言った。


「あなたに教員になっていただきたいと思ったからです」

「…は?」

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