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「なんだこの幼女」

―――――――――――――――――――――

「はぁ…はぁ…こ、ここまで来れば大丈夫だろ…」

数分逃げた後、少女が追ってきていないことを確認した俺はその場で膝に手をつき息を整える。

まさか女子トイレから出てきているところを見られていたとは想像していなかった。なんとか逃げることはできたから良かったものの…

「クソッ、やっぱロクな夢じゃないな…」

いっそ夢の中で寝てみるか?起きたときはベッドの上でした、的なことになるかもしれない。

「最悪こんなことばっかならそれもありかもなぁ…」」

そんなことをぼやきながらその辺をぶらぶらと歩く。

街の様子は現実のものとは全く違うが、人々の暮らしはあまり変わらないようだ。そこにいる背の高い獣人は子供を肩車しながら笑って歩いているし、あっちの女性3人組はアクセサリーショップではしゃいでいる。それでもさっき見た人形師のように、実際には絶対できないようなことをしている人たちもいる。

「…なんつーか、何も起こらなければ普通に面白そうな街なんだよな」

少し探索でもしてみるか。どうせだし、寝るのは飽きてからでいいか。


「あ!やっと見つけましたよ!」

そう思った矢先に、またあの女が追いかけてきやがった。

「ふっ…スマン無理だ!!」

「あ!こら!待ってください!」

俺はまた全力で走り出す。しかし、さっきと違って相手もすぐに走り出したせいで振り切ることが出来ない。

「クッソが!やっぱ最悪だ!探索とか考えてた自分がアホみたいだな!」

「なにをブツブツ喋っているんですか!とにかく止まってください!」

別に俺自体は悪いことをしていないのに捕まったら疑いようも無く刑務所行きなのが分かりきっているのがひどすぎる。

とにかく、今までのはもうどうでもいいから今回くらいは絶対に捕まりたくない!

屋台の間や路地裏とかの狭い場所を通り、ごみ箱の上をジャンプして必死に逃げようとする。しかしその女はそれをものともせずに通ってくる。

それどころかどんどん差が縮まっている気がする。さっきはよく離せたな俺。

「チッ!このままじゃ埒が明かねえ!」

俺はまた路地裏を曲がる。


その時だった。

「のわっ!」

俺の体が宙に浮いたかと思ったら、そのまま建物の上に上がっていった。必死にもがいてみるが、抵抗むなしく上に引き上げられる。

「…ちょっと、暴れないで頂けますか?」

その声はさっきまでの女とは別の声だった。



―――――――――――――――――――――

「えーっと、あのー…」

「はい?どうかしましたか?」

「いや、どうかしたっつーか…なにしてんだっつーか…とりあえず降ろしてくんないか?」

建物の屋上の少し横、つまり空中に俺は浮いていた。いや、正確に言うと吊り下げられていた。

吊り下げられて、釣り下げられていた。

俺を釣り下げていたのは、見た目8,9歳くらいの幼女だった。輝くような銀髪をツインテールに結んでおり、それとは正反対の黒い服を着こなしていて、そしてなぜかその手には釣り竿があった。


少女は無表情のまま少し不満そうに言う。

「おや、その言い草はいただけませんね」

「何がいただけませんね、だよ…今俺絶賛ピンチなんだけど。早く降ろしてくんない?」

「そうですか。ではここから一瞬で地面へお送りしましょう」

幼女はそう言って釣り竿を少し下に傾ける。吊り下げられている俺にはその衝撃が十分伝わり、体全体が大きく揺れる。

「分かった!俺が悪かった!だからその屋上にゆっくり降ろしてくれ!」

「降ろして…なんて言いました?」

「グッ…降ろして…ください」

命にプライドは変えられない俺は、渋々年下の幼女に丁寧語で頼む。

「ふむ。しょうがないですね」

そう言うと幼女は、顔色一つ変えずに釣り竿を上げて俺を建物の上に降ろす。


「痛たたたた…ったく、何すんだよ!」

やっと地面を踏むことが出来た俺は、少しよろめきながらもその幼女を睨みつける。

「何すんだよ?ああ、これは釣りというものですよ。知らないのですか?」

「いやそんくらい分かるわ!建物の上でってのも変だけど、なんで俺を釣り上げるんだよ!」

するとその幼女は相変わらず無表情のまま、そして不思議そうに首をかしげる。

「何故って…サメに追いかけられている小魚がいたので釣り上げただけですが。」

何言ってんだコイツ?頭大丈夫か?


いったん整理してみよう。追いかけられているってことは、もしかしてさっきのトイレの前で会った女から逃げていた時ことだろうか?だとすると、サメっていうのは多分あの女のことだろう。ということは、

「…俺が小魚ってわけか」

「今さらですか。考える時間が長すぎます」

既に釣りの方に意識を戻している幼女は顔を少しも動かさずに言う。

この野郎、んなことを言うくらいなら最初から分かりやすく言いやがれ。

「ああ、やっと理解できたぜ。サンキューな」

そう、理解できた。つまりあれだ、口悪くてわかりにくいが、どうやらこの幼女は追いかけられている俺を助けてくれたらしい。

だから一応のお礼を言った。

しかし、幼女の反応は予想とは違うものだった。

「サンキュー?何故そんなことを言うのですか?」

「は?だから一応助けてくれたお礼としてだな…」

「私は助けていませんよ?役に立ちそうなものがあったから釣り上げただけです」

さっきの考えで行くと、役に立ちそうなものってのは俺のことだろう。だが俺が何の役に立つのだろうか?

「なあ、俺が何の役に…」

「ふむ、今日はもう釣れないようですね。もう帰りますか」

俺の言葉にかぶせて幼女はそう言って釣り竿を持ったまま立ち上がって歩き出す。

「おい、ちょっと…」


突然の行動に戸惑っていると、その幼女は振り返ってこちらに歩いて来て、

「何をしているんですか?ほら、行きますよ小魚」

俺をその肩に担いで歩き出す。

「え!?」

軽々と17歳の俺を持ち上げた幼女の力に驚く。だが、突然のことで気づいていなかったが、さっき俺を釣り竿で釣り上げたときから気づくべきだったのだ。

この幼女、精神的にもそうだが、肉体的にも普通じゃない。

「おい!なにすんだ!?降ろせよ!」

俺は幼女の上でじたばたと動く。しかし幼女はそれを全く気にも止めずに歩く。

「クソッ!離せって言ってんだよ!おい!聞いてんのか、幼女!」

「…今なんて言いましたか?」

そこで幼女は足を止めて俺に質問をする。

「だから離せって言ってんだよ!分かったか幼女!」

そう言ったとき、俺はその幼女からすごい殺気が出たのを感じた。

「え…あの…」

「…あなたが悪いんですよ?」


次の瞬間、俺は意識を失った。


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