決着と正直な言葉
霊夢は紫の名を呼んで上を向く、そこにいるのは八雲紫。隣には八雲藍を連れている、輝くような満月を背にした妖しげな女性は、くすくすと笑いながら宙に浮いている。
「まさか摩天龍の出現から一ヶ月たたずにバレるとは思えなかったわ、三ヶ月もあれば計画は完遂できたのに」
「とりあえず一体何をしようとしてたか教えてもらおうかしら?」
「ふふふ、そうよね、聞きたいわよね。簡単な話を、私はあなたを救いたかったの……哀れで悲しい運命を背負った少女博麗の巫女である博麗霊夢をね」
そう言っている紫の目には、まるで射殺すような眼光がある。あれは本気の目だ。
「救う? 私は別になににも囚われていないわよ? なにいってんのあんた」
「気づいていないだけよ、それが当たり前すぎて生まれる前から決められた運命、不思議だと思う方が変だわ。幻想郷に囚われた哀れな巫女、人間でありながら妖怪と一生を共にし、世界に縛り付けられるように運命づけられた少女」
「言いたいこと言ってくれるじゃない、それでその目的になんでこんな木と慧音が必要なのかしら?」
「邪魔なのよ、龍神がね。彼と共に私は博麗大結界を作った。私の力も関わっているのに博麗大結界を管理している博麗の巫女ですら手出しができない。私は結界を越えられるけど、結界を壊すことはできない。でも気づいたのよ?」
手に持った派手な扇子をパチンと閉じていつになく冷静に紫が口を開いた。
「龍神がいなくなれば、幻想郷はその力を衰えさせる。私だって幻想郷が好きだから壊しはしないけど、博麗大結界をゆるく弱くすれば壊せるのよ」
「な、なに物騒なこと言ってるのよ! 結界が壊れればここと外の均衡が崩れてこっちの妖怪が外の世界に出て行くでしょうが、それに結界が壊れたら幻想郷はその形を保っていられないはず!」
「保つために、この木を作ったのよ。龍神をこの摩天龍に封印して幻想郷に流し続ける、形は保たれるし、すでにこの木の根っこは幻想郷中に張り巡らしてあるから」
「そんなことさせない! 私は博麗の巫女として、あんたを退治するわ!」
「あら、わかってくれないのね。私たちは、あなたのためにこうして全てを犠牲にしたというのに!」
紫の顔が、般若のように歪んだ怒りを表す顔になった。悲しんでるように見える、強い怒り、それに呼応するように摩天龍が雄叫びをあげるかのように揺れ、紫の弾幕が霊夢と魔理沙を襲う。
「くっ、魔理沙!」
「なんだ霊夢、あなたはフランと美鈴をさがして!」
「探しても無駄よ白黒魔法使い、あの二人は多分封印の儀式の時に来たから消えたんでしょう? 摩天龍の幹の中心にでも埋まってるわ」
余裕の笑みに怒りを乗せて、弾幕を発し続ける紫が忠告をする。
霊夢は結界、魔理沙は弾幕でつかりの攻撃を防ぐが、幻想郷屈指の妖怪である紫の攻撃は二人の防御をいとも簡単に抜ける。
「ぐわっ」
「きゃあ、もう、近づけてないじゃない!」
「冷静になれ霊夢、多分もう少しすれば……」
「なにをごちゃごちゃ言ってるの? 私の計画が完遂するまで眠ってて!」
紫の弾幕が光線のようになって二人に襲いかかる。手加減しれいるだろうが当たれば一発KOは確実だ。
「スカーレットシュート!」
避けと防御に徹していた霊夢と魔理沙の間を抜け、紫に直接攻撃をするかのように紅の光線が走った。
このスペルを使うのは、レミリアだ。
「よくきてくれたぜ!」
「巫女に恩を売るのはいいことよ、それに死なれちゃ困るからね」
「と、いうわけで八雲様、あなたにはここでリタイヤしてもらいます」
一瞬だけ時空が歪んだような錯覚を覚えた霊夢と魔理沙が目を開けると、紫の周りには無数のナイフが浮かんでいた。そのナイフが、目にも見えないスピードで紫の体に突き刺さって行く。
「藍、これは私たちの負けかしら?」
「私が手を出してはいけないのなら負けです」
「そう、じゃあ手を出さないでくれるかしら」
「御意」
全身にナイフを刺した紫は、力が抜けたように空中から地面に落ちた。それと同時に摩天龍に変化が起き始める。
鱗が消え、そのまま枯れ始めたのだ。どうやらこの木は幻想郷から妖力を集めたりして立っている妖怪樹ではなく、紫の妖気をもとにしてたっていたらしい。
そして数分してすべてが枯れ落ちた後、地面にはフランと美鈴の姿があった。
「あたしはレミリアと咲夜と一緒に紅魔館に行ってるぜ、紫とは二人で話をつけな」
魔理沙はそれだけ言って去ってしまう。
だが霊夢は振り返ることなく、ドレス土をつける紫の元へ行った。
「あんた、わたしが哀れって言ってたわよね?」
「ええ、みんなそう思ってるわ。だから寺子屋さんも協力してくれたのよ」
「みんなねぇ、少なくとも紅魔館のお嬢様たちは私より妹の方が大事みたいよ。あんたも救われないわね、昔からずっと私のことを気にかけて、先代もそうだったのかしら?」
「簡単な話よ、博麗の巫女を作り出したのは私に責任があるから。細かいことは言わないわ、それだけ」
「責任? まあ言ってくれないなら知らないけど、これから先私絡みで異変なんて起こさないでね、それに」
神社に戻ろうとしたのか紫に向けていた背中をくるっと回して
「私はこの世界も、ここの住人も、この仕事も全部ひっくるめて結構気に入ってるのよ。無駄な心配はしなくていいわ」
ちょっとした変化だけの笑顔で、それだけいってふわっと霊夢はいなくなった。
「だそうですよ、紫様」
「そう、じゃあ今から私はちょっと出かけてくるわね」
「どちらへ?」
「龍神様の場所に……」