忠告と疑い
「魔理沙、入るわよ」
ボカーン、扉を開けた霊夢の目の前で黒煙が上がる。手で煙を払いながら部屋の真ん中まで進むと、そこには目をぐるぐる巻きにして倒れる魔理沙と、怪しげな実験器具と材料が黒焦げになっていた。
「すまねえな霊夢、ちょっと魔法薬の調合に失敗してさ」
「あんたいっつも失敗してるでしょ、調合向いてないんじゃないの?」
「いやー言われた通りにしてるはずなんだけどな、どうも火力が足りない気がして」
「だから爆発すんのよ、パチュリーもアリスも調合は繊細さが大事だって言ってたでしょうが」
「それもそうだったな、忘れてたぜ。ん? 忘れてたと言えばお前なんであたしの家に来たんだ?」
そう言われて霊夢がハッと用事を思い出す。そう、霊夢はレミリアに直々に(?)異変解決の依頼を受けて魔理沙のところにやってきたのだ。
そして神社で読んだ咲夜の置き手紙を魔理沙に渡し事情を話す。
「つまり、あの居眠り門番とフランがいなくなったのか」
「そう、夜の間に向かった先の摩天龍から帰ってこない。しかも夜の吸血鬼よ、勝てる奴なんて限られてくるわ」
「じゃあ、今日の夜摩天龍にでも行くか!」
「え!? ちょっと、もっと計画を立ててからしっかりと考えてーー」
霊夢は説得しようとするが魔理沙は聞かない、一直線にやりたいことをするのが彼女だ。
「四の五の言ってられるか、フランはあたしの友達だからな。絶対に助けてやるぜ」
「魔理沙……そうね、せっかく魔理沙の遊び相手が増えてくれて楽になったのに減られたら困るわ」
そして深夜、満月が天高く頂点に登った時、霊夢と魔理沙は摩天龍に向かった。天高くそびえ立つ大木が見えてきた頃、入口とされている柵の扉の前に、角と尻尾の生えた妖獣らしきものが見えた、厄介な奴がいる。
「ここは夜間立ち入り禁止だ、おとなしく帰るんだな」
「異変解決のためよ、博麗の巫女として立ち入りを許可しなさい!」
目の前に立ているのは−知識と歴史の半獣−上白沢慧音だ。しかも満月でハクタク化している。
「許可できん!」
「なら力づくよ、怪我しても知らないからね」
そういった霊夢が一気に慧音に詰め寄る、そしてローから突き上げるようなアッパーを繰り出した。それを慧音は首の動きだけでかわす、そして慧音のミドルキック、お祓い棒で受け止めつつ軽く飛ばされる、そして霊夢で死角になっていた場所から霊夢がいなくなり、慧音の正面にいたのは。
ミニ八卦炉に魔力を詰め込んだ魔理沙だ。
「どいてもらうぜ、マスタースパーク!」
「甘い!」
慧音の目の前に三つの光が現れ、壁のように広がる。その光の壁に魔理沙のマスタースパークは阻まれた。そしてその壁の奥から無数の弾幕が飛んでくる。
「やべ、よけきれねえぜ……!」
だがその弾幕は魔理沙の目の前で弾けるように消えた。
魔理沙が周辺を見ると、周りには結界が貼られている。
「『夢符』二重結界か」
「あんたなんかただの邪魔者なのよっ!」
散らばった弾幕の煙の中から飛び出した霊夢は、慧音の頭に強く振りかぶって頭突きを入れる。それでよろめいた隙に札を取り出し大技を繰り出した。
「夢想封印!」
「ぐわああああああ!」
力を使い切ったのか、慧音は人間状態に戻り倒れこんだ。霊夢は頭突きが痛かったようで自分の額を撫でながら慧音に近づく、魔理沙は余裕そうに箒を振り回している。
「なんで立ち入り禁止だったのかしら?」
「近づいてはいけないのだ、博麗の巫女が近づいては……彼女がなんのために」
「なにを言ってるの? 彼女って誰よ! 誰かがこの木を幻想郷に持ち込んだってこと!?」
「何も考えるな、霊夢は、お前はいつも通りにしていればいい」
「できないのわよ、この木はもう異変だと確定せざるを得ないの。さあ、行くわよ魔理沙」
そう言って踵を返し魔理沙を連れて霊夢は柵を超える。すると、昼には見れなかった光景が月明かりに照らされた。
「なによ、これ……」
「気持ち悪いぜ、まるで鱗の絨毯だ」
そう、摩天龍を中心に地面は蛇の鱗のようなものを生やしていて、摩天龍にもちらほらを鱗が見える。そしてうっすらと摩天龍や地面から感じる霊気を感じ取った霊夢はあることを悟った。
「……神様…………」
「どうしたんだ霊夢? 目がどっかいってるぜ、それよりも早くフランを見つけないと」
「龍神様よ、この木から、鱗から、龍神様の霊気や霊力を感じるのよ!」
「何言ってんだよ、龍神はあたし達の見えないところにいるんだろ、こんなへんてこな木の中にいるとでも」
「でも、これは確かに龍神様の霊気、一体どういうこと!?」
霊夢は思い出した。その木はまるで龍のような形をしている、突如として現れた天をも貫く大木、外の世界にあった形跡もない、まるで誰かが何かの目的のために作り出したような。
こんなものを作り出せる妖力と、突如出現させる能力、そして協力者には上白沢慧音。慧音の能力はハクタクの時は歴史を喰べる程度の能力でつまり歴史の改変、いたものですらいなかったことにできるような過去を操る能力だ。
「合点がいったわ、私にばれたくなかったからでしょう? だからあの時人の目も考えずに異変じゃないなんて言ったのね、紫」