消えた中国と悪魔
「なによ、やっぱりなんの変哲も無い観光地じゃない」
翌日、昼頃に人里の人間に紛れて霊夢は摩天龍の下に来ていた。一応博麗の巫女としての能力、空を飛ぶ程度の能力は幻想郷中の人間に認知されてはいるが、目立つので使わず地上を歩いている。
それにしても馬鹿でかいだけの木だな、と霊夢は思った。ほかの人間、龍神へに信仰が特に強い人ではない限り全員がそんな感じの印象を抱くだろう。なんせ本当にただの馬鹿でかい木だ。木になることなど一晩あけたら生えていたということだけ、不可解だが、ここは幻想郷だ、今までにいきなり紅い雲が出て太陽が見えなくなった、春になっても雪が降り続けた、UFOが飛んでたなんて不可解なことが腐る程起きている。
誰も気にしていないだろう、それどころか何も危害がない分受け入れられている。
「こんなにただの馬鹿でかい木に人が集まるのになんで神社には来ないのかしらね」
「簡単な話よ」
さらっと愚痴をつぶやいた霊夢の後ろに、人の目のような形をした黒い穴が出現する。その穴から出てきたのは紫を基調としたドレスを着た、妖艶で黒い何かを抱えているような雰囲気を放つ女性、この急な現象にはさすがに人里の者も驚き後ろに下がった。
「あなたが妖怪と仲良く宴会なんかしてるから、一択でしょう?」
「その宴会に毎回来てるのはどこの妖怪かしらね、紫」
−境界の妖怪−一人一種のスキマ妖怪八雲紫、他に類を見ない特異な能力を持つ妖怪であり、境界を操る程度の能力という神出鬼没の力を持っている。幻想郷最古参の妖怪の一人で博麗大結界にも携わっている大妖怪だ。
「あら、別に呼ばれてない人は言っちゃいけないなんてルールないでしょう?」
「まず誰も呼んでないわよ、勝手に来て勝手に始めるのはあんたらでしょ」
「追い返さないのは楽しいから……ではなくて?」
「もーあんたと話してるとわけわかんないのよ! とりあえず私は調査中だからどっか行ってて!」
「大丈夫よ霊夢、この木からは何も感じないわ」
「へ?」
紫の言葉に口をへの字にして返事してしまう。いつもは多くを語らず、異変の時も姿を現さない時まである紫がまさか異変調査に口を出してくるとは表いなかった。
「問題ない、と言ってるの。結界にも干渉してないしまさにただの観光地、放っておいてやりなさい」
「う……まあわかったわよ、じゃあ私は帰るからあんたも早く外どいときなさいよ。周りの人が怖がてるでしょ!」
「あらごめんなさい」
そのあと人目も気にせず飛び帰った霊夢だが、あることには気づけなかった。否、気づくことができなかった。
紫の長いドレスが隠す地面に、蛇のような鱗が地面から生えるように突出していることに。
「霊夢さーん!」
「あ、文。何か用?」
「異変調査どうでした? なにかありました? なにかありました!?」
「あーもーうっとうしい、何も無かったわよ!」
新聞のネタができると思ってきた文だったが、霊夢の報告を聞いてがっかりとしている。
「もう諦めときなさい、あれが異変じゃないって紫が言ってたわ」
「八雲紫さんですか?」
返事もせずに霊夢は首だけで返す。それを聞いた文の瞳になにか変な光が灯り、ものすごいスピードで妖怪の山まで帰ってしまった。
「なによ、どいつもこいつもあんなただの木を気にして。私は誰かに言われなかったら言ってないわよあんなとこ」
愚痴をこぼしながら浮遊し神社まで帰る。と、神社の縁側にはどこかで見たような銀髪のメイド服を着た女性と青髪にピンク色のドレスを着た、あきらかに幼女のような風貌のコウモリの羽を生やしたお嬢様が座っていた。
「めんどくさいのがまた……ちょっと、招かれていない家には入れないんじゃなかったの?」
「招かれたことがない家には、よ。一度でも招かれてたら後は自由なの」
レミリア・スカーレット、後ろで立っている銀髪メイドは−完全でな従者−人間でありながら時間を操る程度の能力という驚異の力を持つ、十六夜咲夜だ。
この二人が紅魔館の住人の二人、レミリアが統率し、咲夜がサポートをしている。
「博麗の巫女に直々に依頼よ」
「依頼って、今はこれといって異変も何も起きてないじゃない」
「美鈴とフランがいなくなったわ」
この言葉を言った途端、全員の空気が一転。真剣な顔へと豹変する。
なぜなら、さっき名前が出た二人は異変に巻き込まれることなどない、巻き込まれたとしても問題ないほど強いからだ。
紅美鈴、気を操る程度の能力を持つ紅魔館屈指の実力者にして拳法による格闘術は一級。
フランドール・スカーレット、禁忌とされ使用は禁じられているが、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力をもったレミリアの実妹にして、レミリアを凌ぐ力を持った−悪魔の妹−
レミリアから事情を聞いたところ、美鈴が一緒に行くということを条件にフランと二人で夜に摩天龍を見に行ったらしいが、それ以来帰ってこないという。摩天龍の周りや幻想郷中を探したが見つからず、異変の可能性を感じて霊夢の場所にやってきたらしい。
「受けてくれるかしら?」
「うーん、でも確証がないからわからないわね。今のところあの摩天龍にも怪しところはないし」
「そう、じゃあ考えておいて。ちなみに受けてくれたらあんたのところの賽銭箱、いっぱいにしてあげるけどね」
「えっ!? いまなんて……?」
振り返った時には、すでにレミリアはいなかった。そして置手紙が縁側に置いてあることに気づく。中を開くと、咲夜が書いたであろう綺麗な文字で
『お嬢様は、妹様がいなくなってしまたことを大変ご心配になさっております。門番である美鈴が付いていたにもかかわらず不甲斐ない紅魔館の者の頼みですが、どうか妹様と美鈴を救ってはくれないでしょうか?』
「一言くらい喋っていけばいいのに、全部レミリアに任せて自分は手紙だけだなんて、嫌われてるのかしらね」
霊夢はその手紙を懐に入れて、魔理沙の元に向かった。