夜とカーテン
彼は朝靄とともにやってくる。
ドアにつけたベルが鳴り、彼女はそちらを振り返る。期待した通り、ちょうど人が一人通れるだけ開いたドアから、朝靄とともに、彼が入ってきた。いつもと同じ時間。いつもと同じ灰色の服。店は開いたばかりで、客は彼しかいない。彼女の目元がごくわずかに緩む。だが彼は彼女を見ていない。彼女はそれを知っている。小さな会釈をすると手元に視線を戻し、トレーに焼きたてのパンを並べていく。
小さな店の中は、あたたかな匂いで満ちている。パンはふっくらと芳しく、忙しなく立ち働く彼女の頬も柔らかくあたたかい色をしている。彼だけが、乾き、冷たく、老いていた。彼の痩せた肩にはまだ外の寒さがまとわりついたままだった。
いつものように彼は二つパンを取り、勘定台に向かう。彼女もそれを察知して、彼より先にそこに滑り込む。彼は毎日義務のように店内を一回りするけれど、買うのはいつも決まっている。たっぷりのバターで縁が透き通ったクロワッサンを一つと、丸いふわふわとした甘いパンを一つ。それだけだ。
紙袋にパンを入れ、いつもと同じ金額を告げる。彼はつかい込んでいるものの上等な革の小銭入れからいつものように硬貨を一枚つまみ出した。手袋をしていない指先は血の気が引いて灰色がかっている。爪は短く切られて清潔だが、整えられてはおらず、縁が不恰好だ。彼女は労働で表面こそ荒れてはいるが丸くみずみずしさを存分に湛えている手を差し出した。手のひらに冷たい硬貨と、それよりさらに冷たい彼の指が触れた。
釣りとパンの袋、それと簡単な挨拶を渡すと、彼は曖昧な会釈とも相槌ともつかない動作を返し、彼女に背を向ける。ベルが鳴ってドアがちょうど一人分だけ開き、彼は朝靄の街に戻っていく。彼女はその後姿を見つめている。襟にかかるぱさぱさの灰色の髪。そこから覗くやや大きな耳。ほんのわずか前に傾いた背。どこかが悪いのか、右より少しぎこちなく見える左足の運び。そして、すべての動作が無造作だ。誰かが自分の後ろ姿に注視していることなど想像したこともないのだろう。
ドアは閉まり、彼女の視界から彼は完全に姿を消す。彼女は受け取った硬貨を感触を確かめるように弄ぶが、すぐにしまった。またベルが鳴り、ドアが開く。朝靄とともに、彼ではない誰かがやってくる。
仕事が終わるのは夕方だ。彼女は売れ残りや形の悪いパンが入った袋を持って、街を歩く。無造作にひっつめた髪。分厚く硬いごわごわとした服。そんな質素そのもののような姿でも、わずかに見える肌や殺しきれない身体の柔らかな線から彼女の若さは匂う。男たちは匂いのもとを確認するように、彼女の全身を盗み見る。そこに具体的な欲望は希薄だ。ただ、判断があるのだ。彼女は見られ、値札をつけられる。彼女は俯き、足早に進む。知らない男たちに貼られた見えない値札をまとわりつかせて。
あの人は私を見ない。あの人は私の顔も、私が若いことも、私が女であることにも、もしかしたら知らないのかもしれない。
彼女は彼について考える。毎朝やってくる初老の、ひどく静かな男のことを。声も佇まいも仕草も視線も、すべて、とても静かだ。体温までも。彼女は冬でも柔らかく湿った手のひらを握りこむ。今朝の、掠めるほどのささやかな接触を思い出す。いたるところに皺の寄った、つめたく乾いた指。毎朝見たその指を、彼女はかなり正確に思い描くことができる。意志を持って観察して、頭の中に彼の知らない彼の似姿を作り出している。
あの人は私が自分を見ていることなんて知らない。想像もしていない。そんなことを生まれてこの方一度も考えたことはないだろう。私よりもずっとずっと長く生きているはずなのに。
それがどういう人生なのか、彼女は思い描くことはできない。指とは違い、見たことがないからだ。見てみたい、と願うが、決してこの先も見ることはないだろうとも思っていた。それでかまわなかった。隠れた場所を見たいとは思わない。ただ無防備に晒されてる場所を、彼に知られないように見つめる。それで十分だった。隠されているものを暴こうとすれば、彼は自分を見つめるだろう。それは恐ろしい想像だった。
家へと続く道を、ふと思いついて一本外れる。洗剤が切れかけていたのだ。買いに行かなくてはいけない。いつも何かがなくなっているか、なくなりかけているのだ。人ひとりの生活を維持するというのは、なんと骨の折れることだろう。公園の近くの雑貨屋を目指して歩く。その前に、小腹がすいたので公園でパンを一つ食べよう。そう決めて、彼女は足取りを軽くする。
日は傾き、影はずいぶんと長くなっているが、まだ夜が来るには時間がある。彼女は公園に着くと、ベンチを探した。ベンチはそこかしこにあるのだが、恋人同士や親子や老人が腰かけ、今日一日をよいものにするための和やかな語らいに使われていないものは多くない。彼女は歩を緩め、けれど立ち止まらず、公園を進んだ。
そして、灰色の外套を見つけた。彼だった。ほんの指の先ほどの大きさにしか見えなかったが、彼女はそれが彼だとはっきりとわかった。彼女の目はいつでも彼に飢えていたのだ。彼女は素早く彼の背に近づいた。彼は明らかに歩くことだけを目的としているゆったりとした歩調を保っていたので、忍び寄るのは容易だった。そのとき、彼女は何も考えてはいなかった。たとえば雑草に紛れて咲いている可憐な花やしなやかな猫。そういうものを見かけたのと同じだった。近くで見たい。それだけだった。
彼の上等な靴と石畳が立てる音が聞こえるほどに近づくと、彼女は急に胸が高鳴って、息を詰め、足音も殺した。彼は変わらずゆっくりと歩いている。彼女は歩調を緩め、少し彼から遠ざかった。頬が熱かった。胸に紙袋を押し当てて、彼女は彼の後をついて回った。
外を歩く彼は店で見る彼よりも大きく、色鮮やかで、気難しそうだった。この人は生きているんだ、と彼女は改めて思い、後をつける自分が後ろめたくなったが、欲望に勝つことはできなかった。彼の靴音を聴き、彼の歩みを見ていたかった。
彼は夕暮れの公園をゆっくりと歩いた。一度も後ろを振り返らず、それどころか風景を楽しむ様子さえもなく、彼は歩いていた。彼は何も見ず、何かに見られているという意識もない。世界は彼にとって自分が動くための場所である。彼女は彼の姿から、そんな絶対的な他者への無関心を感じ取った。そして、金持ちが無頓着に投げ捨てるくずを拾い集めるように、気づかれぬよう近づきすぎないことだけに気を付け、彼の姿を盗み見た。風に揺れる彼の髪。外套を膨らませる彼の肉体の輪郭。手袋をしていない色の悪い手は、時折冷たさに耐えかねてか握りしめられ、また開く。彼は何も特別なことはしない。ただ歩いているだけだ。その姿を、全て飲み尽くそうとするように彼女は凝視する。
公園を時間をかけて一周すると、日はもうほとんど暮れていた。彼はゆったりとした歩みのまま公園を出ていく。彼女もそれに続く。街灯はすでにともっていた。やわらかな光の下で、彼の髪や肩の線がよく見えた。彼女は灯りを避けて、暗い道を歩いた。道は公園よりも人が少なく、葉擦れの音もない。彼女は足音を殺したが、どのみち彼は振り向きはしないだろうとも思っていた。
この先にはおそらく、彼の住居がある。
そのことにようやく彼女は気づき、興奮で胸が痛くなった。彼の住んでいる場所。そこで彼は食事をし、眠り、楽しみ、悲しむ。その場所を確認できるのだ。それを知ったからといって何ができるわけでもない。だが知ることと知らないことには、大きな差があった。少なくとも彼女にとっては。
興奮に合わせて速度をあげそうになる足をどうにか抑え、彼女は彼の後を追う。それほど長い時間ではなかった。彼はあるアパートの前で立ち止まった。彼女の住む小さく汚れたうるさいアパートとはまるで違う、毎日管理人が掃除をしている、静かで金を持っている人々が住むようなところだった。彼女は物陰にそっと滑り込み、その建物を眺めた。そこで彼が生活していると思うだけで、今まで一瞥もくれずに通り過ぎたことがあるかもしれないその建物の全てが特別だった。この外壁を気に入って彼はここを選んだのかもしれないし、この階段は彼が毎日上り下りしているのだ。
彼女は通ってきた道順を頭の中でもう一度辿り、その建物の外観的特徴を覚えようとした。毎日ほとんど同じ道を通って暮らしている彼女は道を覚えるのが得意ではなく、昼間もう一度ここに辿りつける自信がなかったのだ。そのため、彼女はその青年に気づくのが遅れた。
青年はうつくしかった。彼自身が光を生み出しているようなうつくしい青年だった。彼女は息を飲んだ。心動かされたわけではなく、そのうつくしさに単純に驚いたのだった。アパートの前に立った青年は、大理石からたった今彫り上げたような白い顔を、まっすぐ彼に向けていた。彼の後ろにいる彼女からはその姿勢で推察するほかなかったが、彼もまた青年を見上げているようだった。
青年が彼に近づく。その動作は堂々としていて、生まれてこのかた一度も他人に拒まれたことがない人間であることを示していた。青年は彼に何事かを告げ、彼は青年に何かを応える。暗がりに潜む彼女に二人の声は聴こえない。
青年の言葉に、彼は首を振る。青年は眉を寄せて悲痛な表情を作る。ほんの少し顔の一部が動くだけなのに、そこには彼女が見たこともないような完璧な悲痛さが再現されていて、彼女は感心してしまう。だが彼の無関心はそこに描かれた悲痛さにも破られなかったようで、もう一度首を振ると、青年の横を通り抜けて、アパートの中へと消えていった。彼の軽い靴音が、沈黙の底へと沈んでいく。
彼女はもう青年のことは見ず、暗がりからひっそりと忍び出ると、アパートを見上げた。彼と誰がどういう関係なのかに、興味はなかった。彼女の興味はただ彼の営みに注がれていた。この窓のうちのどれが彼の家なのだろうと考える。彼は一人で暮らしているのだろうか。明確な根拠はないが、そうだろう、と彼女は思っている。誰かと暮らすような男とは、彼女の目には見えない。
じきに、ある部屋の灯りがついた。あそこだ。彼女の頬がやわらかくゆるむ。あそこが彼の部屋。あれが彼の灯り。カーテン越しの灯りは他の部屋と変わらないものだが、彼女にはその窓だけが特別に明るく、特別に優しい色をしていた。彼女はうっとりとその光を眺めた。日はすでに完全に沈み、夜が始まっていたが、そこを動く気にはなれなかった。彼女の瞳はまだその光に飢えていた。
その行為に完全に陶酔していたので、彼女はまた、青年に気づくのが遅れた。
青年は何事かを話していたが、彼女は最初それが自分へのものとはまるで思わなかった。青年はうつくしい顔と体を持ち、髪型はきれいに整えられ、着ているものは全て上等だった。彼女が見つめる彼と同じように、その青年もまた、彼女とは関係のない世界の人間だった。
青年は彼女の肩を軽く叩き、ようやく彼女は自分が話しかけられていることを知った。驚きに一歩後じさり、胸に抱えていた紙袋を落としそうになって、抱え直した。見上げた青年の顔はうつくしく、開いたばかりの薔薇のように清潔で華やかだった。うつくしいものを目の前にしたときの常で彼女は青年に見とれたが、やはり心は動かなかった。青年は薔薇のようにうつくしかったが、その薔薇は皆に見られ、うつくしいと讃えられる薔薇だった。彼女が見つけたものではない。
花弁のような色とかたちのふっくらとした唇で、しかし厳しい声で青年は自分をぼんやりと見上げる若い女を詰問した。何故彼のあとをつけているのか。何が目的か。いくつかの問いを受け取り、彼女は青年が自分を怪しんでいるということは理解した。実際自分のしていることが決してほめられたことではないのは知っていたので、彼女は何かうまい言い訳を考えたが、一秒と経たずに諦めた。他人と定型句以外を話すこと自体が久しぶりなのだ。彼女は貧しい人間に特有の素直さで、上等な身なりの人間は頭脳も自分などよりはるかに優れているはずだと信じていた。嘘などつける気はしなかった。
ほんの束の間の逡巡ののち、彼女は投げやりにも似た潔さで、自分がパン屋の売り子であり、彼はその客であること、たまたま見かけた彼の姿を追ってついてきたことを正直に話した。青年は彼女の話を聞き、理解できない、という顔をした。実際理解は出来なかったが、しかし青年は彼女の語っていることを信じた。彼女の理解を最初から拒んでいるかのような拙く一方的な話しぶりは、とっつきにくいからこそ、真実の匂いがした。青年もまた、彼女と似た偏見を持っていた。生まれのために自分には備わっていない素朴さに対する憧れ。
青年は理解を示すために頷いた。青年のどんな動作も、長年あらゆる人々の視線に晒され続けた成果として、非常に雄弁だった。青年は彼女への警戒を解き、彼女もまた青年への警戒を少し解いた。今度は彼女が青年に、なぜここで待っていたのかと尋ねた。青年は外套のポケットに手を突っ込み、ほんの少しの羞恥を混ぜた微笑みを浮かべ、語り始めた。
青年の語りは内容も声も言葉遣いも彼女の予期していたよりもはるかに優しく、優しすぎるほどで、ほとんど幼児に話しかけているかのようだった。実際青年は彼女に幼児のような無垢さを投影していたし、彼女もそれを感じ取った。それは年配の男性などが彼女によくやることだった。だが反論することもなく、彼女はその投影を受け止め、青年の話に大人しく相槌を打った。目はしっかりと彼の窓へと向けていた。
青年は大学で作曲について学んでいる。彼は昔からある作曲家を熱烈に愛していた。今から三十年ほど前、彼の音楽はどのラジオからも流れ、老人も子供も口ずさみ、コンサートではこぞって演奏され、評論家は褒めるにせよ貶すにせよ彼を無視することだけは許されなかった。だがもう何年も前から彼は表舞台に立つことはなく、人々の視線をあえて避けるように暮らしている。だが作曲は続けており、まとまった作品ではないが小さな曲をほんの時折発表している。その曲は昔人々を熱狂させたような華やかさこそないが、青年の心を同じように惹きつける。青年には彼の音楽だけが本物の音楽に聞こえるのだ。他の音楽は全て本物の影にしか過ぎない。彼の音楽だけが本当に美しく、本当に優しく、本当に良い。人々の耳を一瞬で奪う派手さがなくとも、その本質は変わらない。彼は今でも自分を魅了してやまない。最近ある筋から彼がここに住んでいることを知り、何度か弟子にしてくれるよう頼んでいるが、頷いてはくれない。迷惑がられていることは本当はわかっているのだが、しかしどうしても諦めることはできない。おそらく彼が自分の話をまったく聞く気がないのが余計にその気持ちを煽るのだ。青年がどれほど彼の音楽を熱愛しているのか、それさえ知らずに遠ざけられるのがつらいのだ。
青年の語りは進むにつれて熱を帯び、最後の方は睫毛に涙をにじませるほどだった。彼女は思い出したように青年を見上げ、小さく首を傾げた。青年がどんな人間であるかは彼女にとってほとんど関心の埒外だったが、青年が悲しんでいることは彼女にとっても無視できないことだった。彼女は紙袋から甘い丸いパンを取り出して、青年に食べるか尋ねた。青年は不意をつかれ、断ることを忘れてそれを素直に受け取った。パンは朝方のふわふわした質感を失っていた。彼女も同じものを取りだして、齧りついた。青年もそれに倣った。
彼女を口にパンを残したまま、これは彼の好きなパンなのだと青年に告げた。他にはクロワッサン。いつもこの二つなのだと。彼女にとって、それは大切な財産を青年にそっと分け与えたようなものだった。だが青年はまったく感じ入ったふうもなく、おざなりにパンの味を褒めた。彼女はまた窓を見上げた。パンをもう一口齧る。唇に冷えたパンの皮の感触。噛んでいると、口の中にバターの香りと甘さが広がる。硬くなっていても十分に美味しい、安心する味だと彼女は思う。彼はこのパンを好んで食べる。この甘くて安心する味のパンを。それは彼女にとっては大切なことだった。隣に立つ青年には、しかしそうではない。彼の指や耳の形など、彼女にとって大切な彼の一部は、青年にとってはまず目に入らないのだろう。青年にとって彼の指は音楽を生み出す指で、彼の耳は音楽を聴く耳で、その機能にしか興味がないのだ。彼女は彼の作る音楽を想像しようとする。彼の指が握るペンが五線譜の上を滑る様を、そこから生まれる音楽を。しかしできなかった。彼女の耳には何も聴こえない。本物の音楽など聴き分けられない彼女の耳には。
彼の窓を、二人で見上げている。同じパンを齧りながら。カーテンの向こうで、影が動く。二人は息を飲む。彼女はそのちいさな影に、彼の姿を見る。ゆっくりとした歩き方。ぱさぱさの髪。つめたく乾いた皺の寄った指。動いている彼の姿。だが、青年はそんなものは見ない。青年はそこに音楽を聴くのだ。彼が生み出す、彼女には聴こえない音楽を。そして彼は、自分を見つめる四つの瞳のことなど何も知らない。カーテンの向こうで、彼は彼のしたいことをする。誰の視線もないものとして。
青年も彼女も何も話さず、そこに立って、窓を見上げている。彼女は考える。もし影が動いて、大きくなって、カーテンをめくって、そして彼がカーテンを開けて、ここに立つ私を見つけたら、私はその瞬間、彼を見つめることをやめるだろう、と。見つめたい、という気持ちさえなくなるだろう、と。
夜はひっそりと彼女をひやし、彼女は肩を竦め、小さな体をますます小さくする。隣に立つ青年を見上げる。寒く暗い夜の中で、青年の瞳は熱っぽく光っていた。青年はカーテンが捲られることを望んでいるのだ。彼女には決して持てない種類の望みで、それを抱く青年が、彼女には眩しかった。
彼女はパンを齧り、青年の願いが叶えばいい、と願う。青年の言葉に彼が心を動かせばいい。青年が彼を見つめる熱量のほんのわずかの分だけでも、彼が青年を見つめればいい。だがそれを口には出さない。口に出すほどのことではないと考えるからだ。
二人は一言も話さない。二人に話すべきことはもう何もない。パンはもう食べてしまった。彼の窓のカーテンに、時折影が映る。二人はそれを見る。その影にそれぞれ違う、だが大切なものを思い浮かべて。そうやって、二人は立ち去ることができないでいる。何も話さず、お互いを見ず、でも相手がそこにいることは知っている。二人は動かない。
夜はゆっくりと深まっていく。