表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デッドエンドのその先へ  作者: 美真
プロローグ
1/30

デッドエンドへ向かう物語



菫子(すみれこ)、今度この子に会いに行くわよ」

「ん? かあさま、このこはだれですか?」

「この子はね、母様の友達の子供なの。もしかしたら……菫子の将来の旦那様になるかもしれないわね!」


 豪華な家具や調度品が並ぶ広い部屋の中で、女性と少女がソファーに座っている。そして女性は楽しそうに、少女は興味深そうに一枚の写真を眺めていた。


「ふぁ! とってもしゅてき!」


 写真に写るのは一人の少年。少女と同じ年頃だが、幼いながらも利発そうで整った容姿をしている。見目麗しい少年の姿に、少女はふっくらした頬を薔薇色に染めた。


 しかし、その少年の顔にどこか既視感を覚えた少女は、少しだけ首を傾げる。

 そんな少女の様子に気づかず、女性は笑みを深めて告げた。


「彼は鷹ノ宮和樹(たかのみやかずき)くんよ」

「……た、かの……みや……かず……き?」


 その名前を聞いた少女は、目を見開き固まった。

 少年の顔と、名前と、自分の名前が、ぐるぐるとピースを合わせるように脳内に駆け回る。


 そして。


 カチリッと何かがはまった音が鳴り響いた瞬間、少女は記憶の渦に呑み込まれていった。




『――! やっと和樹ルートのトゥルーエンド達成したわ!』

『へぇー、それはおめでとー』

『何よその反応はー。つまんない。――もやらない?』

『私、乙女ゲームには興味ないからパス』

『やってみなきゃわからないでしょ! はい、お姉ちゃん命令』

『えー』


 知らないはずの光景が、映し出される。


『ちょっとお姉ちゃん! この子めっちゃえげつないんだけど!?』

『んー? あ。みんなのトラウマ登場』

『嫉妬に狂った女って怖い!』

『こんなのでビビってちゃダメだよ。後半はもっと病んでくるから!』

『うぇー……もうやだよー』


 二人の女性がテレビの前に座り、映し出される映像を眺めている。

 ゲームのコントローラーを握る女性は嫌そうにしながら。その隣で指示をしている女性はニヤニヤと笑いながら。


 少女にとって、知らないはずの光景。


 なのにそれは、とても懐かしく感じた。

 愛おしくて、胸が苦しくて、泣きたくなるその光景は、少女にとってとても大切な思い出――


『あーやっとクリアしたー』

『おめでとー! さて、次どのキャラにする?私のおすすめはねー』

『やめて! もうこれ以上私にあの子を見せないで!』

『あはは! ――もトラウマになった? このゲームって乙女ゲーで萌える人より、あの子がトラウマになる人の方が多いゲームなんだよね』

『それってもはや乙女ゲームって言えなくない!?』


 そしてテレビの画面に映し出されたのは、少年と少女が愛おしげに抱き合う仲睦まじい絵。

 一人はうっとりしながら、一人はげっそりしながらその絵を眺めている。


 この絵を、映し出された二人の少年少女を、少女は知っていた。


『ちなみにこのゲームにR指定がかかっているのは、そのせいなんだー』

『確かに最期とか重すぎて子供には見せられないよね……』

『そうそう。しかもあの子ね――』



 突然、少女の胸が嫌な音を立てて騒めき出した。


 不安と、恐怖と、悲しみで埋め尽くされる。



 「この先は聞かないで!」と、少女の中の誰かが叫んでいた。



 でも、それに抗う術はなく――




『――全ルート、全エンドで死ぬんだよ』




 ――死




【もうこれ以上和樹くんの心を傷つけないでっ!】

【お前なんかと婚約者であったことが、俺にとっての最大の汚点だ】

【わ、わたくしは……わたくしは貴方のために……!】


 男に肩を抱かれ、泣きながら愛する男の婚約者であった女を断罪する女。

 涙する女を抱き留めながら、婚約者であった女に軽蔑な眼差しで侮蔑する男。

 多くの蔑みの視線に晒されながらも、なお愛する男に縋る女。


【お前には失望した。この先家の敷居を跨ぐことは許さん】

【何て事をしたの!? これからどうやって償っていけばいいのですかっ!】

【貴女は桐島家の顔に泥を塗ったのよ】

【二度と僕の前に顔を出さないでね】

【……どうして、そんなっ】


 視線すら向けずに娘であった女に、絶縁を突きつける男。

 娘であった女の頬を叩き、これからのことに涙する女。

 女を見下しながら、言葉を吐き捨てる姉であった女。

 冷笑を浮かべて、女の荷物を放り出す兄であった男。

 かつて家族であった者達の言葉に、項垂れて涙する女。


【これからはずっと一緒だよ? ……だからさ】

【な、何をなさるつもり!?】


 ナイフを(かざ)し、狂気した笑顔で蒼白の女に近づいていく男。

 迫りくる男の狂気に為す術がなく、ただただ恐怖する女。



 そして。



 男が振り上げたナイフが、




【一緒に死んでよ】




 女の目の前に迫り――





【菫子】





「――あぁあああああああああ!!」



 その瞬間、桐島菫子(きりしますみれこ)は断末魔にも似た奇声を発しながら意識を手放した。




 この時、桐島菫子は思い出した。


 自分の前世の記憶を。



 この時、桐島菫子は気が付いた。


 ここは乙女ゲームの世界であることを。




 この時、桐島菫子は知った。



 ――自分の未来には、死しかないことを




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ