あいつは本当に意味がわからない。
西条風月に来た大翔からのメール。そのメールから全てが始まった。
登校時間ぎりぎりに教室に飛び込んできた風月。もう七月の半ばだというのに大きなマスクをしていた。今まで走っていたのだろう。息遣いの荒い風月はとても苦しそうに見える。風邪なのなら仕方がない。授業時間ぎりぎり、今言うことでもないだろう。そう判断して、私は風月に声をかけなかった。
午前中の授業が終わった昼休み。風月は私の元に走ってきた。性に合わない可愛らしい走りをしている。
「あのね、もー。あの後ねー。」
私にぶつかるようにして止まった風月。おかげで腰を教室の後ろにあるロッカーにぶつけてしまった。痛いんですけど? 腰を擦る私なんてお構いなしにいきなり話を始めたが、昨日のことだとはすぐにわかる。なぜなら、昨日の帰りから風月とは一言も話をしていないから。
「えっ? あぁ、大翔のこと? 」
私は先生に提出しなければいけないプリントを風月に見せながら言った。
「ふーも行く! 」
自分のことを可愛らしく『ふー』と呼ぶ風月。本当に、性に合わない。
「うん、いいよ? 」
一階下の職員室へ行って帰って来る間、風月の話は全く進まなかった。いや、進んでいたのかもしれないが私にはそれすらもわからなかった。本当に風月の話はまとまらない。
教室に戻ってから私は自分の席に座った。隣の席の椅子を引いた。どうぞ、という言葉と一緒に。嬉しそうに半分跳ねながら風月が腰を下ろす。
「それで? 大翔とはどうなったの? 」
全然終わる気配のない風月の話にしびれを切らした私は尋ねた。だけど、反対にそれに風月は機嫌を良くしたみたいだ。
「付き合うことになったー、もー、大翔ったらー、どーしてもーって言うからー。」
その内容がそこまで勿体ぶるほどの話なのだろうか? それとも、こういうことを思ってしまう私が冷えているのだろうか? 私にはわからない。隣で幸せそうに微笑んでいる風月を見ながらそう思った。ん? 待って、あのことは?
「ねぇ、風月。前も大翔と付き合ってないっけ? 」
私の言葉にまたも可愛らしく首をかしげる風月。あれ? マスクしてない。私はその瞬間、ふと思い出した。風月は確か大きなマスクをしていたはず。
「マスクは? 」
私は口元を手で覆ってマスクを示した。
「あー。だって、暑くなったしー。それにー、顔隠しだからいいの! だってー、大翔に顔見られたくないんだもん。」
はっ? 顔を見られたくない? 私には風月の気持ちなんてわかるはずもない。恥ずかしそうに顔を両手で覆った風月。こういう、感情豊かのが男子は可愛いと思うのだろうか?
「あっ、ねぇ、前も付き合ってたよね? 大翔と。」
思い出したように言った私の声は昼休み終了のチャイムによって遮られた。




