118話 仲間『ファイ』っぽい
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「えっと……初めまして。に、なるわね。私はウルス・ドレット。本当はずっと静観しているつもりだったけど……こんな状況になっちゃったし、なりふり構わず表舞台に出てきちゃったこの国の第一王女よ」
「ええ、『この世界』では初めましてになるわね。私がゼロよ。よろしくね?」
「っ……流石、最強最悪の魔神様と言うべきかしら……要らないことまで覚えていないといいのだけれど?」
「さあ? どこまで覚えているかしらね――――!?」
そんな睨み合い(あいさつ)を始めたウルスとゼロに……主にゼロに対して静止の拳が下る。
「ゼロ、今はそんなに遊んでいる余裕なんてないの」
「……中々良い拳だったわ、ミーシャ……少し痛かったわよ?」
ゼロは頭をさすりながらとある人物と対峙する。
それは勿論――――。
「久しぶりね『勇志』。しばらく見ないうちに大きくなったわね」
「姉さん……」
勇志にとっては数年の、ゼロにとっては数千万年の姉弟の再会に、誰も口出しはしなかった――――。
「ま、私は記憶なくしてたからあなたが弟だって知ったの最近だけどね! しかもちょくちょく見てたから久しぶりって感じもしないわ」
「台無しだよ……姉さん……」
『感動の再会』とまではいかないが、これぐらいがちょうどいいかもしれない。と思う勇志であった。
そんなゼロが次に目に留まった存在……澪を見て小さな息を吐く。
「精神的に参ってる感じかぁ……本当は澪ちゃんが起きている時に主人に会わせたかったんだけど……」
「ゼロちゃん? 何でミオちゃんが起きている必要があるの?」
「うーん、ウルスちゃん。主人……強斎君は物凄く強い。それこそ、絶対神よりも遥かに。現に滅茶苦茶になった世界を一旦リセットしている……それは分かるよね?」
「う、うん」
「で、今の強斎君は中二病を拗らせて『自分がいなければ世界は平和に……』なんて思って引きこもっているのよ。多分」
「ち、ちゅうに?」
ゼロは大きく頷く。
「そ。私的にはぶん殴ってでも引っ張り出して説教したいところなんだけど……問題なのが力……というか、存在そのものの格が違いすぎて私じゃ見つけるだけで手一杯。引きずり出す所までいけないのよねー」
「そんな……でも、何でそこにミオちゃんが関わってくるの?」
「強斎キラー……」
ポツリと、鈴が言葉を零す。
その言葉に、勇志と大地が何かに気が付いたようだ。
ゼロも大きく頷いている。
「私たちが地球にいた時の澪のあだ名よ。強斎は物凄く運動ができたんだけど、澪を相手にすると全てにおいて澪に負けちゃうの……男女では圧倒的に勝負にならないだろう短距離やボール投げ……ゲームやくじ引きだってそう。全てにおいて「強斎との勝負」だけは澪が勝っていた……
そこでついたあだ名が『強斎キラー』。一部では対強斎最終兵器少女とかも言われてたけどね」
「おぉぅ……そこまでだったのね……。そう、あの強斎君の特殊能力『法則無効』に唯一対抗できる特殊能力……名前を付けるなら『強斎君絶対倒ス』かしらね?」
「ダサっ」
「誰よ今ダサいって言ったの!? 私の完璧で天才的な頭脳で考えたこのネーミンくぁwせdrftgyふじこlp;@:」
「はいはい、落ち着きましょうねー」
ミーシャがゼロを羽交い締めでなだめながら、鈴に話しかける。
「リンさん、非常に申し訳ないのですが……今日中に他のお仲間を集めていただけませんか?」
「仲間……あっ、緋凪達のこと?」
「はい、何というか……私のカンになるのですが、同じ世界から来られた方が全員集まったほうがいい気がして……」
「それは良いんだけど……確か、この時期はまだ緋凪達はまだ召喚されてないはずよ?」
「――――それなら大丈夫よ」
鈴の疑問に羽交い締めをされながらゼロが答える。
「この世界はね、色々と不安定なのよ。初めて世界を構築したからかわかんないけど、色々時系列や地形も変わっていてね……あの勇者モドキ達なら既にライズ王国に召喚されているはずよ」
………
……
…
「カチコミじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
ゼロは鈴を抱え、身体に影響のない速度で空を飛んでいた。
今の鈴は召喚されたてで、一般的な戦士ほどのステータスしかないためジェットコースター並みの速度に落とされているが、それでも怖いものは怖いのだ。
「ぜ、ゼロさんってそんな性格でしたっけ!?」
「あははは! 私に敬語なんて使わなくていいよ! なんたって弟の友達だしね!」
「わ、わか……ひぃぃぃぃぃぃ!? 何で速度上げるのぉぉぉぉぉ!?」
「私がこういう性格だってわかったでしょ? 記憶が完全に戻ってね、今、すっっっっごく楽しいの! なんかかくれんぼしてるみたいで」
ゼロは笑いながらアクロバティックな動きで縦横無尽に飛び回るが、抱えられている鈴はたまったものじゃない。
そんな地獄の空中ジェットコースターに乗っている鈴だが、ふと懐かしい雰囲気を肌で感じた。
「ストップ! ストォォォプ!!」
「ん? あぁ……なるほどね」
その雰囲気はゼロも感じ取ったようで、おとなしく鈴の言うことに従う。
「ごめんね、急に止めちゃって」
「いいわよ、それぐらい……それに、いるんでしょ? この辺りに」
「……流石、魔神様だこと」
「一応、精霊王の肩書もあるし……手伝おうか?」
「……ううん。これは私の戦いなの。手出しは無用よ」
鈴は苦笑い気味のゼロに降ろされながら辺りを見渡す。
ゼロの気配が一瞬のうちに消え、そして――――。
「いるんでしょ? 隠れてないで出てきなさい……『火の精霊』」
『あら、人間の癖して生意気ね』
鈴の目の前に『紅』を象徴とした少女が現れた。
「そっちこそ。ファイの癖して生意気じゃない?」
『む……私の声が聴こえるだけじゃなく姿も見えるなんて……珍しいわね。それに……ファイ? 誰のことかしら?』
「正真正銘、あなたの名前よ。火の中級精霊……私は、あなたを探していた」
『私に名前なんてないわよ? それに、私はあなたを探していないわ』
鈴はファイを呼び出す感覚で、ファイに自身の魔力を送る。
『なっ……精霊契約もしていないのに……何で私に魔力を送り込めるの……?』
「私はね、あなたと一度精霊契約を結んでいるのよ。前世……とは違うのだけど、前の世界線でね……。今、ここであなたを見つけることができたのは本当に幸運だったわ……。お願い、私に力を貸して?」
火の精霊は小さく唸り声を上げ、ゆっくりと鈴に向けて指をさす。
『言われてみれば確かにそんな気もしなくもないわ……現に私の声が聴こえて、姿もはっきり見ることができるってことは精霊契約での相性はいいってことだし……だけど』
その瞬間、火の精霊からの『圧』が鈴を襲った。
『それはそれ、これはこれよ。人間、今のあなたに私を扱えるだけの実力があるとは思わない……だから』
「実力を示す……要は実力を示せってことかしら?」
火の精霊は大きく頷く。
(ま、こうなることは大体予想できてたけどね)
本当はもう少し力をつけ、ファイの目が留まるようになってから交友を深めていくつもりだった。
しかし、ミーシャに言われた期限は『今日中』。異世界に来てから鈴の中の仲間で一番身近にいた存在を仲間外れにすることなんてもっての外だ。
(ファイの性格や攻撃の癖なんかは大体わかるけど……)
鈴は『超解析』でファイのステータスを見る。
#
???
LV5800
HP 53456/53456
MP 80000/80000
STR 6000
DEX 8433
VIT 5499
INT 9999
AGI 6821
MND 9999
LUK 100
スキル
状態異常耐性LV50
火属性LV75
HP自動回復速度上昇LV30
MP自動回復速度上昇LV50
精霊の威圧波動LV20
属性
火
火の精霊(???)
#
(いやー、普通に考えて無理でしょ)
今まで稽古等で戦ったことはあるが、稽古は稽古だ。
このように試される形で戦ったことはない。
しかも、今の鈴のステータスは――――。
#
リン・ハネダ
LV1
HP 800/800
MP 1200/1200
STR 70
DEX 120
VIT 80
INT 120
AGI 90
MND 120
LUK 100
スキル
言葉理解
超解析
作法LV3
体術LV3
状態異常耐性LV5
火属性LV5
水属性LV5
光属性LV5
闇属性LV5
MP自動回復速度上昇LV5
魔術攻撃力上昇LV5
属性
火・水・光・闇
#
初めてファイと出会ったときよりもだいぶ低いのだから。
『勿論、目一杯手加減はするわ。示すのはただ一つ、あなたの未来の可能性だけだから。気軽に攻撃してきて頂戴』
ファイはいたって自然体だ。
見せてみろ、と言わんばかりの仁王立ちである。
(ちまちました攻撃じゃ1ダメージも入らない……ま、やれることは一つか)
鈴のレベルは1……その1レベルで絶対にできないことをすれば火の精霊も納得するであろう。
「見せてあげるわ……MPを極限まで使った『王級』魔術をね……!」
………
……
…
「うぇぇぇ……気持ち悪いぃぃぃ……」
「MP切れねー。ほんと、無茶するわ」
結果を言ってしまうと、『王級』魔術は発動しなかった。
いくら人並外れたステータスを持っているからと言って、そうそう簡単に発動できる代物でもなかったのだ。
しかし……。
「「おろろろろろろろ……」」
「あっ!? ちょ、ここで吐かないで!?」
火の精霊……ファイは、鈴との精霊契約に応じた。
正確には応じないわけにはいかなかったのだ。
「うぅ、何で……こんな……」
「ふふふ、私の作戦勝ちね……うっぷ」
「こら、ただの偶然でしょ。見栄を張らない」
鈴はファイと戦う前、偶然にもファイに魔力を送り込んでいた。
正確にはファイとの魔力を共有するために自分の魔力を当てたのだが、ファイが直ぐに拒否したのだった。
しかし、以前の世界では『王級』魔術が使えていた鈴はその感覚で魔術を使ってしまい……一瞬でMP切れを起こす。それでも発動に至らない『王級』魔術は一瞬でも共有したファイのMPを使おうとする。
曲がりなりにも『王級』は『精霊級』より格上の魔術。精霊のファイには扱えるわけもなく、自分の身体で爆発しようとしている『王級』魔術を止めるために急いで鈴と契約し、事なきを得たのだった。
が、それでもお互いに大量のMPを損失してしまったのでグロッキーな姿を晒している、ということなのである。
「これから勇者モドキ達と会うんでしょ? 君たち、女の子なんだから身だしなみぐらい整えなさい」
「なら高速で空飛ぶのやめてよ……」
聞こえないふりをするゼロであった。