115話 第一王女っぽい
=͟͟͞͞( 'ヮ' 三 'ヮ' =͟͟͞͞)
「ヴェレス王女! あまり不用意に近づくのは……!」
「いえ、この方達は大丈夫です。お父様も、そんなに警戒しなくていいのですよ?」
勇志達に矛を向ける兵士をなだめ、同時にホルスの警戒を解くように促すヴェレス。
「しかしだな……いくら異世界の勇者だからと言って……知るはずのないヴェレスの名を知っている等怪しすぎる……」
ごもっともな疑問だ。
勇志達は知っているが、この時間軸ではお互い初対面なのである。
「まぁ、それは色々あるのですよ」
何故かヴェレスも記憶を持っているようだが、その事をホルスに説明する気はないようだ。
いや、この状況を勇志がどう対応するのか見守っているともいえる。
勇志としては珍しく考えなしに先程の事を口走ってしまったので少し慌てていた
「だが――――「あぁ、もう、じれったいわね」」
ホルスが何かを言いかけた瞬間――――何かしらの魔術が使われた。
「っ!?」
勇志は咄嗟に魔力弾で打ち消しを試みるが、その魔術は魔力弾をすり抜ける。
これにより、攻撃魔術ではないことが明らかになったので防御魔術を展開しようとするが―――如何せん、時間が足りなかった。
自分ひとり分の大きさの防御魔術を展開したところで、その魔術は部屋全体に行き渡る。
「……へぇ、ステータスは初期値のままのはずなのに……よく弾いたわね」
そんな声とほぼ同時に、勇志、大地、ヴェレス……そして、メイドの四人以外が気を失ってしまった。
どうやら、大地やヴェレスには効いていないようだ。
「これでも勇者の肩書きを持っていたものでね……それで? 君は一体誰なんだい?」
勇志はゆっくりと後ろに立っていたメイドと対峙する。
このメイドはヴェレスの専属メイド……のはずなのだが。
「ヴェレス……心当たりは……?」
「姿かたちはあの子のままですが……こんな魔術は使えなかったはず! あなた! いったい誰なのです!?」
どうやらヴェレスも気がついていなかったもよう。
そんなヴェレスを見て、メイドはクスクスと笑う。
「ひどいなぁ……私を忘れちゃうなんて……お得意の『超解析』で見てみれば? 今は『超隠蔽』一部解いてるしね」
三人は同時にメイドのステータスを覗く。
#
ウルス・ドレット
LV 35
HP 446/446
MP 1117/1117
STR 68
DEX 79
VIT 55
INT 72
AGI 65
MND 81
LUK 55
スキル
超隠蔽
作法LV4
解読LV4
剣術LV5
時空術LV3
属性
時空魔術
#
反応は二つだった。
「「ウルス・『ドレット』?」」
「お姉様!?」
勿論、前者はウルスを知らない勇志と大地、後者はヴェレスだ。
「そうだよーお姉ちゃんだよー」
「なんでお姉様がここにいるんですか!?」
「その質問はおかしくない!? ここ、一応私の家だよ!?」
そんな言い合いをしているうちに二人は勇志と大地の存在を思い出す。
「あ、えっと……姿かたちも声も違いますが……私の姉……みたいです」
ヴェレスの姉。つまり――――
「やっほー! ドレット王国第一王女でヴェレスちゃんのお姉ちゃんでーす! ユウシ君、『アマテラス』ちゃんは元気してるぅ?」
「え?」
「あれ? あ、こっちじゃ『イザナミ』だっけかな? まぁ、どっちでもいっか」
あまり聞き捨てならない言葉が聞こえてしまったが、勇志が何かを言う前にウルスがもっと聞き捨てならない言葉を発してしまう。
「とりあえず、キョウサイ君を殴りに行くなら……君のお姉さんに会いに行かないとね!」
………
……
…
「お姉様。色々聞きたいことがあるのですが……」
「まぁ、そうだよねぇ……答えられることなら答えるよ? でも……」
勇志たち四人はとりあえず最初の部屋に戻ることにした。
気を失っている人たちに関しては、ウルスが「そのままで問題ないよぉ」とのことだったのでそのままにしている。
「ミオちゃんたちを待たせてるし、そこで話そうと思ったんだけどなぁ……ヴェレスちゃんはせっかちだねぇ」
「――っ!!」
「ふふっ、かーわいぃ」
そう言ってヴェレスをあしらうウルス。
そんな二人を見て勇志は苦笑いをしていたのだが……ふとウルスと目があった。
「ユウシ君。君はもう気がついているよね? 誰が、君のお姉さんなのか」
「……ええ。ゼロさん……ですよね?」
ウルスは先程までのゆるい雰囲気を霧散させ、ゆっくりと頷いた。
「ゼロ・ヴァニタス……君のお姉さんである鈴木優華の転生体……そして、君たちがこの世界に呼ばれてしまった元凶でもある」
「元凶……」
「今から言うことは君にとって衝撃的で、ミオちゃんには聞かせてあげられない内容だ。覚悟はできているかい?」
勇志は頷く。
雰囲気を感じ取ったのか、ヴェレスと大地も歩む速度を緩め、二人が話しやすいように距離をとった。
そのことを確認したウルスはおもむろに口を開く――――。
「まず、『小鳥遊強斎』『鈴木優華』『鈴木勇志』君たちは地球人じゃないよ」
「!?」
いきなり物凄い事を言われる。
「そうだね、少し昔話をしようか……。あまりにも高い能力を持つが故に、神をも嫉妬させた……『禁忌の一族』の話を……ね」
*
その一族は異質であった。
ありとあらゆる存在から認知されない『世界』を創り、そこへ行き来する者。
山をも割り、空間さえ砕く怪力を持つ者。
知性ある『全て』を指揮する事ができる者。
そして――神をも弑す資格を持った者。
だが、その一族はその『力』を使うことは殆どなかった。
他の者と関わるのは最低限で、ただただ『普通』に生きていく。
そんな事を願っている、『力』以外は『普通』の一族……だった。
――そんな『普通』を願った一族は……ある日、『異質』と出会う。
全世界、誰が見ても『異質』といえる『力』を持った一族。その一族から見ても余りにも『異質』といえる存在。
それが現れたのは突然だった。
神をも弑す資格を持った者に弟ができ、あやしている最中であったという。
目の前に突然、弟と同じぐらいの赤ん坊が現れたのだ。
一族は困ってしまった。
今まで他の者を受け入れたことのない一族。赤ん坊とはいえ、受け入れてしまって大丈夫なのか?
そんな議論が数時間続き、ある者が声をあげる。
「この子は弟もろとも私が面倒をみる」
声をあげたのは『神をも弑す資格を持った者』であり、一族『最強』の少女であった。
その一言が大人たちへの一押しとなったのだろう。
一族は赤ん坊を受け入れることにしたのだ。
では早速、ということで一族の一人が赤ん坊の能力を覗き見ることにした。
いや、しようとした。
その者にとって、他人の能力を覗き見ることができないなんてことは今までになかった。
一族最強の少女でさえ、隠蔽を意識しないと看破されてしまうほどに優秀な者だ。
こんな赤ん坊に自分の解析術が使えない。何かの間違えだと自分に言い聞かせ、もう一度試みるが結果は変わらず。
最初は皆笑っていた。その者をからかっていた。
だが、それは次第に苦笑いに変わっていく。
認知されないはずの『世界』を認知し、干渉する。
夜泣きで大地を割り、空間さえ砕く怪力を持つ者を跳ね飛ばす。
たった一声で、絶対の指揮権を持った者から『全て』を開放する。
一族は少女に頼った。なんとかしてくれ……と。
少女は頷いた。自分の力の半分を使えばなんとかこの子に干渉できると。
こうして少女は、赤ん坊の『力』の大半を封じることに成功する。
だが、ここで二つほど誤算ができてしまった。
一つは、あまりにも強大な『力』と『力』のぶつかり合いにより、新たな『存在』を作り出されてしまったこと。
そして、もう一つは……その『力』を使ったことにより、『神』に見つかってしまったことだ。
神達はその一族を妬んだ。
神族でもないのに、自分達に迫る『力』を持っている者たちに。
そんな中、神達の中でも非常に大きな『力』を持った『神』は笑っていた。
「ようやく見つけたぞ」――――と。
その数日後、一族の『普通』の暮らしは『異質』へと変化した。
……神の軍勢がその一族を襲ったのだ。
少女の力は赤ん坊の力を封印するときに使ってしまったので、十全に戦うことができない。
一族はこのままでは滅ぶと思い、一つの賭けに出た。
一族の余力と少女の力の残り全てを使い、他の世界へ少女とその弟、異質な赤ん坊を逃がす。という算段だ。
少女は無論反対した。「まだ戦える」と。
大人たちは笑って言った。「弟とその赤ん坊の面倒を見るのだろう?」と。
少女はその言葉に固まってしまう。その隙をついて指揮する者は少女の身体の自由を奪った。
無理やりにでも少女の力を使い、少女たちを異世界に避難させたのであった。
*
「……ま、これがごく一部に伝わっている『禁忌の一族』の話。作り出された新たな『存在』は私もわかんないけど……それ以外の事なら大体わかるんじゃない?」
「僕と姉さんが……その一族……」
「そう、そして、一族に現れた『異質』の赤ん坊。それがキョウサイ君だよ」
(これは確かに……澪には話せないな)
澪は強斎に『近づく』ということを意識している……というよりも依存している。
高校に入る前ぐらいには世間体というのを理解していたので、かなり落ち着いていたのだが……。
(約二年……死んだと思われた強斎に出会って、舞い上がっていたところで突然の別れ……そんな状況で『強斎と澪は存在自体が、生まれた世界が違うんだよ』なんて話をしたら……今の状態ですら危ういんだ。絶対に耳に入れるべきではない)
「あれ……? 意外と落ち着いてるね? 自分は地球生まれじゃなくて、しかも神様たちに襲われたっていうのに」
「え? あー……まぁ、そうなんですが……澪にとっては悲報でしょうが、僕にとっては朗報というか、決心がついたというか……」
「決心?」
「僕は帰ることができても、この世界に残るつもりでした……ですが、地球に心残りもあったんです。それが、『自分達は何者なのか』と『姉さんの墓参り』だったので」
「自分たちの正体が分かって、お姉さんもこの世界で生きているから帰る必要がなくなった……ということ?」
「はい」
「ふぅん」
ウルスは何とも言えないという表情で勇志から目をそらす。
そのタイミングで一同は足を止めた。
「召喚の間……久しぶりに入るなぁ……」
「さっきメイドとして入ってきてませんでした……?」
「…………さて! 私の秘密を皆に暴露しちゃうぞぉ!!」
そう言って、ウルスは扉を盛大に開けた。
HAHAHAHA!
これも全部シリアスを書こうとしたせいなんだ…………
次から極力シリアス減らそう…………




