112話 人間VS人間っぽい
二人が戦い始めて数十時間が経過した。
その中でお互いとあることを理解する。
――――お互いに魔術が全く通用しないのだ。
それが分かってからは肉弾戦になり、体力も消耗し始めている。
「なあ、小鳥遊強斎」
「……なんだ?」
「……いや、これは戦いが終わったら訊くとする」
イザナギはそんなことを言うと、拳に魔力を込める。
「俺には魔術は通用しないぞ?」
「ああ、だからこそ……だ。俺の持てるほぼ全ての魔力を使い、お互いのスペックを地球にいた時のにする。本当はお前だけにしたかったんだが、流石化け物ってところだな。これも弾かれてしまう」
「地球にいた時の……お前が人間だったときか?」
「俺も……お前も人間だったときだな」
強斎としても、この提案はありがたかった。
お互いに自動回復する速度が尋常ではないうえに、蘇生レベルの能力を持っている。
体力は消耗しているが、一瞬で回復できる手段などいくらでもあるのだ。
このまま戦い続けたら、決着までに年単位でかかっていただろう。
「俺は今まで人間だったぞ?」
「はっ、俺と同等レベルまでたどり着ける奴が人間だ? 笑わせるなよ」
「お前も元は人間なんだろ? それも、恋人の顔をしている女を何度も殺すイカれてる人間だ」
「そうだな……これは手厳しい……な!!」
イザナギは拳で思いっきり地面を殴りつけた。
その瞬間、圧倒的な魔力が溢れ出し、暴走を始める。
(なんつー魔力だよ……)
流石の強斎も、この圧倒的な魔力の前に怯んでしまう。
自身を神にした時にステータスがバグを起こすほど上げたが、それでもイザナギを簡単に倒すことはできなかった。
逆に、気を抜けば強斎が負けてしまうほど、イザナギは強い。
そんな奴の全力魔力開放なのだから、怯んでしまうのも当たり前だ。
(ああ、くそっ。意識が――――)
そして、強斎は魔力に呑まれながら意識を手放した。
………
……
…
「う、く……」
「……お目覚めか?」
強斎はゆっくりと意識を取り戻し、辺りを見渡す。
場所は変わっていない。時間もそんなに経っていないだろう。
だが――――。
「地球にいた時の俺は、こんなにも弱かったんだな」
「お前で弱かったら地球から『強い』という単語が消えてしまうけどな」
イザナギはそう言いながら倒れている強斎に手を差し伸べる。
「……どういうつもりだ?」
「どういうとは?」
「俺が意識を失っている時にお前は俺を殺すことができたはずだ。なのにそれをしないどころか、こうして手まで出しやがって」
「……理由が知りたいのか?」
強斎は何も言わずにただ頷いた。
イザナギ……星川樹は差し伸べていた手を引っ込めて、顔を引き締める。
「戦いが終わったら訊く……と言ったが、今訊くとしよう。小鳥遊強斎。お前はこの世界が好きか? 楽しかったか? 地球に戻れるとしたら戻りたいか? 正直に教えてくれ」
強斎はほんの少しだけ驚いたが、答えは直ぐに出た。
「ああ、俺はこの世界が楽しいし、好きだ。別に地球に戻ろうとは思わないな」
「そうか……! 俺の勘違いじゃなかったんだな……!」
樹は心底嬉しそうに笑っていた。
そんな樹を見て、強斎は顔をしかめながら立ち上がる。
「なんだよお前、俺を殺すためにこの世界に飛ばしたんじゃないのか?」
「ああ、その通りだよ」
「にしては殺意が感じられないな。何でそんなに笑っていられる?」
そんな問いをされても樹は笑顔を止めなかった。
「俺が作った世界で俺の宿敵が楽しんでくれたんだ。嬉しいから笑うに決まっているだろ?」
「お前が……作った?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
樹は踵を返し、少し強斎と離れてから軽い準備運動を始める。
「俺は『創造神』だ。全ての種族や魔物は俺が見て、戦ってきたものをベースにして創った。ついでに、エルフがどの種族に対しても子孫を残せる設定なのは、俺が初めて性行為した相手がエルフだったからって理由だな」
「俺にはゼロがエルフには見えんのだが?」
「当たり前だ。人間なんだから」
「お前、そのエルフは恋人にしなかったのか……?」
強斎がそう口にした途端、樹は蹴りを顔めがけて放ってきた。
「うお!?」
間一髪でその蹴りを避け、十分に距離を取った。
「そのエルフはな、死んだんだよ。俺と体を重ねた次の日にな」
「魂を追いかければよかったじゃないか。ゼロの時みたいに」
「その時に、今みたいな力があったらやっていただろうな」
続けて、二段、三段と蹴りを重ねて放ってくる。
強斎は三段目の蹴りをいなし、裏拳を顔に叩き込む。
「ぐっ」
「首を捻って受け流したか……」
本来ならば今の強斎の一撃で終わっている。
相手が普通の人間ならば……だ。
「いってぇ……。久しぶりに人間に戻ったが、こうも体が動かないもんなんだな」
樹は頬をさすりながら、首の運動を軽くしていた。
「さて、俺の過去話はそろそろ終わりにしたいんだが、何か質問でもあるか?」
「……お前は神になる前、何をしていたんだ?」
樹はその質問に対して、微笑しながらこう答えた。
「色々な世界の治安を守る仕事だよ。ま、そのほとんどが殺し合いなんだけどな」
「それ、人間がやることなのか……?」
樹は溜息を吐きながら、拳を地面に叩き込む。
すると、地面に大きな亀裂が入って、近くに生えていた大木がゆっくりと倒れ始めた。
「この力を見て人間だと言ってくれるやつなんてお前ぐらいだよ」
「そりゃ災難だったな」
そう、樹もまた、人間でありながら人間の枠を超えている化け物だったのだ。
「だけどな、俺から見てお前……星川樹は人間だよ」
「……鈴木優華はそれほどの力だったのか?」
強斎は倒れている大木に近づき、殴ってへし折った。
「これぐらいのことなら、あいつは中学の頃に既にやっていたからな。高校生になって俺もかなり強くなったが、優華に届いていたかは定かではないな」
「早めに始末して正解だったってことだな」
樹は深く呼吸をして、キツく強斎を睨みつける。
「今の俺とお前は傍から見れば違うかもしれんが、一応人間だ。死ぬ可能性だっておおいにある。そして、慣れてきた体でお互いを殺し合うことになるだろう」
「そうだな。俺も早く目覚めてゼロに謝りたい。いや、それだけじゃないな。ミーシャやレイア、ルナにも心配かけているから、全員に謝らなくちゃな」
「おいおい、俺の娘を忘れてもらっちゃ困るんだが?」
「ヨミに会ったのは現実世界じゃないだろ?」
「あいつはこの世界のいわばデバッグそのものだ。お前のことぐらい覚えている」
「なら、ヨミにも謝らなくちゃな……お前の親父をボコボコにしちゃったってな」
樹はそんな強斎の言葉に肩をすくめた。
そして――――。
「「はじめようか」」
神から人間に成り下がった者同士の喧嘩がここで始まった。
樹君の過去設定は結構な量あります




