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ハスラー降臨編

チャールストンに行こうぜ!

そう言うとコウジは、

ブラックナイロンのレインコートを翻して、

もう六本木霊園の小径を駆け始めた。


チェッ、相変わらずセッカチだなと舌打ちするが、

思わず僕も顔がほころぶのを抑えきれない。

重いドアの前には、 ラクシミーがぶっちょう面して立つている。

ラクシミーオハヨー!!

コウジがハグしながら挨拶を交わす。


僕は、顎を上げて軽く親愛の礼を示す。

どうもこいつは苦手だ。

【8年後には、こいつと大親友に成るとは当然この時は知らない】

ラクシミーがコウジの耳元で神妙に何か呟いた。

コウジが振り返って、胸を張って僕に挙礼をする。


まずい。

今夜はマリーンズ【海兵隊】が来ている。

横須賀辺りにエンタープライズが寄港して、短髪 低能の白いゴリラ共を、

手前らしばらくおん出てろ!

と吐き出したのだろう。

どうする?

首を振りながら、無駄とは知りっつ尋ねた。

コウジは少し悲しげな顔をして、

唇をすぼめアルパチーノよろしく、

ミキ金曜の夜だぜ!

と首を左右上下に振った。


そうだ。

金曜の夜だな。

僕が答える前には、 ラクシミーが分かっていたとばかりに、

重いドアを開けていた。

ウェルカム・サァー

その言葉は、

地獄に落ちやがれ!

の意味に違いない。


店に入ると、

目の前にいきなりタンクトップ姿の白い壁が立ち塞がる。

生身の肩口には、スケルトンだの、イーグルだの、

自分達の部隊を表す紋章がべっとり彫られている。

おいおいベティーちゃんかよ…

ヤバい!!

ベティーちゃん野郎のどんよりとしたブルーの瞳と目が合った。

ベレー帽の記章を見ると専任曹長だ。

このふざけたtATu野郎が多分一番兇悪な地雷だ。

僕は、アメリカのTV映画に出てきそうなヘンな日本人みたいに

前歯をおもいっきり出して笑って見せた。

ファック アス!

曹長は、失せろとばかりに、手を払って背中を向けた。


ステロイドの肉の塊達をすり抜けると、ようやく音源が分かってきた。

10CCがかかっている。

イイ感じだ。

まだまだ暴れるには早い。

それとこのスメイル。

腐った包丁で、新鮮な果物を切ったらこんな異臭になるのかな!


コウジはと....視線をサーチさせると、

すでに得意のアレキサンダーフローズンを舐めながら、

ソバカスパウダーの、

白い胸元をアップした金髪女にロックオンしている。

24〜6才位

欧州系大使館のアシスタントか?

多分英語はカタコト。

垢抜けないハゲのコーディロイと距離を置いて話している。

フン、狙いは悪く無い。


金曜の夜は長い。

ワインを熟成させるように、もう少し寝かせた方が美味く飲めるだろう。

この店には、東京に来ている様々な外国人が訪れる。

そして、一夜限りのMr or Miss Goodberを探している。

その中で、日本人の僕らは、異端視される。

その視線がたまらない。

逆境アドバンテージを有効に利用させて貰おう。

英語もこの店で覚えた。

ビジネス、政治、宗教。

話題は多岐に渡り、YesとNoだけでは、会話は成立しない。

最後は共感を分かち合う事。

ウタマロレビューまでの道のりは結構厳しい。

学校の授業も即物既得成果制にすべきだ。


よう。早かったな。

いきなり背中からハガイ締めされる。

この乱暴なご挨拶はマコトだろう。

ビンゴ!

ヒロはどうした? 僕が尋ねる。

分からねェや。まだ厨房じゃねぇの。

マコトが首を傾げた。

コウジは、フリーのヘアーメイク。

マコトは、スポーツジムのインストラクター。

ヒロは、ホテルのチャイニーズレストランのコック。

そしてかくゆう僕は、コンピューターのセールスマン。

カタカナ職業が見事揃ったものだ。

胡散臭い4人の出会いのきっかけは、今はもう覚えていない。

ただ4人共180cm upの長身で、会話目線に気兼ねしない。


曲調が変わった。

DOOBIEのRONG TRAIN…だ!

おいおい、まだエンジン駆けるの早すぎだろう。

曲の合間の手拍子がお約束のナンバーで、店内が盛り上がって来た。

カウンターのPAブースでラクシミが、

ヘッドホォーン押さえてウィンクしてやがる。

例の金髪アシスタントも、ハゲを尻目にフロアで踊り始めた。

ブラックナイロンのコートが、ナメマカしくまとわり付いて行く。

コウジ仕掛けたな!

入り口付近では、マリーンズ部隊と新たに入って来たオージーのツーリスト達が、

押し合いながら歓声を上げている。

無邪気な恐竜ほど始末が悪い。


コウジは、巧みな跳ねるステップで、

金髪アシスタントの背後から耳元に、言葉をかけている。

多分何も意味ある事は、発していない。

それが作戦だ。

小首を傾げながら少し微笑んで、金髪のステップが留まった。

言葉の意味を知りたいらしい。

ガッチャ!

コウジおめでとう!

マコトは詰らなそうな表情で、時々入り口を気にしている。

こいつ怪獣を待ってやがる。

最近この店で知り合ったスウェーデン人の出稼ぎモデル。

ベッドの中での狂乱ぶりと天空を引き裂かんばかり雄叫びに、

アイツ怪獣だぜ!

とマコトが名付けて、そのまま愛称になった。


マコト怪獣は?とりあえず聞いてみた。

今日は原宿で撮影だとさ。

どうでも良さそうにマコトが生アクビする。

どうやら昨夜も一緒だったらしい。

おい!腕相撲やろうぜ!

マコトが上腕筋を腫らせながら挑んできた。

何時もの様に興味なく答えた。

やんない!

職業柄マコトのマッチョ体型は素晴らしい。

頭が弱い分、体を鍛えてきた。

と本人は謙遜?するが、マァ弱い自覚は当たっている。

でも、マッチョのベビーフェースは、外人にはモテる。

得意のゴールドジムのノースリーブで店内を闊歩すると、

花道の力士のように皆がペタペタ触って来る。


奥で、始まってるぜ。

マコトの声に促され、

ミラーの掛かっている奥のボックスを見ると、

4、5人がテーブルを囲んでいる。

IPのご開帳だ。

インディアンズポーカー通称IPと呼んでいる。

互いに自分の頭の上に一枚のカードを相手向きに掲げ、

自分以外の相手のカードを確認し、

自分のカードに向けられる相手の表情を読みとり、

金を賭けるチキンとサイコのゲームだ。

今日もダイスの胸の第2ボタンまで、

紙幣とコインが小山を築いている。

爺さん又勝つてるぜ。マコトが僕に囁く。

まるで自分事のように軽く会釈を返し、

ダイスの隣の席に僕は座る。


Hi Dice.

小さく声を掛けるが、

ダイスは、頭に巻いた赤いペイズリーのバンダナにハートの9を差したまま、

正面を見据えて、微動だにしない。

テーブルに置かれたシワだらけの浅黒い手の甲には、

大小のサイコロの絵柄が彫られている。

その手の甲に僕は、軽く自分の拳でスタンプする。

ダイスの唇の端が微かに笑みを称える。

9の数は、相手の表情、仕草からダイスにはもう分かっている。

Why?ある晩コテンパンに負けて、聴いた事が有る。

その時ダイスは、周りを見渡し、さも秘密を打ち明けるように、

僕に囁いた。

それは、俺がハスラーだからさ。


シット!

正面の赤ら顔の男が、勝負を降りた後、自分のカードを見て、悔しがった。

キングだ。

既に降りていたプレイヤー達から一斉に歓声とブーイングが起こった。

歓声は9のハスラーに、

ブーイングはキングのレッドチキンに、

テーブル中央の紙幣が、ダイスの手元に集められた。

Hie Miki.

そこで初めてダイスが、僕に言葉をかけた。

小さなハイタッチを握手に変化させながら、

ユー・ガリィット!と称えた。

ダイスは金をジーンズのポケットに詰め込み、席を立つ。

カモからフレンドに少し昇格した僕とは、勝負をしないらしい。

サンキュー。


ダイスが去った後、マコトも加わりゲームが再開された。

僕はほぼ同額で勝ったり、負けたりを繰り返した。

ダイスがハスラーを自任した夜、彼はギャンブラーとハスラーの違いをこう続けた。

大きく勝ち、大きく負けるのがギャンブラーで、絶対負けないのがハスラーなのだと…。

マコトが隣で、スペードの2をかざして、他のプレイヤー達を威嚇している。

マァ本人自分のカードは分からないのだが、

向かいのドイツ人の新聞記者が、笑いを噛み殺しながら、

今夜最高のカードだと、マコトに賞賛を浴びせている。

ファック!マコト信じやがった。


クレージーホースが、狂乱の疾走を始めた。

その馬場に金が集められる。

そう、マコトのお陰でプレイヤー全員の高揚が、紙幣の山を築き上げて行く。

ドイツ人の新聞記者は10。

左隣のイタリア人の牧師様は4。

OHジーザス!

僕の正面のレッドチキンは7。

自称ブランドバイヤーの赤毛のナンシーは9。

そしてマークすべきはマコトの隣のテキサスカウボーイ ビルの12だ。

ダイスの残したクラブソーダのゾンビグラスに何気無く目をやる。

グラスにぼんやりと壁のミラー越しに迂回した僕のカードが映し出されている。

絶対負けないハスラーの仕掛けだ。


Good luck is good fake.

ダイス先生のご指導宜しく、餌は入念に撒いて来た。

マコトの暴走も有るが、タイミングは、程良い頃だろう。

僕のカードは11。

皆が自分のカードを知らない状況で、ビルの次に強いのは、ビル以外は知っている。

ビルと僕に勝つには、自分達のカードが13かAで有ることだ。

そして、その事をギリギリまで信じ込ませる。

コウジが金髪の腰に手を回して、

ニヤニヤと勝負を観戦しに来た。

アレキサンダーフローズンのお代わりを2人分注文している。

テーブルを指差して、僕のツケにしゃがった。

コウジも勝負所を知っている。


ゲームメイクはこうだ。

先ずはドイツ野郎をチラチラと気にしながら賭け金を上げて行く。

次にビルに対しては、一切無視した態度で臨む。

つまり11の僕が10に怯えて、12に強く出る印象を植え付ける。

12<11<10

不思議な数式が場を支配すればこっちのモノだ。

ビルが、僕の11にビビり始めて来た。

ベット(賭金の上乗せ)を躊躇している。

ここらが勝負所だ!

ビルを見据えて一気にベットを積み上げる。

ビルの息使いが乱れて来た。

降りた…後はドイツ野郎を引っ張るだけだ。

完全に自分のカードが12 13 Aのいずれかの数だと思い込んでいる。


先行馬としての役割が終った事を悟ったマコトは、

勝負降りて僕の背後に廻り、肩を揉み始めた。

痛いよ!

迷惑な援護射撃だ。

ナンシーは、綺麗にマニキュアされた爪をギザギザに噛んでベットを迷っている。

レッドチキンは、ビルが降りた後にカードを投げて、

今夜はツィて無いと大きく溜め息を吐き出し席を立った。

イテテッ痛いよマコト!

マコトの握力がMAXで止まった。

見上げると店の入り口をヨダレを垂らしながら注目している。

怪獣が来たな!

僕の肩を放り出すと大きな子犬が、尻尾を振って駆け出した。

ワンワン・ガォー!


ハロー!ハロー!

陽気な高音を発しながら、ヒロが現れた。

両腕には、ハイテーン思しき2人の女の子を抱えている。

左右を嬉しそうに、見比べながら、僕に舌を出す。

早く終わらせ無いと両方とも頂いちゃうぞ!のサインだ。

分かった待ってろ!

勝負に集中しょう。

僕は11

ドイツ野郎は10

ナンシーは9

牧師は4

この場で一番強いカードは僕だ。

牧師はロザリオにキスしながら神に勝負の行方を尋ねている。

ナンシーは手元の紙幣を丸めて、ラバーで結わい始めた。

勝負に勝つ前に、自分の爪が無くなる事にやっと気付たらしい。


ナンシーが立ち去り際に、

僕の右頬にキスして good luck baby,と囁いた。

そして名残惜し惜しそうに僕の頬から肩先に指先を辿らせる。

sorry.

僕には君はゴージャス過ぎだよ。 

僕は目でそう答えた。

ナンシーは無言で分かってるわ、とうなずき踵を返した。

ドイツ野郎が牧師にベットを催促している。

牧師は神の赦しを得られたのだろうか?

僕はゾンビグラスのソーダを一気に飲み干し、手持ちの紙幣を全て押し出した。

こいつには、もう用は無い。

ウェーターに空のグラス を差し上げ、手を振った。

ダンケッシュ&グラッチェ。


ドイツ野郎も僕と同額をきっちり数えて、紙幣の四隅を揃えて最後のベットを差し出した。

牧師には僕とドイツ野郎との勝敗は分かっているが、

果たしてそこに自分が参加すべきか躊躇している。

チッ。

ドイツ野郎がわざとらしく舌を鳴らした。

牧師は憐れむようにドイツ野郎を一瞥すると目の前でクロスを切った。

まるで、エクソシストに立ち向かう聖者のようだ。

牧師の手が自分の金に触れた瞬間、僕に何かが降臨した。

エヴァンゲリ(福音書)の使徒達に最後の勝負の教えを尋ねたのかい牧師様?

僕のジョークに牧師は不思議そうに目を細めた。


〜マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ… 4人の使徒達がイエスの言葉を伝えたもうた〜


牧師は、自分のミッションを改めてめ思い出したかの様に触れた金を上着のポケットにしまい込んだ。

そして立ち上がり、

神の祝福があります様にと、

僕とドイツ野郎に嬉しそうに告げて立ち去った。

メリークリスマス!

…には早いが、今夜一つ位いは僕も良い事が出来たらしい。

ドイツ野郎は、鼻をつままれた様に牧師の後ろ姿を見送っている。

いよいよ、ベルリンの壁の陥落に取り掛かろう!(7年後に実際壁が崩壊した時には驚いた。)

コール!

ヒロが声を掛けた。


We say call!!

We say call!!

We say call!!

マコトが怪獣と、

コウジが金髪アシスタントと、

ヒロが二人のハイティーンガールズと、

僕らのテーブルを囲んで一斉にに連呼し始めた。

ドイツ野郎はその時自分のカードが、僕に絶対及ばない事を悟った。

ガッテム!

ドイツ野郎がカードをテーブルに投げ放った。

カードは放物線を描いて、静かに王子が鎮座した。

僕はその上に女王を重ねた。

God save The Qeen.

愛しき女性達に祝福あれ!

ヒロの右側の女の子を引き寄せて、頬にキスする。

そして、山積みされた紙幣を宙にバラ撒いた。


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