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青春爆弾

少年少女爆発 少女Bサイド

作者: 白金千乃




   私の友人が、恋をしました。




   「ぐふっ!?」

   「……」

   「え、あ……ありがとうございます」



   キレのあるローリングソバットは見事に決まり、彼はうずくまる。

   うずくまる彼を見て、彼女はその頭を撫でた。

   それで混乱してるとはいえお礼を言ってしまう彼は、少し(否かなり)天然なのでしょう。


   気がつくと、彼女はこちらへ駆けてきていた。



   「……ちょっと頑張った」

   「でも、どうしても技はかけてしまうんですね」


   こくんと頷く彼女の頭を、今度は私がゆっくりと撫でた。


   人見知りで口下手だけど自分に素直で行動的。

   そんな彼女は、とても可愛いと思う。


   「どうしたらいいとおもう?」


   少し下を向きながら歩く彼女がそう尋ねてきた。

   恐らく、初めてのことで戸惑っているのだろう。

   技をかけてしまうのも、きっと混乱からなのだろう。きっと。


   「まずは、相手のことを知ることからですね」

   「知る……………弱点?」

   「じゃなくて。名前とか、好き嫌いとか、ね」


   暫く考えていたようだったけれど、無言のままこくん、とうなづいた。


   「がんばる」

   「はい、がんばりましょう」










   「大丈夫でしょうか……」


   本当なら彼女ががんばるところについていってあげたかったのだが。

   あいにく教師に頼まれた仕事を行わなければならず、それはできなかった。

   渡り廊下を歩きながらプリントを運ぶ。


   「あ」


   不意の風に思わず目を閉じたのと同時に、束ねたプリントがふわりと舞う。

   上履きなので一瞬戸惑いながらも、意を決して土の上に踏み出した。

   落ちているプリントをたどりながら、急いで拾い集める。

   プリントをなくすわけには行かないし、もうすぐ予鈴が鳴ってしまう。


   「……一枚足りない」


   辺りを見渡すと、景色の中に一箇所、真っ白な四角を見つけた。


   のだが。


   「どうしましょう……」


   それは、ふわりと揺れていた。

   中庭の小さな池の上で。


   池のふちから手を伸ばしても届かない距離。

   池の深さは、確か膝下くらい。


   先程上履きで外に出る時よりも考えたが、このまま放置することは出来ない。

   よし、と一人うなづいて上履きを片方脱いだ。



   「ちょい待った!!」

   「え」


   がし、と後ろから肩をつかまれ、引っ張られるように誰かに寄りかかった。

   目線だけを少し上に向ける。


   眩しかった。


   染めているのだろう、上だけ少し黒い金の髪が、日差しで眩しかった。   

   染めているのに、何故だかそれは凄く自然なことに感じられた。



   「俺が取るから、とりあえず上履きはいて!」

   「え、いえ、そういうわけには」

   「いいのいいの!汚れちゃうでしょ」


   そう言うと、上履きを脱ぎながら池に足を入れてプリントを広い、出てきた。

   素早い行動を、止めることも間に合わずにただ見つめる。


   「よし、乾かせば大丈夫そうだな」

   「ありがとうございます、助かりました」

   「どういたしましてー」



             キーン コーン


   「やべ!?」


   予鈴が小さく聞こえてきた。

   慌てたように呟くと、彼はこちらを向く。


   「これ、何処にもってくの?」

   「あ、職員室です」

   「よし、じゃ行こう!」


   そう言って。


   プリントを奪うように取った反対の手で私の手を掴む。


   「全力疾走ー!」

   「ふわっ!!」


   走る。


   風の中を通り抜ける感覚。

   目の前に見える、光って流れる金の髪。


   今までにないくらいに、全力疾走だった。













   「お前は……」


   その教師は呆れてか感心してか、ため息を吐く。

   少し仕方が無いかもしれない。

   髪を乱し足元が汚れた金髪の生徒が、授業が始まった時間にプリントを持って現れたのだから。


   「そうかっかしないで、ほらプリント持ってきたんだし」

   「あの、汚れたのも遅れたのも私がプリントを池に落としてしまったからなんです」


   すみませんでした、と頭を下げる。

   暫く無言のまま、教師は仕方ない、といった様にため息を吐いた。


   「とりあえず授業始まってるから急いで教室にいけ。お前は足拭いてからな」

   「ありがとうございます」

   「え、何で先生何時もより優しくない?」

   「日ごろの行いとだけ言っておこう」

   「何それ!?」


   まるで子供の様に言い合う様子を見て。

   思わずくすりと笑みをこぼした。










   彼はきっと知らないのだろう。

   私がその金色に、ずっと憧れていたことを。


   その自由で眩しい、おひさまに。


   いつも見かけると、少しだけ嬉しくなっていることを。



   少しだけ嬉しい気持で、友人の恋の変化を待ちながら。


   窓からの風が、吹き抜けた。







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