第8話 無邪気な彼
それから、加世子さんと二人、しゃにむに頑張ってジムに通った。
そして、福山を目で追うようになった私。
そうすると必ず彼は私を見つけてくれ、微笑んでくれる。
そんなことが、結構嬉しかったりする自分に驚く始末。
(まるで乙女みたい・・)
そんなの久しぶりだった。
佐藤との関係が終わり、自分の年齢を考えると出産までのタイムリミットが
日に日に迫ってくるのを感じ、アップアップしていた自分に
まだ異性にときめく気持ちが残っていたなんて・・・と嬉しくなる。
ただ・・・そう思っていても、行動に移すのはまだ先だと思っていた。
何が私を躊躇させるのか、わからないけれど少し臆病になっている。
『福山君、今日夕方であがるんだって、お茶でもしようよ。』
そんな私の気持ちを気遣ってか、加世子さんは積極的に彼に
接近する。
『黎子ちゃん、グズグズしてたら、私がいただいちゃうわよ。』
軽やかに笑いながら、私の背中を押してくれる加世子さん。
福山は、いつも自然体で気負う風もなく、女二人につきあってくれる風だった。
『福山君は生まれは何処?』
『ご両親はご健在?何人家族?』
『趣味は?女性の好みは?』
『もちろん、独身よね~??』
そんな加世子さんの質問攻めにもイヤな顔もせず、
にこやかに答えてくれる。
福山は、静岡県出身。両親は教育者と言う堅い家庭で育つ。
兄がいるが、兄も堅実な教育者と言う。
大学在学中に世界中を放浪の旅に出て、途中で撮影した写真が
コンクールに入賞。
卒業後、カメラマンの黒木に師事し、助手として働いていた。
黒木の死後、独立したが、駆け出しなので仕事面は恵まれてはいないようだ。
『あの・・・一ついいですか?』
『なに?』
『俺、黎子さんの手料理が食べてみたいです。』
『え??』
『黒木先生と一緒に撮影の仕事してたとき、あまりに美味しそうなので
その晩、夢に見たくらいですから・・是非!!』
『・・・それは大げさね。いいわよ、私の仕事場のキッチンに来る?』
『ええ、嬉しいな。黎子さんの料理を毎日食べられる、ご家族って幸せっすね。』
『アハハ・・何が食べたい?』
『う~ん、何でもいいっす。黎子さんが作ってくれるなら。』
にっこり、あまりに嬉しそうに微笑む福山。その悩ましい笑顔に、
私は彼のために、渾身の料理を作る事を誓った。
(福山君、ついでに、私も食っちまっていいわよ)
そう思わず、心の底でつぶやいてしまい、顔がほてるのを感じていた。