第6話 テレパシーをキャッチする?
『見てるわよ。』
『え?何?誰が?』
『もちろん、黎子ちゃんを・・あの若い男の人・・・見て・・。』
『・・・???』
佐藤と別れて、1ヶ月後くらいのある日、久々に加世子さんとジムに行った。
マシンで、軽く運動して一汗かいた後のこと。これからプールにしようか
どうしようか話していたら、ふいに加世子さんが小声になって言うのだ。
振り向くと、確かに窓際に男性が一人、こちらを見ている気がする。
しかし、周りには他にも運動に励む人が数人いる。
『加世子さんの思い過ごしじゃない?』
そう、私はそんな人目を引くほどの美貌でもないし・・と思ったが
加世子さんは首を振る。
『ううん、絶対そうよ。新しいトレーナーかしらね。以前にはいなかったように
思うけど・・』
加世子さんは悪戯っ子のようにはしゃぐように言う。
『ね、ランチでも誘ってみようか。私、声かけてみるから、待ってて。』
『ええ、やだ、恥ずかしい!!やめてったら。加世子さん!!』
加世子さんは、私が止めるのも聞かず、
いつになく、積極的にどんどん人並をかきわけて、その男性の方に向かって行った。
(やだ、逆ナンじゃない。まるで・・・)
そわそわする私をよそに、上機嫌で帰って来た加世子さん。
『交渉成立。下のパスタ屋さんで半に待ち合わせすることにしたわ。』
『ええ~やだ。そんな話になったわけ?』
『そうよ、黎子ちゃん。善は急げよ!!』
そう言えば、
佐藤との別れを話した時、加世子さんはサバサバした様子だった。
『金回りがよくなると、男って変わるのよ。いいじゃない。
また新しい彼を見つければいいだけ。』
確かに、弁護士である佐藤は、消費者金融相手に過払い訴訟で大儲けしていた。
大きな弁護士事務所に入り、懐も潤ったようだ。
態度だけでなく、顔つきも変わってきた。
『顔つきもハイエナのように卑しくなってきたわ。』と加世子さんは、
何を未練をもつ必要がある?と言う。
ただ長年私のわがままに付き合わせてきたから仕方ないとは思っている。
そしてパスタ屋。
加世子さんは、思い出し笑い。
『どうしたの?』
『ああ、思い出したら笑っちゃうわ。』
『何?』
『こっち見てたでしょ?って言ったら、わかりましたか?テレパシー通じたんですねだって。』
『・・・・ふざけた奴ね。』
『ウフフ、でも近くで見ると、結構イイ男だったわ。』
『・・・ふ~ん。』
『あ、来たわ。黎子ちゃん、がんばるのよ。』
これが私と福山との初めての出会いだった。