第27話 彼のルーツ
『俺、卒業したらアメリカに行こうと思ってる。』
一星がそう言ったのは15才になったばかりのある日
『え?どうして?』
思わず、彼と私は声がそろった。
『将来はNBAのチームに入るつもりだから、ね、いいでしょ?』
一星は、朝食を食べ終えると風のように出ていった。
すつかり背も大きくなって、体格もいい一見普通の男の子に成長した。
最近は、気になる女の子も出来たらしく、鏡も頻繁に見るようになった。
どこにでもいる思春期の男の子
(いつか、そんな日が来る)
予想はしていたが、一星が私達の元を去るのは早いのかもしれない。
無性に寂しかった。
家族で話し合ったが、本人の希望に従おうと決めたのだ。
それから数日後、一星の部屋に入ろうとした私。
ちゃんとノックもした。
年頃の息子に接するのは難しい。
『あなた、何してるの?』
ドアを開けて驚いた。
見ると、一星は天井から逆さまにいる。まるでコウモリのように。
目をつむり瞑想してるようにも見えた。
『何って?俺こそママに聞きたい。何でこんな事ができるのかって…。』
一星は宙返りして、床に降りた。
私は身体が震えてるのがわかる。
(一星に打ち明ける日が来たのかも・・でも、どうしよう??
何て言ったらいい)
『いつから、わかったの?』
『小学校にはいってから・・俺、他の子と違うなって感じてた。』
恐ろしく走るのが速く、聴力・視力も人並みはずれていた。
バスケットボールの試合中も敵なしで、
屋根まで飛びそうな勢いで、ボールもネットに入れる事が出来たのだ。
『お前、何者だ?キモイ』と言われた事もあるよと話す一星。
『そんなこと一言も話す事がなかったのはどうして?』
『・・・聞いたら、悲しそうな顔すると思ったから・・。そうでしょ?』
この子はこの子なりに、私達夫婦・家族に気を使って生きてきたのかもしれないと
思うと身につまされた。
『アメリカに行こうって思ったのは何故』
『う・・・怒らない?』
『正直に話して・・』
『俺のルーツがわかるかもって思った。アメリカの病院で産まれたって聞いてたから。』
『・・・・・』
その夜、家族会議をする。
本当の事を話す機会が来たと判断した私達は、一星に、少数民族出身の女性の卵子をもらって
妊娠したことなどを打ち明けたのだ。
その民族には、鳥人間のように空を飛ぶ能力があったことを話した。
『俺、鳥人間の末裔なのか・・。』とつぶやく一星。
彼の将来のために、その選択が正しかったのかどうかはわからない。
その数ヶ月後、一星はアメリカに旅たった。それからしばらくすると
向こうのハイスクールでガールフレンドが出来たとメールが来た。
驚くことに、ハイスクールの教師があの卵子提供者だとわかる。
少数民族を調査していた学者と恋におち、駆け落ちしてアメリカに来たそうだ。
しかしそれからまもなく大災害で、村は流されて壊滅状態になる。
子孫を残したいと考えた彼女。しかし、相手の学者は元女性だった。
他の男性の精子で人工的に妊娠するのはいやだった。相手をとても愛していたから。
それで卵子提供を思いついたそうだ。
家族がもう一人増えた・・・
黎子はそう思い、アメリカにいる家族を思った。