第26話 つきぬ不安
その決意の宴の数日後、
庭に、バスケットボールのバックボードを備え付けた。
もちろん正式な物ではなく、子供の遊び用のものだ。
どうやら父の案らしい。そのために、自慢の芝生も犠牲になった。
(将来は,NBAを目指せッてか~。)
私は父らしいアイデァに思えた。そして将来誇らしくコートを飛び回る
一星の姿を思い描いて、胸が熱くなる。
『オイ、一星、このボールを投げてみろ。』
父は、子供の手には大きすぎるボールを手渡した。
一星は、小さな手で抱えきれないボールに興味津々だ。
『ジイジ~。』
『ホレ、この高さまで放り投げるんだ!』
父はバックボードの上の方向を指さした。
その先には青い空が広がっている。一星の瞳が輝いて見えた。
それから家にいる時には、いつも一星のボール投げの相手をする父と彼。
そして小学校入学の時には、
もう一星は一人前にボールを投げられるようになる。
たまに飛び上がるとき、とても小さな子供とは思えないほどの高さに跳ね上がることが
出来るのだ。そのまま飛んで行けそうにさえ思う程だ。
それを頼もしくも、恐ろしく思ってしまう私。
『いいぞ、いいぞ。一星、上出来!!』
父と彼は、そんな私の不安を知らぬように、一星を褒め称えてさらに上を目指そうとする。
両方とも、もう本気でNBAを目指すつもりなのかとさえ思う。
小学校を入学してから、一星はどんどん活発になった。
友達も増えて、私が家にいるときには連れてきたりした。
手作りのおやつやケーキを焼くと、皆が喜んでくれたが、その中の一人が不意にいう。
『一星、おばちゃんに全然似てない。』
ドキッ!!私は心臓が飛び出すのではないかと思うほど狼狽えた。
『そう?一星はね、パパ似なのかもね。』
『エッ?おじさんにも似てないよ。な、みんな。』
頷く他の子供達。一星は何もいわず口を動かし続けていた。
(ママ、どうなの?何て言うの?)と私を試すかのように。
子供はどこまでも無邪気に、核心を突いてくる。冷や汗が出そうだが努めて冷静を
装う。
『そう???実はお祖父さん似かもね。さ、みんな、プリンも食べる~??』
『う~ん。』
食べ物で子供の関心をそらせたが、いちいち狼狽える自分に自己嫌悪を抱いた。
他人が何と言おうと、自分が産んだし、戸籍上も自分の子供なのだからと
言い聞かせる私。