第25話 決意の宴
『ねえ、黎子さん。俺、思うんだけど・・。』
彼は、テーブルの上の私の手を自分の手で包んで
神妙な顔で話し出す。
佐々木教授の所からの帰り道、日の当たるカフェに立ち寄った。
今夜は、父と加世子さんとで家族会議をせなばなるまい。
その前に、私達夫婦の見解をまとめておく必要があると思った。
本当は、こんなオープンな所でなく、うちに帰って話すべきことなのに、
帰るまで気分が持たない。声を潜めて話していた。
『あのさ、見せ物小屋のイブマ族の人達が、不幸だって決めつけない方が
いいと俺思うんだ。』
『え?それ、どういう事?』
住み慣れた村を離れ、見知らぬ土地を渡り歩く生活。
鳥人間として扱われ、見せ物にされるのは不幸じゃないのか?
『案外、楽しんでるかもしれないよ。みんなが喜んでくれるわけだし、
美味しい物も食べる事が出来れば、村にいるより幸せだと思うこともあるんじゃない?』
『・・・オーナーに収まって、兄弟を呼んでるくらいだからって事。』
『ああ、少なくとも、俺はそう思いたい。一星のために。』
『・・・・』
そもそも、私達は何を恐れるのか?
一星が、人とは違う能力を持ち合わせていることを本人が知ることが怖いのか?
それを他人の好奇の目にさらされ、虐められたりして、本人が傷つく事をおそれているのか?
いや、本当は私の血を受け継がず、第三者の存在を知られることが怖いのか・・・
まだ自分でも心の整理がつかなかった。
『俺さ、考えたんだけど、その能力を生かせるように育てるべきだと思う。』
『え?』
『たとえばさ、スポーツ選手にするとか。どうよ?』
『何の?』
『バスケットとかさ、陸上選手とかさ。何でもいいじゃない。隠してビクビク
育てるのってよくないよ。絶対。』
『そうね・・・そうよね。』
彼の前向きな意見に救われた気がする。
(しかし、何かイージーな選択のようにも思うが・・・)
でも、せっかく授かった可愛い息子が、将来自分を卑下し、
嘆き悲しむ人生を送らせてはいけない。夫婦ともそこの所は意見が一致した。
夜、父と加世子さんに佐々木教授の話を打ち明けた。
そして私達夫婦の見解も伝えた。
父は話をウンウンと頷きながら聞いていたかと思うと、いきなり立ち上がった。
『おい、浩一君。』
『ハ、監督!何でしょう。』
(彼は、父を義父とは呼ばず、監督という。)
『俺は、君のような婿をもって幸せだ。これからも、黎子と一星を頼むな。』
『もちろんです。監督!』
(なんと、感動的な・・・)
その夜は、家族、決意の宴となった。