第24話 末裔の血
『おそらく、ご子息は、イブマ族の末裔の血を引いてるのかもしれません。』
ぼそぼそっと佐々木教授は言った。
少数民族の研究では、第一人者らしいが、その教授ですら
その存在を知るのが困難な民族と言う。
(イブマ族???はあ?)
私は、卵子提供者のファイルで見た女性の顔を思い出していた。
ロン毛の巻き毛、鼻ピーくらいしてたかもしれない。
特に特徴があったようにも思えない彼女が、イブマ族???
(ソンなことなら、但し書きくらいしろよな・・)
後で、飛び出すかもしれません・・とかなんとか
もし、そんな注釈があったら彼女を選択しなかったろう。
(しかし、それも後の祭り・・もう産んでしまったから引き返せない。)
『確か、イブマ族は数年前に絶滅したと聞きました。それなのに
生き残りがいたのですね・・・驚きです。』
山間に住む少数民族で、ひっそりと生き延びて来たイブマ族。
飛ぶ事が出来るのも、山に薪を取りに行ったり、獲物を狩るのに
自然に身に付いたのではないかと言われてるそうだ。
しかし数年前の大災害で、村が押し流され絶滅したと伝えられていた。
『でも、鳥人間だとヨーロッパあたりの見せ物小屋にいると
聞きます。その辺の関係かもしれない・・。』
一部の人間が、興味本位で見せ物にするために、イブマ族を拉致する
悲しい歴史があったようだ。
『これを見て下さい。』
佐々木教授は一枚の写真をデスクの引き出しから取り出して見せてくれた。
(・・・・)
そこには、小柄な男性の顔。鳥人間と言うのだから鳥の
着ぐるみを着せられていた。
その顔には深い皺が刻まれ、年齢は幾つくらいか定かでない。
湖のような深い目が、物悲しく見えた。
(可愛そうに・・・)
『その男性は、その写真の頃はまだ20代後半だったようです。』
『今はどうしているんですか??』
『その見せ物小屋のオーナーに収まってるらしい。』
『・・・・まだよかったのかしら。』
『う~ん、自分の兄弟も連れてきて、ショーを続けてるとか。』
特殊能力を生かして、生き延びる。
何か悲しいと単純に思ってしまった。
佐々木教授は、そんな私の気持ちを察したのか、慰めるように言う。
『ご子息の場合は、日本人のご主人との子供だから、そんなに強く
その能力が出ないと思われますがね・・・。』
私と彼は、言葉無く教授の所を後にした。