第22話 秘密のかけら
多少の不安を抱えながらも、一星はすくすくと育ち、
あっという間に3年の月日が過ぎた。
その間、一星はどれだけの愛を、私達家族に与えてくれたろう。
その小さな手のひらに触れる度、私は母になれた喜びを感じ、
口からこぼすご飯粒まで愛しかった。
夫の彼も、それは同じようで、仕事の合間に、
よく一星の面倒を見てくれていた。
祖父である父にも愛され、継母の加世子さんにも慈しまれ
血の繋がりが半分でも、見た目どこにでもいる幸せな家族だと
思っていた。
そんなある日、父が真っ青な顔をして戻ってくる。
私も彼も仕事なので、保育園の迎えを父に頼んでいた。
『黎子!大変だ!』
『パパ、どうしたの?一星に何かあったの?』
『イヤ・・・幸い一星には何もなかったが・・・しかし・・』
『どうしたの?一星がどうしたのよ?』
『・・・・浮いたんだ、ジャングルジムから落ちそうになったとき・・。』
『ええ?どういう事???』
父は、幼稚園に一星を迎えに行った帰りに、近所の公園に寄ったらしい。
まだ日は明るいし、その時間帯には、他に誰もいなかった。
ジャングルジムに興味津々の一星を遊ばせていたが、仕事の電話が入り、
父が一瞬目を離した隙に、一星が足を滑らせた。
(あ!!一星危ない!!)
しかし、次の瞬間、信じられない事が起きた。
一星は落ちそうになったが、浮いていたと言う。
それも無意識で、本人もわけがわからない風だったと。
宙で足をバタバタさせた一星を抱き留めて、父は周りを見回したと言う。
誰かに見られていないかと・・
幸い、誰もいないのを確認すると、一星を抱き上げたまま、
その場を走り去ったと言う。
父は、神妙な顔で言う。
『オイ、これは、とんでもない卵をもらってしまったと言うことか?』
『え・・・?』
『提供者の出生を調べた方がいいんじゃないか??』
『・・・・???』
『しかし、たとえどんな事になっても、一星を守らなきゃならんがな。』
今までの漠然とした不安の種が、目の前に突きつけられた気がした。
ただアメリカで、たいした考えもなく卵子を選び幸運にも
妊娠して出産しただけなのだ。
しかし、反面どこかで、こんな日が来ることを
予感していたのかもしれない。
(その時は、どんな運命も受け入れなくてはならないのかしら・・)
自分の腕の中で、健やかな寝息をたてる息子の顔を
ただ見つめていた。