第21話 秘密のしっぽ
『監督、お孫さん、誕生おめでとうございます。』
以前から、うちには、よく人が集まる。
映画監督をしている父の元には、制作会社の人、スポンサーの会社関係の人、
芸能プロの人、ベテラン俳優、女優、これから売り込み必至の新人俳優もいる。
はたまたどこで知り合ったのか大学教授、クリエーター、デザイナーなどなど・・・
とにかく客が多い。
『うちは、エンゲル係数が高すぎて、年中赤字よ。』と加世子さんはこぼすが、
にこやかに客をもてなす。
此の繋がりも仕事には大事だからと割り切るしかないと思ってるようだ。
特に一星が誕生してから、お祝の客が絶えない。
その度、父は一星を抱きながら、客に言うのだ。
『なあ、なあ、コイツ、俺に似てねえか?』
事情を知っている人は苦笑い。言葉を濁すが、
おせじでも、似ていると言われると、父は心底嬉しそうな顔をするのが
切なかった。
皆、口には出さないが、
(監督、な、わけないでしょ?いつもの親父のギャグのつもり???)
くらいに思ってるのかもしれない。
その中で、一人、ある大学教授から気になる事を聞いたと加世子さんが
言った。
『この子は、変わった人相をしてる・・って。』
『どういうこと?』
『う~ん、定かでないが、少数民族の出のような気がするって言うの。
それも希少な民族じゃないかって。』
『エッ?』
『まあ、人類学者らしいけど、もうろくしてるみたいだから、気にしないで。』
加世子さんは酔客の言うことだからと言うが、私は少し気になった。
もしかしたら、この子には、とんでない出生の秘密があるのか?と。
早速、夫である彼に話すと、
『ああ、提供者はアメリカ在住だからね、それはあるかも・・・。』
様々な人種が集まる大国だから、ありうる?と言いたいのか。
しかし、彼もそんなに気にする風でもなかった。
一星は見た目普通だし、健やかに育ってる。
乳をグイグイ飲み、急速に大きくなってきているから心配ないと。
私は、腕の中の小さな我が子が、その出生の秘密の為に、
どこか遠くに連れ去られるような気がして、ふと不安になった。
(やあね、そんなはずないわよ。)
私は、秘密のしっぽをかき消すように、我が子を抱く手を
強めた。