第19話 新しい命
きっと、私はその日のことを一生忘れないと思う。
出産予定日の前日から大事をとって入院していた私。
夜中に陣痛が始まった。
呼応するかのように、窓を打つ台風の風も強くなっていく。
ズンズンズンズンズンズン・・・
まるで自分の中で、マグマが吹き上げてくるような心地、
激痛の波が繰り返し私を襲った。
明け方、駆けつけてきた加世子さんが付き添い、分娩室に入った。
彼も、父も仕事で不在だ。
明日には病院に寄れるだろうと加世子さんが話してくれた。
(ついに、あなたに会えるのね・・)
気分が高揚し、涙があふれて仕方なかった。
今までの思いが、頭によぎった。辛かったこと、悲しかったこと・・
様々な思い。
(あなたに、どんなに会いたかったか、わかる?
あなたに会うために、私がどんなに苦労したか、わかる?)
そして、身を裂かれるような痛みを乗り越えて、元気な産声が
聞こえて、我に帰る。
オギャー!オギャー!
『おめでとう、元気な男の子ですよ。』
看護師さんの満面の笑みが見えた。
(よかった、よかった、ありがとうございます。)
感謝の言葉が声にならない。
看護師さんに抱かれてる我が子が、天使のように見えた。
しかし、そこまでしか覚えていない。
それから目が覚めたら、もう病室のベッドの上だった。
加世子さんが心配そうに見つめている。
『おめでとう、元気な男の子だったわ。お疲れ様。』
昼過ぎには、あんなに激しい雨がやんで、虹がかかったらしい。
それをさっそくカメラに撮影したと話してくれた彼。
私の手を握り締めた。
『俺たちの息子が誕生したんだね。まだ、夢のようだよ。』
『ええ・・。でも・・』
『でも、なに?』
『男の子って、母親に似るのよね。だいたい・・。』
『・・・だから、なに?』
『あなたのご両親、がっかりなさるわね。』
産みの母親にも、父親にも似てない異国の女性に似た赤ん坊。
そんなことは百も承知だったはずなのに、無性に不安になった。
『何言ってんの?そんなの関係ないでしょ?俺たちの赤ちゃんだもん。
二人で大事に育てようよ。』
『うん、そうよね、やっと産まれた赤ちゃんだもん。』
『そうさ。しっかりしてよ。ママ。』
私を励ますように笑う夫。
彼は、その赤ん坊に『一星』と名付けた。
家族の希望の一番星。
しかし、その当時、
彼も私も、家族の誰もが、
その新しい生命の秘密など想像もしていなかったのだった。