第16話 夢のあとで
『レイコ?まあ、大きなって、わからんかったあ。』
『やあだ、大きいどころか、私、もう30超えちゃったのよ。』
『そうかあ・・それはそれはエライ遠くまで来てくれたなあ。』
久しぶりに会った祖母は、当たり前だけど老けて小さく見えた。
随分大柄な人なように記憶していたのに、ちょっとびっくりした。
私が中学入学前に別れたので、もう20年以上会っていなかったのだ。
祖母のパートナーが大病したので、ハワイの店は閉めて、
西海岸に移ってきたと聞いて、私は卵子提供の治療の場所をアメリカにしようと
決めたのだ。
私はひたすら、祖母に会いたかったから、
しばらく病院に通う間、家に滞在出来るよう頼んだ。
祖母は、快く引き受けてくれて嬉しかった。
パートナーは最近ホスピタルに入り、先は長くないようだ。
内縁関係だったけど、最近形ばかりに籍を入れたと話す。
パートナーが亡くなっても、暮らせるくらいの財産はあるらしい。
『あん人が亡くなったら、日本に帰ろうかな・・。』
いつになく、気弱に言う祖母に、私は声を大にして言った。
『おばあちゃん、いつでも帰ってきて。パパも加世子さんも
もちろん私も待ってるよ。彼もいるしさ。みんな、一緒に暮らそうよ。』
『う~、それもうっとおしいなあ。一人で近くで住むよ。由紀夫にそう言っといておくれ。』
顔をしかめて言う祖母に、私と福山は苦笑した。
『おばあちゃん、ひ孫も出来るかもしれないんだから、がんばって長生きしてよ。』
私は軽い気持ちでそう言ったら、祖母は神妙な顔をした。
『ああ。血がつながってなくても、レイコが産んだら可愛いさ。きっと・・。』
『・・・・・。』
それを言われると、つらい。
しかし、もう後戻りは出来ないのだと自分に言い聞かせるしかなかった。
そして翌日が卵子提供の日と言う前日の朝、私は奇妙な夢を見る。
横たわる私のお腹の中で、まばゆい光が満ちてきた。
そのお腹は見る見るうちに膨れ上がり、そして弾けて
中から出てきた天使が羽を広げて飛び立った。
そこで目が覚めたが、身体じゅうにびっしょりと寝汗をかいていた。
(きっと、成功するのね)
私はそう確信したのだ。
懐かしく、温かな光に包まれる心地がして、涙ぐみたくなった。
そしてその予感通り、私は妊娠したのだった。