第13話 トンネルの果てに
私は思う。
きっと、福山は後悔するに違いないと。
それは恐れにも似た感情だ。
その後、私も彼を暗いトンネルに引き入れたことをすぐに後悔したもの。
しかし、彼の率直さが嬉しくて、当時の私は容易に彼を受け入れてしまった。
それに、少し期待もあった。佐藤とはダメでも、相手が変われば
子供を授かるチャンスが増えるかもと・・・。
彼に抱かれる度に、自分の中が潤い、生まれ変わる心地がするし、
ひょっとしたら・・このまま奇跡が起こるのでは?とかすかな望みを抱いたりした。
でも、それも儚い望みと知るのに時間はかからなかった。
福山に問題はないのに、私の卵子にもう力がないと感じていた。
でも一縷の望みをかけ、人工授精、体外受精とトライするも徒労に終わる。
福山はそれでも、落ち込む私を根気よく励ましてくれていた。
その頃には、すっかり私達の家族の一員のように
家にも出入りしていたし、
父とも共に仕事をし、スタッフとも顔なじみになっていたのだ。
子供などいなくても、福山はもう家族同様で、
私には無くてはならない存在になりつつある。
でも、だからこそ、福山の子供が欲しいと切に願う気持ちになる自分。
たまに、やるせなく彼の前で涙する。
そんな時、福山は優しく私の肩を抱き寄せてくれた。
『いや~、俺、簡単に考えてました。赤ちゃんって、こんなに大変とはね。』
『・・・後悔してるの?やっぱり・・』
『後悔?さあ、どうかな・・・。俺はただただ黎子さんの願いを叶えてあげたいだけです。』
『ありがとう・・』
福山は謎めいた笑みを浮かべ
そのまま私を夢の世界に連れて行ってくれた。
ふと早朝に、目が覚めると
福山はネットのニュースを見ている。
『黎子さん、こっち、来てみて・・』
半分眠気眼の私は、よろよろと立ち上がると福山のそばで
そのニュースを見た。
著名な日本女性が、アメリカで卵子提供を受けて妊娠に成功したという。
彼女はもう40代後半だった。安定期になったので公表したらしい。
『黎子さんもやってみない?』
『え・・・?』
『俺、アメリカだって行ったっていいよ。』
『お金、いくらかかると思ってるの?』
『・・・・それは・・そうだけど。』
イヤ、そんなことが問題ではない。
自分のDNAを引き継がない子供でも欲しいかどうかが
問題だ。
私の頭が真っ白になってしまった。