第12話 燃える手
私には、4人の幼なじみの友人がいる。
中学校の頃、同じアイドルを愛したのがきっかけで
互いの家で、よく遊んでいた。
好きなアイドルのCDを聞き、お茶を飲んでおしゃべりするのが
何より楽しかった。
父の仕事の関係で、小学校は別だったのに、
私を受け入れてくれた人達なので感謝している。
年頃になり、久美子と保美が名古屋に嫁に行った。
夫同士が顔なじみ。早婚の久美子の結婚式で知り合ったのだ。
それから慌ただしく、残りの明子と恵の二人も結婚してしまい、
独身でいるのは私一人になってしまった。
私は仕事が楽しかったので、そんなに気にはしていないが、
子供の件だけは羨ましかった。
私達は、年頭にお茶会と称して、明子の家で集まるのが恒例だ。
その頃、みんな、まだ子供が小さく、話すことと言ったら
子供のことばかりだった。子供の教育、養育、発育・・・
話し出すと止まらない。
みんな話に夢中で、子供のいない私のことなど眼中にもないらしく、
その場にいるのが、苦痛で孤独だった。
しかしそのくせ、私が体調不良や仕事を理由で欠席すると
(なんで来れないの?)とやたらしつこい。
子供がいて、家があって、そこそこ稼ぎがある夫がいて・・・
恵まれているあなた達に、私の気持ちがわかるものかと
思っていた。
でも・・・後年、名古屋組の友人二人が不倫していることを知る。
誰も知り合いのいない名古屋に嫁ぎ、夫の両親との同居で
彼女達なりの孤独を感じていたと聞く。
自分一人がヨソ者・・子供がいてもその気持ちは癒えなかった。
仲間だからこその告白なのに、
(子供がいるのに、何を贅沢な・・・)と私などは思ってしまった。
それは今年の年頭のことだった。
『黎子さん、今回の巻きずしも最高っすね。』
福山の声で、我に返る。
暗い所から日向に出てきたような錯覚を覚えた。
目の前には、グランドが広がり、親子連れが遊んでいる。
薔薇園をぐるっと回ってから、ベンチでランチを食べていたのを
思い出した。
福山は、ご機嫌に私の巻き寿司をほおばってる。
水筒のお茶を飲んでいた。
『黎子さん、なんか考え事でも・・・?』
『え??ううん、・・仕事で疲れてたのかも・・』
『そうですか、すみません、俺の我が儘で、巻き寿司作ってもらって無理しましたか?』
『そんなことないわよ、あなたに喜んでもらえたら、それでいいもの。』
『黎子さん、あの・・・』
『なに?』
福山は神妙な顔をした。
『黎子さんは子供を欲しがってると聞きました。』
『・・・・』
『俺で良かったら、協力します。』
『え???』
『俺、マジですから・・・』
真剣なまなざしで
福山に握りしめられた手が、燃えるように熱かった。