第11話 恋は巻き巻き?
『それで、進展はあったの?』
加世子さんは、横のベットで横たわりながら聞く。
エステシャンの指が加世子さんの背中の上を軽やかに動く。
『なあんにもない。』
『え?嘘でしょ。』
『彼、タッパにバラ寿司の残りを嬉々として詰め込んで帰って行ったわ。
仕事があるからってさ。』
『そう、変な奴ね。でも可愛いじゃない。じゃあ、今度先生と一緒に食事させて、固めるか。』
『う~ん、パパの威力を借りてってこと??それもどうかな~?』
カメラマンなら、映画監督の父に会うことは魅力に違いない。
でも、父が目的で近づいてきたなら、ちょっとショックな自分に
とまどってしまう。
『ええ、じゃあ、黎子ちゃんもかなりその気なわけね。』
『やだ~、からかわないで~、加世子さん。』
『そうかあ、可愛い黎子ちゃんの為に、継母ががんばりますかあ。』
『・・・・。』
加世子さん、いつもありがとう。
感涙だよ。
私は、恥ずかしさで、枕に顔を伏してそう思った。
そして数日後には、加世子さんが、4人で食事をする段取りをしてくれた。
海外ロケで帰国したばかりの父は
私の料理を食べたいと言うので自宅にしたのだった。
福山は父相手に屈託なく笑い、よく飲んだ。
撮り終えたばかりの映画の事を語る相手が欲しかったのか、
父はいつになく饒舌だった。
『いや~、今日は君に会えて楽しかったよ。』
『僕も監督に会えて光栄でした。』
佐藤の時は、ニコリともしなかったくせに、福山がいたく
気に入ったようだ。
やはり同業者には親近感がわくのか?それとも福山が
好青年だからか?と思うが、悪くない反応だった。
そして酒宴が終わる。父は酔いつぶれて眠ってしまい、加世子さんが
介抱してる間、そっと福山は私にささやいた。
『今度の日曜日、お弁当持って出かけませんか。』
『え?』
『俺、黎子さんの巻き寿司が食べてみたい~。』
場所は近くの大きな公園、今頃はバラがきれいに咲いてるとか・・
(ずいぶん、チープなデートだこと・・)
母親が多忙だったので、弁当に巻き寿司を入れてもらった
思い出がないと話す福山の無邪気な顔。
『いいわよ。もちろん。』
こうなれば、上巻きでも、細巻でも何でもいいや
と思ってしまう。
(あなた、私は若くもないの。恋は巻き巻き・・巻いて巻いて急がなきゃ
いけないの~!!)
そう心で叫んでいた。