第10話 そこに愛があるか?
福山は、約束の5分前に来た。
取材の帰りらしい、大きな荷物を持っていた。
モニターで観ると、やや緊張気味な顔をしている。
そして部屋に通すと、
仕事用のアイランドキッチンとテーブルの上の
ご馳走を見て、歓声をあげた。
『ヒャー!美味しそうっすね~。』
特に、バラ寿司を見て驚喜する。
『これ、これ、夢に見たくらい美味しそうだったんですよォ。どうして、
俺が食べたいって思ってたのがわかったんですかあ??』
福山は満面の笑みで私を見てる。
その笑みがあまりに無邪気なので、私は恥ずかしくなり目をそらす。
『それは・・もちろん、あなたより長く生きてるから智恵がわくのよ。』
ウソ、それは加世子さんのアドバイスだった。
福山のようなタイプはお袋の味が好きだと言う。
甘えん坊で、きっと母親が大好きなのだと予想した。
バラ寿司以外は、懐石のように小皿に料理を盛りつけた。
見た目にも華やかで、栄養のバランスもいいはず。
そのテーブルには可憐な花を飾り、
男をもてなす宴にしては上々だと自己採点する私。
(そりゃ、そうよ、渾身の宴だもの。)
福山は京都へ取材に行って来たらしく、お土産の和菓子を
差し出す。上品な宝石のような銘菓。わざとらしいネーミング。
『これ、虹の宴って銘菓なんです。とっても美味しいんで、
食べてください。』
『ありがとう!!本当、美味しそうね。さ、座って、一緒に食べましょう。』
福山は、食べ方もきれいで、好感が持てた。
どんなに美男子でも、食べ方が汚らしいのはダメだ。
音をピチャピチャたてて食べるのも幻滅。
食べる行為は思う以上に人格が現れるものだ。
福山は、教育者の両親が共働きで、夕食は、いつも遅く帰ってきた母親が
手早く調理し、大皿にヨッコイショと大ざっぱに盛る料理が多かったと話す。
『もう、作ったから、食え~って感じですよ。今日みたいに
こんなに手の込んだ料理って、覚えないっすね・・・。品数も
せいぜい3品くらいだったかも。量だけは多かったかな。』
育ち盛り、食べ盛りの男の子二人を、懸命に育てる母親の姿が
見えるような気がした。
『お母様の料理で、あなたは何が好きだったの?』
『そうですね、やはり、カレーですかね。定番すぎますけど・・。』
『そう、愛情があふれてたのね。きっと。』
『・・・そんな、普通ですよ。親だもん。』
『あら、今日の料理だって、愛情あふれてるわよ。あなたへの愛情が・・。』
そんな恥ずかしい台詞が、勝手に口から出た。
福山は、目を丸くしてみせる。
『・・・いいんですか。俺、その思い、受け取らせてもらっても。』
『もちろんよ、あなたこそ、どう?』
またしても私の口が勝手に動く。
『俺、もちろんOKです。』
福山は、目を見張り、大きく頷いた。