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第1話 もう終わりにしようと言われる

『もう、君の求めには応じない。』

佐藤は、そう言って顔をゆがめた。

昼下がりのカフェ、佐藤の声に周りがざわめいた。


取り置きの凍結卵が底をつき、新たな精子を欲しいと

言ったら、佐藤は首を振って拒否したのだ。

もう十数回ほどの体外受精に失敗してきたから仕方ないのか?


(無理もない・・もう終わりかな。この男とは・・)


私、桐谷黎子。

ちょっとは名の知れた料理研究家。著作多数あり。

佐藤直彦、大学の同級生。弁護士。

彼とは事実婚。入籍はしていない。

私は卵管閉塞のため、長年不妊治療に堪え忍んできた。


一度30代のはじめに、佐藤の子を妊娠したのだが、10週目にあえなく流産。

あの日の苦悩は一生忘れない。

もう諦めようかと何度思ったかしれない。

でも、私はどうしても、子供が欲しかった。それは理屈でなく本能に近い。


あらゆる病院にも通ったし、いいと言われる民間療法も実行した。

しかし、流産後再び妊娠することはなかった。


一度、養子も考えたことがある。

血は繋がらないでも、形だけでもあればいいと思ったが、

でもすでにそのころは、年齢的には規定外だった。

しかし、だいたい30代後半なら、まだ自分の可能性を信じたいではないか。

それに、事実婚と言う形では、養子は迎える事は出来ないらしい。

毎月、無惨に流れる血潮を眺めながら、私は一人ただ焦っていた。


そうしてる間に、凍結卵は底をついてしまう。

40代目前のある日、佐藤に一緒に病院へ行って欲しいと

頭を下げて懇願したのに、思い切り拒否されてしまったのだ。


『もう、俺たちお終いにしよう。オレはお前の都合の良い種馬でしか

なかったんだ。うんざりだよ。』

『そんなことない。私は、あなたの子供が欲しかったのよ!』

『嘘付け!もう騙されない!』


佐藤はそう吐き捨てるように言うと、席を蹴るようにして

去っていった。

私は呆然としたが、頭の芯だけハッキリ冴えていた。


(あの男の言うとおりだ。もう、あの男の子供を欲しがっていたのかどうかも

わからない・・)


授かった命は、私一人の物だと思って育てていただろう。

母もまだ元気だし、私は仕事をこなしながら

育児をする自信もある。


ただ、種だけ提供してくれたらいい。

しかし、それが佐藤のものでなければならないと言う理由が

もう見つからなかった。


ただ惰性のように関係を続けて来たにすぎない。

私は観念した。


(佐藤は諦めよう・・次はもっと若い男にするんだ・・)


闘志に火がついた。






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