ACT.5 C1
怜司が出たコースは、C1外回りの神田橋だった。
MXOのC1には四つの出入口があるらしいが、初回は選択も許されないらしい。
気づけば視界は暗闇に沈み、次の瞬間には夜の首都高へと放り出されていた。
走行音、街灯の光、ガードレール。
全部、ただのゲームじゃない。
息を吸い込むと、胸の中に湿ったアスファルトの匂いが染みこむ気さえする。
怜司は減速している86に疑問を抱きながらも、ペダルをそっと踏みこむ。
軽く、ほんの少し…そのつもりだった。
車体が、前に滑り出す。
エンジンが喉を鳴らし、タコメーターがゆっくりと跳ね上がる。
「す、すげぇ……」
さっき出ていた60kmなんて一瞬で越えていく。
抑えるのが難しいくらい、走りたがっているみたいだ。
「っと……!」
慌てて3速に入れる。
手のひらに汗が滲む。
ステアリングを掴む指先が、微かに震えていた。
――そのとき、視界の先に、鋭いカーブが現れた。
「うおっ!」
ミッドエッジみたいに警告は出ない。
ただ、黙って道がそこにあるだけ。
怜司は目をつぶりながらアクセルから足を離し、素早くブレーキを踏む。
速度が落ちる。
重力が体の中心に集まり、タイヤが路面を掴む感覚が指先に伝わる。
そしてメーターが指していたのは0という数値。
「っ!?」
怜司が驚きながらも目の前を見ると、そこは緩いカーブ。
少し疑問に思いながらも、そのカーブをアザーカーと同じ速度で進み、右側に車を寄せハザードを炊いた。
「ど、どういうことだ…?」
緩いカーブがきつく感じるのは、それだけ速度を出していたという証拠。
でも非力な86にそんな速度が出るとは思わない。
ましてや純正チューンで数百馬力くらいだ。
マップを見て、さっきのカーブをじっくりと観察している怜司。
「……まぁどうでもいいか」
そう呟いて、ふっと肩の力が抜ける。
わからないことを考えていても仕方ない。
それよりも…
「ここにPAというものが存在するのか!」
マップを右にスライドさせると、「箱崎PA」というランプが光っていた。
「いっぱいオーナーたちが車を見せつけあってるんだろうな〜」と変な好奇心が怜司をワクワクさせる。
怜司はマップを閉じ、ウインカーを点け、再びアクセルを踏み込んだ。
エンジンが素直に応える。
アザーカーたちが巡航している速度に合わせて、ゆっくりと走りを取り戻していく。
「……うん、いいね」
たしかに難しい。
さっきのブレーキングひとつ取っても、ミッドエッジのそれとはまるで違う。
でも、だからこそ楽しい。
そんな余裕が戻りはじめたそのとき――
視界の端が、光で裂かれた。
「なっ……!?」
2台の車が、爆発したみたいな音を残しながら横を通り抜けていく。
ヘッドライトの残光が線になって、目の奥に焼き付く。
加速の波が空気を押し、86の車体がわずかに揺れた。
「……ま、まじか」
息を漏らすしかなかった。
ただのゲームじゃありえない速度。
ただのプレイヤーじゃ扱えない走り。
「本当に……レースしてる人、いるんだな」
心臓が、少しだけ高鳴る。
ああいう世界が、この先にあるんだっていう実感。
まだ遠いけど、確かに手の届く場所に。
そして気づけば、緑の案内板が目の前に迫っていた。
「箱崎PA」
ウインカーを出し、スロットルを緩める。
徐々に速度が落ち、PAの入り口へと流れ込む。
ネオンと影が交錯する、静かな空間。
怜司はそっと息を吐いた。
「……着いた」
◇ ◇ ◇
PAに入った瞬間、また視界が暗闇に包まれた。
そして右下には「箱崎PA」の文字が映る。
次の瞬間、車の中に入ったままで、その外は箱崎PAだった。
「…おぉ」
少し驚きながらも、ドアを開け、箱崎PAに一歩踏み出す。
その瞬間に夜風が体に当たり、寒いと思いながらも怜司は息を吸って吐く。
「ほんと、すげぇよ…」
そうもう一度感心し、86のドアを閉めた。
そして怜司はあたりを見渡す。
「R、FD、Z……うん、普通だ」
横にはR34やRX-7、そしてフェアレディZもあった。
そして隅で集まって話しているオーナーたちも見えた。
少し安心し、それらを眺めていると…
「ね、ねぇ…なにあの人……」
「怖ぇ、MXOの亡霊かなんかか…?」
「ここにいるやつを殺そうとか、ほんとにやめてくれよ…」
怜司のほうを見て、なにやら異様に感じているオーナーたちがいた。
(まぁ無理もないか…)
純正のAE86に乗りながら、そのオーナーは黒いフードを被って顔を見せずあたりを見渡していたら、そりゃ恐怖が増すのも頷ける。と怜司は悟った。
「……流石にもう行くか」
そう思い、ドアノブへと手を伸ばした瞬間――
「…あの」
耳に落ちた声は、風に紛れるくらい小さかった。
怜司はゆっくりと顔を上げる。
「……え?」
夜の空気がわずかに震えた。
青い髪が、首都高の風にそっと揺れる。
月光を飲んだような瞳、まるでこの世界だけ色が違うみたいに。
そこに立っていたのは、
美しい、青いロン毛の少女だった。
もうちょっと文章増やしたかったですけど、難しかったのでやめました(笑)
こんな感じでやってきます!




