エピローグ:「笑顔のレシピ」
東京の片隅にある、ちいさな焼き菓子店。
白い木の看板に金文字で書かれている。
「おかしの記憶 Hikari」
扉を開けると、ほんのりと甘い香りが広がる。
その奥に立つのは、銀髪のショートヘアにリボンを結んだ女性――
かつて、時を超えた旅をした少女、「ひかり」だった。
「いらっしゃいませ」
彼女は優しい声で迎えると、焼きたてのマドレーヌをトレーに並べる。
店内の一角には、色とりどりのクッキー、フィナンシェ、キャンディ、そして、**“笑顔のレシピノート”**が開かれていた。
> 「“誰かの笑顔のためにお菓子を作る”――それが私の、いちばん大切な気持ちでした」
ノートの表紙には、あの魔女がくれた“銀の匙”が貼られている。
ある日、泣きながら来店した女の子がいた。
「ママとけんかしちゃったの……」
ひかりは、そっとチョコレートのクッキーを差し出す。
「このクッキー、怒ってる人でも笑顔になる魔法があるの。……一緒に、作ってみようか?」
やがて、少女の目には小さな希望が宿った。
「今日も、誰かを笑顔にできたかな」
夕焼け空の下、ひかりは看板の照明を灯す。
かつて、彼女が願ったとおりに。
お菓子は――人を、笑顔にする。
その想いだけは、今も胸の奥で、甘く温かく灯っているのだった。
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あとがき:
> ひかりの物語は、ここでひとつの区切りです。 彼女の歩んだ“記憶の旅”と“お菓子への愛”が、読んでくださったあなたの心にも、そっと残ってくれたら嬉しいです。
Fin