第7話:パンプディングと眠らない夜
ひかりが“メレンゲの丘”を後にして辿り着いたのは、静かな“読書の森”。
そこには、一晩中明かりを灯して本を読み続ける少年“レイ”がいた。
レイは夢を見ることを忘れた少年。
ページをめくる指先は疲れ果てているのに、目だけはぎらぎらと冴えたままだ。
「眠ると、僕は“夢の中の自分”に戻るから嫌なんだ」
過去に囚われ、理想の自分を演じる夢に縋りつづけた彼は、やがて“夢を見ること”そのものを拒絶するようになっていた。
そんなレイに、ひかりはそっとパンを差し出す。
「古くなったパンでも、ひと手間かければ、こんなに優しくなるんだよ」
卵と牛乳に浸して焼いた、ふわふわのパンプディング。
シナモンとバニラの香りが、レイの頬をほんのりと紅潮させた。
「……ねえ、夢って“悪いもの”ばかりじゃないと思う」
レイはしばらく迷ったあと、一口。
とろけるような甘さと優しさが、口いっぱいに広がる。
「……ああ、僕、本当はこんな味を知ってたんだ」
そしてレイは、本を閉じた。
「もう少しだけ……目を閉じてみるよ」
そう言って、木の根元でそっと目を閉じた少年の表情は、やっと子どもの顔になっていた――
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今回のレシピ:パンプディング
材料(2人分)
食パン(6枚切り)…2枚(古くてもOK)
卵…2個
牛乳…200ml
砂糖…大さじ2
バニラエッセンス…数滴
シナモン…お好みで
バター…少々
作り方:
1. パンは一口大にちぎり、耐熱皿に並べる。
2. ボウルに卵、牛乳、砂糖、バニラエッセンスを混ぜ、パンに注ぐ。
3. 10分ほど浸したら、バターを少し散らす。
4. トースターまたは180℃のオーブンで20分ほど焼く。
5. 焼き色がついたら完成。お好みでハチミツやフルーツを添えても◎。
ひかりの一言アドバイス: 「冷えたパンでも、心を込めて焼けば温かいご馳走に。まるで誰かの気持ちみたいでしょ?」