第6話「メレンゲの丘と、眠りの眠り姫」
ひかりが辿り着いたのは、雲が地面を撫でるように広がる“メレンゲの丘”。
ふわふわと風に舞う白い粒子は、まるでお菓子の精霊たちのささやきのようだった。
その丘の頂には、大きな卵のようなドームハウス。
中に入ると、甘い卵白の香りとともに、ふかふかのベッドに横たわる少女がいた。
「……誰? 夢の中まで、来ないで……」
少女の名前は“ノエル”。
眠り病にかかったまま、ずっと目を閉じ続ける“丘の姫”だ。
だが、不思議なことに、彼女の周囲にはたくさんのメレンゲ菓子が浮かび、ひかりを歓迎するかのように弾んでいた。
「あなた、夢の中に閉じ込められてるの?」
「……夢の中なら、何も壊れない。誰も泣かない」
ノエルはかつて、大切な人の“裏切り”によって心を閉ざした。
それ以来、ふわふわと甘い夢の中に“逃げる”ことを選んだのだ。
「だけど……甘さだけじゃ、生きていけない」
ひかりは卵白を泡立て始める。ノエルの心と向き合うように。
シャカシャカと音を立て、メレンゲは白く、艶やかに、軽くなっていく。
「眠るのは怖くない。けど、目覚めることは――もっと大事なことなんだと思う」
ドームの空が開けていく。ノエルのまぶたが、少しだけ震えた。
「……あなたの声、少しだけ、暖かい」
そして目覚めた彼女の頬に、一粒の涙が光った。
ふたりで作った“焼きメレンゲ”を頬張る。
サクッとした外側と、しゅわりと消える中身が、夢のような優しさを残す。
「……夢の続きを、生きてみる」
ノエルは、眠らない丘にそっと立ち上がった。
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今回のレシピ:焼きメレンゲ
材料:
・卵白…2個分
・グラニュー糖…60g
・レモン汁または酢…少々(卵白の安定剤)
作り方:
1. 卵白にレモン汁を少々加え、ハンドミキサーで泡立てる。
2. グラニュー糖を3回に分けて加え、角がピンと立つまでしっかり泡立てる。
3. 絞り袋に入れてオーブンシートに絞り出す。
4. 100℃に予熱したオーブンで1〜1.5時間ほど焼き、乾燥させる。
5. 完全に冷めるまでオーブン内に放置し、取り出せば完成。
**ワンポイント:**湿気に弱いので、密閉容器で保存。フリーズドライの果汁パウダーを混ぜても◎。