第2話「お菓子の森と、砂糖の試練」
ひかりが目を覚ましたのは、草原の上だった。
けれど、その草は――薄く焼かれたクッキーのような香ばしさを帯びていた。 空には、メレンゲのような雲。遠くには、キャラメル色の木々が揺れている。
「なにここ……」
彼女の隣には、ひらひらと一枚の紙が舞い降りていた。
> 《第一課題:甘さを知ること》
> ――この世界では、甘さが力です。
> あなたに必要なのは、ひとつだけ。
> “思い出の味”を再現すること。
「思い出の味……?」
彼女の記憶に、ふと浮かんだのは幼い頃のこと。
誕生日、母が焼いてくれた**“チーズケーキ”**。 素朴だけれど、優しさに満ちた味だった。
「よし、作ってみる……!」
***
あたりを見回すと、奇妙な素材が溢れていた。
キャラメル樹の皮、マシュマロの実、ビスケットの葉、そして――
「これ、バニラビーンズみたい……?」
お菓子の森には、使える素材がたくさんある。
けれど、うまく扱わないとすぐに“暴走甘味獣”が現れるという。
その時だった。
――ゴゴゴ……!
地面が揺れ、土の中から、巨大な“スフレベア”が現れた。
ふわふわの毛皮と、とろけるような目。 だが、体当たりすれば人などひとたまりもない。
「きゃっ!?」
ひかりはとっさに、拾った“スプーン”を構える。
それは、この世界でのパティシエの“武器”だった。
「お願い、ちょっとだけでいいから静かにしてて……!」
彼女は走った。森の素材を掻き集め、焼き場を作り、小さな魔法の火を起こす。
焦がさないように、丁寧に混ぜて――
思い出の味を、心の中で繰り返す。
焼き上がったチーズケーキを差し出すと、スフレベアはふんふんと鼻を鳴らし、
……ぺろっ。
次の瞬間、ふわりとした光に包まれ、小さな“クマ型の菓子”になって消えた。
「……た、助かった……?」
空から、再び紙が舞い降りる。
> 《甘さレベル:15》
> “やさしい甘さ”を知った者に、新たな素材が開かれる。
「なんなの、この世界……でも、少しだけ……面白いかも」
ひかりはそっとチーズケーキの端を食べた。
どこか懐かしい、母の味――
優しさが、じんわりと胸に広がった。
「また、作ろう。次は……もっとすごいお菓子を!」
彼女の旅は、まだ始まったばかりだった。
---
今回のレシピ:母のチーズケーキ(簡易版)
材料:
クリームチーズ:200g
卵:2個
砂糖:60g
生クリーム:100ml
レモン汁:大さじ1
ビスケット(土台用):100g
溶かしバター:30g
作り方:
1. ビスケットを砕き、溶かしバターと混ぜて型に敷く。
2. 室温に戻したクリームチーズと砂糖を混ぜ、卵、生クリーム、レモン汁を順に加えて滑らかに。
3. 型に流し入れて、180℃のオーブンで約35分焼く。
4. 粗熱を取って冷蔵庫でしっかり冷やす。
**ワンポイント:**レモンの代わりにオレンジ果汁を使うと爽やかに。香りづけにバニラエッセンスも◎!