6話 ルーナ④
「もしもし?」
『・・・私ぃ』
電話に出ると不貞腐れたような口調で本庄の声が聞こえた。
「あれ? どうしたの急に?」
『・・・別にぃ』
どうやら何か気に食わない事でもあるのか本庄は不貞腐れた口調で答える。
「別になんて事はないでしょう。 何かあるなら教えてくれないか?」
『・・・―――ない』
「ん? ごめんよく聞こえなかった。 もう一回頼む」
『・・・だからぁ~』
そして本庄が何かを言おうとした時、背後から急に携帯を盗られた。
振り返ると人間の女性の姿をしたドラゴンが、こちらも機嫌が悪い雰囲気で俺から奪い取った携帯を睨みつける。
「申し訳ありませんが主様はこれから晩御飯ですので、用事があるなら明日にお願いできますか?」
オォイッ!?
なんで急に喧嘩口調で電話に出てるんですかこのドラゴンッ?!
『ハ? なんでトカゲ女が電話にでるのよ。 さっさとアイツに変わって』
「おや? どうやら日本語があまり得意ではないようですね。 主様はこれから私が手心込めて作った手料理を食べるので用事は明日でお願いしますと言ったのですが?」
「『・・・・』」
電話越しでも伝わる本庄の機嫌の悪さと、何故か同じく機嫌が悪くなっているドラゴンとの空気に俺は思わず身を小さくして待機する事しかできなかった。
『・・・チッ』
あ、今舌打ちした。
『トウジッ!?』
「ハイッ!!」
いきなり下の名前を大声で電話越しに呼ばれてしまい思わず身を引き締めて返事をする。
そこから数秒ほど沈黙な時間が過ぎ、ドラゴンが今まさに通話を切ろうとした瞬間。
『名前、結局呼ばれてない』
先ほどまでの気の強い口調から一転、弱弱しく小さい声で本庄はそういった。
その口調を聞いて、ドラゴンは小さく肩を落とすと携帯を返してくれた。
「もうご飯もよそっていますので通話はすぐに終わらしてくださいね」
「あ、あぁ。 わかった」
ドラゴンはそのまま大人しく部屋を出て行った所で電話の向こうで本庄が『ねぇ』と呼びかける。
『今日はアンタの気まぐれに付き合ったんだけどさ。 やっぱりその、変っていうか調子が狂うっていうか・・・』
本庄は一拍と言葉を置くと何か悶えるような声とベッドに倒れ込む音が電話から聞こえてくる。
『1回くらい、いつも通りの名前呼んでよ。 バカ』
これは恐らく彼女なりの甘え方なのだろう。
今日一日といつもと違う本庄を見てきて気の強い態度や言葉使いに面をくらったが、どうやら内面はとても可愛らしい一面を持っているらしい。
(・・・熱い)
顔が熱くなっているのが分かる。
心臓の音が普段ではありえないくらいの鼓動の早さと音が聞こえてくる。
今まで同学年の女友達に対して恋愛感情などを持った事がなかった生馬だったが、昨年に本庄と出会ってから、この気持ちがどういった物なのか曖昧なままだった。
しかし生馬が知る世界の本庄と、偶然ながらもアストラルの扉から来てしまった異世界の本庄を介して認知してしまった。
俺は――本庄さんに恋心を抱いているんだ。
「うん。 なんか変な事に付き合わせてごめんな。 また明日。 ルーナ」
『・・へへ。 全く本当よ。 こんなくだらない事に付き合ってあげた恋人に感謝しなさいよ! 冬至!』
そうしてルーナはブツッと通話を切った。
聞こえてくるのは通話が切れたプーッ・プーッと鳴る音だけだったが、俺は彼女から出た恋人という言葉で心臓が飛び上がるほどの音のせいで耳に携帯を押し当てたまま動けなかった。