4話 ルーナ①
「ァ? 何お前? 馴れ馴れしくない?」
髪を後ろに1つで束ねた赤黒い髪に尖った耳、更には朱い瞳でゴミを見るような目つき。
制服もスカートが短く胸元のボタンも開けてかなりラフな格好をしているが、間違いない。
彼女はいつも朝の通学路で本を読みながら登校してありとあらゆる他人とぶつかり頭を下げている、The文学系少女の本庄さんだ。
「なによ人の顔をジッとみて。 キモイんだけど」
「キモ・・・ッ!?」
あ、あれ・・・なんだろう・・。
何故か分からないが心臓をナイフで刺されたような痛みが走った。
思わず泣きそうになってしまったが何とか堪える。
「きゅ、急にどうしたんだよ本庄さん。 俺だよ。 生馬冬至だよ」
「ハ? 誰? キモイんだけど?」
「グフゥッ!!!」
今度はノコギリで首を斬り込まれたような痛みが走る。
だが、まだだ・・・。
まだ倒れるわけにはいかないッ!
ここで倒れてしまっては俺の現状がどうなっているのか何も分からないままとなってしまうだから!
「ほ、本庄さんッ。 頼む・・1つだけでいい。 俺の質問に答えてくれッ!?」
「ハ? なんなのアンタ? そろそろ予鈴なるから学校入りたいんだけど」
「すぐに終わる。 だから・・・頼むッ」
「そ、そんな必死そうな顔で・・・まぁ・・1つくらいなら良いけど」
「ありがとうッ!!」
「・・・で? 質問ってなに?」
怪訝そうな顔で俺を見る本庄さんの前に、俺は深く深呼吸をして彼女と視線を合わせる。
「アストラルの扉を知ってるかい?」
「は? なにそれ?」
◇ ◆ ◇ ◆
放課後。
授業も終えて部活の時間となり、とりあえずいつも通り剣道部へと足を運んだのだが何故か部活ではなく久しぶりに夕日を眺めながら下校していた。
剣道部・・は存在していなかった。
足を運んだいつも通りの部室には『 剣術部 』と記載されており、部内を除くと竹刀ではなく木剣のような物を使用して、剣道とは別の剣術が行われていた。
更には俺と一緒に全国を優勝して苦楽を共にしてきた部活仲間達の顔ぶれもなく全く知らない部員達が使用していたのだ。
「・・・もぅ、何がどうなってるんだ?」
朝に家を出てから俺の知ってる常識が全く通用しない。
空想動物のドラゴン。
見た事もない人種。
さらには知らない学校と部活まである。
これは明らかに異常な事態であるのは理解できる。
しかし、俺の周囲はそれらの異常をすべて正常として捉えていつも通りの日常を送っている。
これでは、世界がおかしいのではなく、俺だけがおかしくなっただけではないのか?
そんな風に考え始めていた。
「おいコラボケェェッ!!」
「グハァッ!?」
そんなセンチメンタルな感じになっていると背後から勢いの良いドロップキックが炸裂した。
思わず前に倒れ込みそうになったが、日頃から鍛えている剣道部の下半身でなんとか倒れることなく態勢を整えれた。
「だ、誰ッ?!」
思った以上に勢いが強かったのか背中がジンジンと痛い。
その痛みに耐えながら振り向くと、そこには今朝の魔公立学園の前で出会った本庄さんが息を切らしながら俺を睨みつけていた。
「何勝手に一人で帰ってんのよバカッ! いつも通りの場所で待ってなさいよッ!!」
「・・・ぱーどぅん?」
なんだろう。
今朝は全くの他人と言った態度と言動だったはずなのに、今の彼女からはまるで毎日一緒に下校をしているかのようなイントネーションに聞こえたのだが?
毎日どこかの場所で待ち合わせをしているのように聞こえたのだが???
「な、なによッ! なんか言いなさいよ! もしかして・・・今朝の事、怒ってる・・の?」
何やら急にしおらしい表情で俺を見ているのだが?
尖ってる耳が犬猫みたいに下に倒れているのだが??
「だってあれは仕方なかったっていうか・・。 あぁでもしないとアンタがあのオーク人に暴力されそうだったからっていうか・・・・。 その、ごめんなさい」
上目遣い+小さく呟く謝罪の声。
これは思春期男子の俺には効果抜群であるッ!!
「い、いや・・いいんだ。 確かにあのままだと俺もただじゃすまなかったし助かったよ」
「・・・ほんとに?」
「あぁ。 だからキミがそんなに思いつめる必要はないよ」
「――――ン」
「ん?」
何かを小さく呟いたようだが、あまりに小さすぎて耳を本庄に近づける。
「だったら、なんで1人で帰ってんのよこのアンポンタ―――――ンッ!!!?」
「ギャァァァァァァァァァァァッ!?!?」
突如、彼女の足元から出現した黒いカミナリが流れ、俺はしばらくその場で黒焦げとなって動けなくなってしまった。