3話 異変
「・・変な夢」
携帯のアラームで起きて寝ぼけた頭をふらつかせながら洗面台に向かう。
いつも通りに家族と朝の挨拶を終え、用意してもらった朝食を食べて弁当をもらい、いつも通りの時間に家を出た。
いつも通り、何の変哲もない平和な日常が始まる。
「・・・・」
「ん?」
いつも通りに家を出た。
俺の家は10階建ての賃貸マンションで、そこの4階で暮らしている。
家を出るとまずは渡り廊下となっており目の前に広がる光景は普通の街中の光景だ。
しかし、何故か分からないが目の前には不思議そうにこちらを見て首を傾げる小さいドラゴンがいた。
「これはこれはおはようございます! 今日もお気をつけて学校へ行ってらっしゃい!」
「へ? あ、はい」
「ははは! 今朝は珍しく寝ぼけていらっしゃるのかな? それでは私もこれから仕事ですので!」
そう言ってドラゴンらしき生物は流暢な日本語で表情豊かな顔で空へ飛んで行った。
「・・・・なんだ今の」
それから学校への通学路、俺は初めて訪れた外国の光景でも見ているかのように道端に佇んで動けなかった。
自転車と並行して乗っている空に浮く箒に乗った人。
獣のようなような耳と尻尾を生やした獣人。
そしてまるで異世界で登場するようなエルフやドワーフ、そしてゴブリン等の魔族みたいな生命体が当たり前のように存在している。
「なんだ? 一体どうなってるんだ??」
周囲のあまりの変わりように、思わず速足で学校に向かう。
通り慣れた通学路に入ると自分と同じ学校の制服を着ている生徒達が居たが、やはり人間だけでなく色々な種族が同じ制服を着て登校していた。
そしてやっとの思いで到着した学校に俺は空いた口が閉じる事を忘れて見上げた。
「学校が・・2つある」
左側にあるのは生馬が登校しているいつもの学校。
しかし右側にも同様に建てられている学校は見た事もない。
建物の形状は似ているだ、問題は校門を出歩いている生徒だ。
その生徒達は人間とは似て異なる姿をしている人達で、ここまでに見たゴブリン等の魔族と称する人達が通っていた。
恐る恐ると魔族の人達の門に近づき、学校名が記載されているのを読み上げる。
「魔公立学園??」
それは見た通りの学校名が書かれていた。
「オイ、そこの人間」
未だに頭の整理が追い付かず魔公立学園の門前に立っていると背後から物凄く低い声の誰かに声を掛けられ、ゆっくりと振り向く。
そこには自分の身長よりも2メートルは大きいであろう筋肉ダルマが仁王立ちで見下ろしていた。
「テメェ、一体魔公立になんの用だ」
「え? あ、いや、別に・・」
「別にだぁ? じゃあ何か? お前は何の意味もなく魔公立学園の門前に立って眺めていたっていうのか?」
「まぁ・・・そうなります」
すると筋肉ダルマの生徒は大声で笑いだした。
「これは傑作だぜッ! 人間様がわざわざ魔族が通う学園の前に立っておいて、ただ眺めていただけだって? ガハハハッ!!」
筋肉ダルマはしばらくお腹を抱えて笑い続け、落ち着いた所で俺の頭を握るように片手で掴んできた。
「ウソはいけねェぜ。 お前みたいな人間は俺達魔族を侮辱する為に学園の前に立ってたんだろ?」
なぜそうなる。
被害妄想にも甚だしい言い草だ。
「そんな訳ないだろ。 そもそも俺はこの魔公立学園なんて知らなかったんだ! いつも通ってるはずの学校の隣にそんな見た事もない学校があれば興味もわくだろ!!」
「・・・何言ってんだお前? 魔公立学園を見た事ねェわけねェだろうがッ! 魔族を侮辱するのも大概にしやがれッ!!」
筋肉ダルマは頭を掴む手の力を強める。
「人間と魔族が共存を始めて120年! その時に日本で設置された魔族専門の学園が幾つ建てられてると思ってるんだッ! 今じゃ常識となっている学園を知らなかっただぁ? ぶっ殺すぞテメェッ!!」
(・・・あぁ、こいつ)
俺の頭を本気で握り潰そうとしてるな。
剣道をしていると人間の身体の動きを敏感に分かるようになっていた。
人が動き出す瞬間に頭よりも体が先に動き事態を回避する癖が身についていた。
だから筋肉ダルマが今から何をしようとしているのか一瞬で理解できた。
ただたんに手に力を加えて頭を握りつぶそうとしている。
そんなシンプルな動作だ。
だから俺は回避した。
頭を潰される前に筋肉ダルマの右膝を軽く蹴りつける。
すると筋肉ダルマはバランスを右へ崩して、あとは倒れ込む方向に頭を付けんでいる手の腕を引っ張る。
そうすると筋肉ダルマのバランスは完全に崩れて、右側へ倒れ込む形となった。
「・・は? な、なんだ?」
筋肉ダルマは何が起きたのか理解できない様子で俺を見上げた。
「お、お前何をしたッ!」
バランスを崩して倒れた事を認識したのか筋肉ダルマは顔を真っ赤にして睨みつけてくる。
「別に? なにも?」
「~~~~こ、このッ!」
そうして筋肉ダルマが大きな体を広げて襲い掛かって来た・・・瞬間。
「なにやってんのよ。 アンタは」
――ドンッと何か大きな音と共に、筋肉ダルマは魔公立学園の敷地内に吹き飛んで行った。
巨大な身体が軽々と宙に浮かび飛んでいく姿はスローモーションのような光景で圧巻だったが、それよりも絶句する姿が俺の目の前に立っていた。
朱い瞳に黒い長髪をツインテールのような形でリボンでまとめている少女が立っていた。
彼女も先ほどの筋肉ダルマと同じ魔公立学園の制服を着ている。
しかし、生馬が絶句しているのにはそれが原因ではない。
彼女は容姿と来ている制服は多少違えど、彼女が身に着けているメガネと片手に持つ本を見て、すぐに分かった。
喋り方も雰囲気もまるで違うが、彼女は俺の数少ない友人の1人。
「ほ、本庄さん?」
「ァ? なにお前? 馴れ馴れしくない?」