2話 夢の世界
人は夢を見る。
それは幸福な夢かもしれない。
それは不運な夢かもしれない。
だけど人は誰であれ平等に夢を見る。
科学的に、夢とは人が眠っている際に起こる脳が日頃の記憶を整理している事で視てしまう現象だと言われている・・が、オカルトでは違う。
夢とは人間が唯一扱える異能であり、それは現実の世界と別の世界を繋ぎ視る能力の事だ。
似て異なる世界、パラレルワールド。
死後に魂が転移する世界、冥界。
概念そのものが異なる世界、異世界。
常に隣り合わせに存在する別の空間と繋ぎ視る能力。
それが『 夢 』である。
「そして夢の世界で唯一異世界へ繋がる扉、アストラルが存在するのです!」
駅内にあるバーガーチェーン店。
ここは塾の帰りや部活帰りの学生達が良く集まる人気店として多くの若者たちが行き交う。
テーブルに置いてある出来立てのポテトをつまみ、オカルト本を嬉々として読み上げる本庄といる俺は、周囲から一体どういう風に見られているのだろうか。
友人?
部活仲間?
それとも・・恋人にみえるのだろうか。
「それでね! 私達が異世界へ行く方法とは! まさに夢の世界でアストラルの扉を探し出すのが手っ取り早いと思うの! そしてここに! 最近なぜか急に話しかけてきてくれた人からもらったペンダントがここに! よく分からないけどこれで夢の世界で自由に動く事が出来るらしいの! 今ならなんとたったの1000円!」
あ~これ違うわ。
完全に変な宗教とかの勧誘をしてる側と受けてる側にしか見えないわこれ。
「は~い。 これは没収しま~す」
「えーッ!!! な、なななんでッ?!」
「これは偽物に決まってるからだよ」
「偽物なのッ!!」
本庄はカミナリにうたれたようなショックを受けてテーブルに勢いよく顔をぶつける。
「そんな・・私の異世界旅行計画がすべて水の泡となってしまったのだわ・・・」
「それは残念だったね」
「む~・・全然そんな風に見えない」
「本庄さんが変な人から騙されないでよかったとは思ってるよ」
モソモソとイジケながら出来立てのポテトを口に運ぶと、本庄はさきほどの落ち込みようなど無かった事のように次々とポテトを口に含んでいく。
その光景が餌を食べるウサギのように見えたが、女子にそういう事をいうのは失礼だと思い口に出すのはとどまった。
「それで? 生馬君は本当に興味がないの?」
「何が?」
「異世界のことだよ~」
今朝の登校時間、たまたま本庄が手に持つ本のページが視界に入り思わず読み上げてしまったのが事の発端だった。
異世界に通じる扉、アストラル。
その扉は誰もが見る夢の世界に存在しており、唯一今いる世界とは別の世界に繋がっていると本に記載されていた。
そのアストラルの扉を何故かおもむろに口に出してしまったことで本庄が異世界に興味があると誤解をしてしまい、今に至る。
「今朝も言った筈だよ。 あれはただたんに視界に入った文字を読み上げただけで異世界に興味があるわけでもない」
「え~ほんとに~?」
「そういう本庄さんはかなり興味があるようだね」
「それはもちろん~! 異世界に行けばスライムになっているかもしれないし! 小さい女の子になって仲間と一緒に戦うかもしれないし! もしかしたら悪役令嬢になってバッドエンドを回避する世界かもしれないし! なんだか楽しそう!」
「スライム? 小さい女の子? 悪役令嬢? それは楽しいの?」
「うん!」
満面の笑みで頷く彼女だが、その際にテーブルに置いたスマホの画面には何かのアニメキャラが映っていた。
なんとなく先ほど本庄が言った人物例に似た雰囲気がある。
「だからね! 生馬君もきっと気に入ると思うよ異世界! だからお願い~! 一緒に夢の世界でアストラルの扉を探して~!」
「嫌だよ。 そもそも夢の世界でどうやって一緒に探すんだよ。 夢なんだから会う事なんてできないだろ?」
「う~ん、それもそっか・・・あ」
何か思いついたような本庄は小さく手で顔を近づけるようにジェスチャーを向けてくる。
俺は少し耳を傾ける程度に近づくと、何の気にもせずに顔を使づけてきた本庄に思わず身を引きそうになるが、その行動も失礼だと考えなんとか思いとどまる。
・・なんだか良い匂いがしたような気がした。
「それならさ。 一緒に寝れば同じ夢を見れるんじゃない?」
今度は勢いよく身を引いた。
勢いをつけすぎて椅子から倒れてしまい周囲の注目を浴びてしまった。
本庄はそんな俺の見て「焦りすぎだよ」とクスクスと笑っていた。
この人、もしかしてわざとやっているのではないだろうか・・・。
◆ ◇ ◆ ◇
その日の夜、夢を見た。
目に映る景色はすべて真っ白で何もない。
ただそこに立っているという感覚だけ認識する事ができていた。
とりあえず歩いていると遠目で何か扉のような物を見つけた。
近づいてみると扉の隣には誰かが立っていて、俺に質問をした。
『 異世界に行きたいか? 』
俺は何故か「行きたい」と答えていた。