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ダンジョン・ブレイカー  作者: さわZ
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第七話 ヒーロー「事情聴取って何ですか?」

 レンへの報復を終えた後、タカヒトは近くのホテルにチェックインした瞬間にそのホテルでテロ事件が起こった。そこそこいいホテル。それほど悪くない治安のいい街だったのに。と、タカヒトが嘆いていたが、どうやらこの最上階で『一般人保護』を訴えるテロリストがお忍びでやって来たとある国の王子の身柄を狙ってやってきた。

 それがなぜわかったのかと言えば、うん。今回も【呪い】の正義感が発動したんよ。いや、男の子なら誰だって、平和な場面で急にテロリストが現れても自分が華麗に解決!なんて、妄想はするだろう。それを実行したんだ。その行動があまりにも痛い。精神的にだけではなく、肉体的にも。

 なんで鉛玉が飛び交う銃撃戦のど真ん中に飛び込んでいくんだよ。本当にど真ん中だったから王子達には新手のテロリスト。テロリストには皇子の護衛だと思われて、双方から攻撃を受けるという悲惨な目に遭った。どちらか一方の背後から迫ってどちらか一方を攻めろよ。

いや、間違ってテロリストに加担したらやばかったけれど。【呪い】の攻撃目標もテロリストだけを狙ってくれて助かったよ。王子の護衛に扮してなのかテロリストも同じ柄のスーツを着込んでいたのに、良く識別できたと思うよ。

 何とかテロリストを制圧出来た事に胸をなでおろしていると、今度はこちらも制圧対象に切り替えてきた護衛達。【呪い】越しにとは何とか自己弁護以上過剰防衛未満で、ただの一般冒険者だと伝える事にかなりの労力を使った。言動が勝手に変換されるのだからこちらの事情を知らない王子の護衛達は舐めた態度を取るタカヒトが敵に見えただろう。しかし、護衛対象である皇子が彼等を制し、彼が敵ではないと見抜いた。王子としての審美眼と言うべきか、その目からするとタカヒトがテロリストの仲間ではないと映ったらしく、また同時に憐れみの言葉を投げかけた。どうやら【呪い】の内情も見抜いただけではなく、心情も見抜いてくれたらしい。

はっきり言ってタカヒトの体は銃撃戦に飛び込んだおかげで十発以上の鉛玉がめり込んでいる。冒険者としてステータスだけは上がっていたからその程度で済んだが、それでも適切な処置を施さなければ後遺症が残るほど被弾している。

 助けられた恩返しという事もあってか、王子の傍仕えが適切な処置をしてくれた上に、レンの作ってくれた悪臭ポーションを服用し、窮地を脱したタカヒトに待っていたのは、騒ぎを聞きつけた警察と政府軍による取り調べ。テロリストとの関係性が無いと判断してもらえるのに三日間も拘留された。テロの場面でタカヒトほどの身体能力を持った人間が都合よくいるかと。内部事情やら何やらを調べ上げられた。取り調べの最中にも【呪い】の阿呆が挑発紛いみたいなことをするから心証は最悪。だが、王子のとりなしによりどうにか解放されるのが三日後だった。それが無ければテロリストの仲間だと判断されていたか、公務執行妨害で前科者になっていた。

 というか、テロリストの鎮圧と言う表彰物の功績を収めた。ある意味で国家間の破綻を救った英雄なんだから、もっと、こう、手心を言いますか。というか、このような大使を迎えに行かないとかどうなの?

 それにしても王子様ありがとう。でも、あんたがあのホテルにいなければこんな目にも会わなかったよね。そう思うだけでよかったのに【呪い】がポロリとそれを零す。お前、本当にさぁ。王子も護衛も渋い顔をしたじゃないか。少しは忖度をしろ。本当にごめんね。素直に謝りたかった。心の中で王子に謝り倒した。俺、そのうち不敬罪でしょっぴかれるぞ。彼が寛大じゃなかったらその場で首を差し出しているかもしれんのに。アメリカ市警と軍からも失礼の無いようにと言われているのに。

 王子達はタカヒトが拘留されている間に自分達の用事は済ませたようで、その帰り際に自分たちの国に寄ることがあれば声をかけるように言って、自国の勲章を手渡しでくれた。これを見せればアポなしでも会話する機会に恵まれる。これって、かなり凄いんじゃないの?皇子なんかは【呪い】持ちである自分みたいな奴でも自分の親衛隊に来ないかとリップサービスまでしてくれる。

 本当にいい人だよ。そうしたいのは山々だが、【呪い】のせいでこの人の人間関係を壊しかねないんだよな。敵も作りそうだからごめんなさい。と言えればよかったのに「無理だ」の一言で会話を終わるなよ俺。だから不敬罪になるって言ってんだろ!本当にすいません!お願いっ、届いてこの想い!

 タカヒトの無礼な態度(表面)と必死の嘆願(内情)は真摯に皇子に届いたようだ。彼等がこの場を去った後、見守っていたアメリカ市警と軍にもしこたま怒られた。日本人は礼儀正しいんじゃなかったのかと。

 いや、ちゃうんすよ。本当に礼儀を持って接したったけど【呪い】が邪魔するんすよっ。ああ、王子、帰ってきてっ。俺の弁護を図ってっ。俺をこの悪い雰囲気から連れ去って。もう、罵声付きの独房はいやーっ!




 とある王族は今回のアメリカ訪問で得難い体験をした。国王である自分の母親からある程度の交渉や交流を学んで来いと言われるがままアメリカにやってきて早々、テロリストに襲撃されるという不幸に見舞われたが、とある冒険者の援護により事なきを得た。

 テロリストの目的は自分の身柄の拘束となっていたが、その裏にあったのは自分の『眼』だろう。この目は【王族】という天職でも珍しい。対象の履歴を見ることが出来る『浄瑠璃』というスキル。これがあれば対象の目的や内情を看破することが出来る。たとえ催眠術や転職のスキル、魔法で隠ぺいしようとも看破してしまうというレアスキル。これをもってすれば相手の目的や弱みもわかるので今回の交渉もスムーズに進んだ。それを面白く思わない輩はごまんといる。

 その国はダンジョンの出現が他国に比べて比較的に多いため、その資源は豊富であり、それを活かすための錬金術師も多く抱えている。そのおかげでもうそろそろGサミットにも参加できる可能性を秘めた経済成長国である。それを妨害するために、とある国の依頼を受けたテロリスト。彼等の内情を看破した自分はそれをアメリカ政府に伝え、彼等の大本を押さえた。これをネタにアメリカ政府との交渉も有利に進んだ。

王族としての戦闘力は低い方に分類される自分では、テロリストの接近という計画的で突発的な事には弱い。それをどうにかできたことはかなりの不幸であり幸運でもあった。中でも自分達を助けてくれたあの日本人。彼はとても面白い人物だった。彼の心情が分かる自分にとって、彼のちぐはぐなやり取りはとても面白い。目の前で繰り広げられる一人コントに大笑いする事を必死に我慢させられた。こんなに愉快な気持ちになったのはいつぶりだろうか。今年で十七になる褐色の美少女は笑みを深めた。


「ふふ。日本か。機会があれば寄ってみるか」


「ご機嫌ですね。姫様」


 自国のお国柄、褐色の肌にダークブラウンの長髪を揺らしながら彼女はタカヒトを脳裏に思い浮かべていた。彼は自分の事を王子と思っているようだが、そんなに自分は男らしかっただろうか。いや、確かに男装をしてアメリカにやって来た上に彼や政府にも王子としてふるまってきたが、今の美少女としての風格は隠しきれてはいなかった。女性寄りの中性的なイケメンと捉えられたのだろう。

真に信頼できる相手、それこそ生まれる前から仕えてきた一番の臣下以外にも姫ではなく王子として触れ回っている。親衛隊の中にはうすうす気づいている輩もいるだろうが、自国他国含めて、自分は王子。男だと触れ回っている。これは自国の王族の風習だ。自慢の長髪も用意してきたカツラに収め、豊満な胸や臀部はさらしで固定。そのおかげで短髪のイケメン王子として接してきた。変装しても美形だと判断できる容姿に顔つきだが、彼は最後まで騙されてくれた。彼に自分の性別を告げた時、どんな顔。いや、態度を取るか楽しみだ。ちなみに姫であるという事を公表する時、大体は自分の伴侶が決まった時である。


 「タカヒトか。…欲しいな。私の付き人として」


 「姫様。お戯れもほどほどにお願いします。確かに彼は強い冒険者かもしれません。ですが、あの言動では姫様はもちろん交友。果ては国家間の問題になりますゆえ」


 「わかっているさ。爺。だが、彼を重大なポストに置いた時の悪戦苦闘を見てみたいとは思わないか?」


 「いえ、まったく。私共の目からしてみれば彼は無礼な人間であります。その上聖女でも解除できない【呪い】持ちなのでしょう。そんな危険人物を傍に置くなど命がいくつあっても足りませぬ」


 「まあ、そうだろうな」


 しかし、『浄瑠璃』の目を持つ姫は違った。彼の言動は全て彼の蝕む【呪い】から来るもの。彼の目的もそれの解除。彼ほどの実力者なら小規模のダンジョンを踏破し、解くことが出来るかもしれない。そうなれば、あの面白い言動は見ることが出来なくなる。そうなる前に自分の傍に置き、ずっと手元に置いていれば延々と眺めることが出来るだろう。あの手この手で彼をダンジョンコアから遠ざけ、四苦八苦させることが出来ないか策を練る。


 「案ずるな、爺。彼は善寄りの人間だ。冒険者の中でも温厚な方さ。性根は、な」


 『浄瑠璃』で判別したがタカヒトは冒険者でありながら、その内情は穏やかと言ってもいい。きっと【呪い】が無ければ日本のどこにでもいそうな一般サラリーマンにでもなっていただろう。


 「貴女様は王族なのですよ。国の根幹を担う方なのです。それを揺るがす言動を傍に置くなど誰が認めましょうか。いくら彼が善人とはいってもあの言動は認められませぬ」


 「そうか?現国王である母上も留学先で伴侶を見つけたではないか。まあ、父上もある程度の地位と礼儀を持っていた。だが、彼はいずれ大きな事をしでかすと私は見ているんだ。きっと面白いぞ」


 タカヒトのこれからを想うだけで姫。イル・オー・サンチはコロコロ笑う。今回の交渉前。まるで初めて戦場へ赴く新兵のような緊張していたとは思えない程愛らしかった。そうなったのもタカヒトと出会い、緊張感もほぐれ、更には新たな目標を得たことが出来たからだろう。だが、その内容は看過できるものではない。

 代々、彼女の先祖。国に仕えてきた老執事はこの血筋の悪い所を再確認した。自国の長は確かに優秀で人を見抜く才能もある。だが、まだ彼女は王女としての仕事を始めたばかりであり、経験も浅い。早急に自分の傍に置く人間を決めて、失敗でもしたら国が傾く。

 ファーストインパクトが大きかっただけにタカヒトを過大評価してしまわないか彼女の真の従者は不安のあまりため息をついた。イルが見識を深め、自分の傍に置く相手が高潔で紳士的な人であることを願った。

 一国の姫を乗せた最先端の錬金術で作られた飛行艇は大西洋の上を優雅に飛行。何事もなく自国にまで辿り着き、自身の無事を国民達に触れ回る事になった。




 「…ヒート。一ヶ月も拘留されていたのか、お前。もう、ナイフ出来たぞ」


 「言わんでくれ」


 イル姫とは違い、何事にも【呪い】が出しゃばってアメリカ市警と軍に喧嘩を売ってしまったタカヒトは前科こそつかなかったが、その態度を咎められ約一ヶ月間、彼等のお世話になっていた。


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