第一話 ゲート職員「新たな扉が開きまーす」
現代社会にファンタジーな洞窟。ダンジョンが出現して300年余り。
多くの問題、争いをどうにかこうにかして何とか手を取りあえるようになった人類の生活は結構変化した。とはいっても、道具と職種が増えただけだが。
まず、ダンジョンに関わった人間には【天職】が世界から与えられる。そうとしか考えられない。その原因は未だ解明されていない。医者や警察官。教師に大工。船員など元から自分に合った職種を持つ。もしくは目指していた人間はそれにあった技術が向上した。だが、その中に【魔法使い】や【剣士】といったファンタジーな役職が振られることがあり、それらは【神主】や【司教】。【大統領】に【国王】といった人間の目にはそれが分かる。殆どの人間は【平民】と表記されるのだが、ダンジョンに関わる。技術を深めるなどをすると【平民】が変化するのだという。
力を求めた【平民】が訓練をこなし、ダンジョンに赴き、モンスターを倒すと彼等の【天職】は変化する。魔法使いや剣士以外にも斥候。弓兵。中には【錬金術師】という物理法則無視のファンタジーエネルギーを作ることが出来る人間も現れる。
この【錬金術師】は大当たりであり、このダンジョンが出現するようになってから、何度も人類を救う職業になる。なにせ、モンスターの体内にある魔石を彼等の持つ、不可思議な力を生み出す力。魔力と、人類のこれまでの技術の結晶である科学を織り交ぜることが出来る人種だからだ。彼等がいたからこそ、人類はエネルギー問題を解決することが出来、そしてファンタジーな力を制御することが出来た。
大気汚染から食糧問題。病気の根絶に物資と人の運輸を可能にした。
中でも物資と人の運輸。これらが無ければ人類はダンジョンから湧き出てくるモンスターに蹂躙され、絶滅していたかもしれないのだ。
転移門。ゲートと呼ばれる、日本的に言うならばめちゃくちゃでかいファンタジーなどこでもドア。もしくは某ゲームの某竜冒険に出てくる旅の扉。
高さが十メートルはある巨大で分厚いスマホのケースのような人工物。その中身に位置するところはまるで、ブルースクリーンの中に表示された画面いっぱいの台風の絵と言うべきか。その渦を巻く画面に触れると、触れたものは指定した別のゲートの先に転移することが出来る。
この技術により、各国は戦力を即座に送り出し、モンスターの駆除。ダンジョン攻略に貢献した。今では各国の重要な都市や首都に配置されているゲートは緊急事態を除き、大体は冒険者達を送り出す。もしくは向かい入れる玄関口になっている。ちなみに一般人も使えるが、一回の使用料は一万ワールドドル。日本円にすると約百万円。それだけの技術と魔石。エネルギーが使われる。だが、冒険者の飯のタネであるお仕事。ダンジョン攻略は早い者勝ちだ。飛行機に乗る手続きしている間に攻略されるなんぞよくある。ダンジョンはポコポコあちこちに出現するが、今の時代、一ヶ月もあれば攻略され、消滅する。くいっぱぐれないためにもゲートは利用していかなければならない。
「フランス、パリ行きのゲートが開きます。ご利用の方はお早めにご利用ください」
タカヒトは空港のロビーの最奥の出入り口にある巨大な門の前で手荷物検査を終えて、そのゲートの前直立不動のまま待機していた。
冒険者は時にテロリストと間違われることもあってか、手荷物検査はより厳重に行われる。それこそ、荷物を全部預け、パンツ一丁どころか全裸での検査も受けることもある。それだけの脅威をはらんでいるのが冒険者である。魔法使いなど爆弾どころか道具無しで大量殺人が出来る人種はより入念に。そして、口には拘束具をはめられることもある。今でこそ魔法使いを含めた冒険者は一般人にも理解を得られていたが、ほんの五十年前までは彼等は人気のない国の最奥に追いやられるか、国の徹底した管理下に置かれていた。
そんな物騒な時代に生まれずに済んでよかった。なぜならば、タカヒトのすぐ後ろにいる髭の濃い筋肉質なおっちゃんにナニをされる。じゃない、何をされるかわかったもんじゃないからだ。
タカヒトが空港に来てからすぐにやってきたおっちゃんは彼を見つけるなり、頬を赤らめて、息を少し荒くして、目を潤ませてきた。おっちゃんもタカヒトと同じダンジョン攻略を目指していたソロの冒険者。そして、タカヒトに窮地を救われた人だという。そのタイミングが、ヒロインを助け出すシーンに類似していた。
おっちゃんが不覚を取り、多くのエロ展開御用達。無数のゴブリンに囲まれた窮地をタカヒトが見事に救い出した。
「お前みたいなやつは俺の後ろだけを見ていればいい」
訳:大丈夫ですかっ。必要であれば背負って脱出しますよ。
その時に放った一言がおっちゃんを狂わせた。
おっちゃんは強面であり、一時はあるチームに属してはいたが、その仲間とチームに裏切られ、ソロで活動していた。それがしばらく続いて「信頼?助け合いの精神?いらねえよっ。そんなもん。何の足しにもならねえ」となかば腐りかけていた時にタカヒトに救われた。救われて、しばらくの間は悪態をついて彼を拒絶しようとしたが、ゴブリンの前に戦ったオークや食人植物との戦いで負った傷と毒でまともに動けなかったおっちゃんをタカヒトは無理矢理背負うとダンジョンの外に彼を運び出した後は近くに建設されたプレハブ小屋。救護室におっちゃんを運び終えた後、再びダンジョンに向かっていった。
「今のお前はただの足手まといだ。目障りだからここから出てくるまでダンジョンに来るな」
訳:結構な怪我と毒を受けているみたいですからお大事に。回復したらまたダンジョンで。
親切で毒舌な俺様ムーブをかましたタカヒトにおっちゃんは悔しさを覚えた。だが、ここまで毒を吐きながらどうして自分を助けてくれたのか。おっちゃんは気になって、療養中は情報端末を使い、冒険者ギルドで紹介されている冒険者のプロフィールのなかでタカヒトの情報を手に入れた。
タカヒトは敢えて嫌われるように冒険者達に苦言を与えている。これは苦言をより脳裏に刻む事なのではないかと考えた。
相手が格上であっても間違っていたり、倫理に反する事をすれば正面から文句を言い、問題を起こすことが多数ある。
「お前は間違っている。理解したか。覆ることはない。文句があるのか?ならばかかってこい」
訳:ちょっとやりすぎじゃないですかね?いや、分かるよ。でも、もうちょっと手心という物を。…ちょ、生意気言ってすんません。ちょ、やめ。…そっちがその気ならこっちもやったらー!
相手が格下の場合、それが正しい事ならば陰から見守り、失敗した時はフォローを入れて、苦言を与える。
「無様だな。今一度自分を見直せ。でなければお前は一生弱者のままだ」
訳:大丈夫か!もう、ダンジョンの情報。特にモンスターと天然トラップは何度も確認しないとだめだよ。最新情報に気を配らないと、また痛い目に遭うぞ。気を付けてね。
彼はただのお人よし。だが、そう思われると他の冒険者に舐められる。それは不利益につながる。だが、それでもタカヒトは弱き者。難関に苦しんでいる人に手を指し伸ばさずにはいられないのだろう。だから、あのような言葉遣いになったのだ。それが嫌われることになったとしても。
綺麗事だけを述べる【勇者】や【英雄】のように。されど、彼等には出来ない汚れ役をやりながら救う。それがいかに尊く、難しい所業か。それに気が付いたおっちゃんの目は変わった。彼にとっての【勇者】はタカヒトなのだ。世界が別の人物を称えようともおっちゃんだけは彼を誉め称えようと決めた。
「そんな目で見ても無駄だ。俺は何もしない。変えたければ全力で自分を。世界を変えるんだな」
訳:そんな熱を持った目で見られても俺はノンケなんで、むりっす。ダンジョンコアで常識変換するくらいしないと。いや、されても困るんですがね。性癖チェンジは難しいとは思います。もしくはそっちに理解の多い所で新しい人でも見つけてください。いや、ほんと、マジで。
タカヒトはおっちゃんの熱いまなざしを誤解しながら、早く彼と距離を開けたいあまりにそそくさとゲートに触れてフランスへと転移した。その光景と言葉を受けたおっちゃんも別の場所へ転移し、心機一転。新たなダンジョンへ挑む事になる。
のちに彼は苦言も多いが、後進の冒険者達を育てる教官へと成長していく。苦言の多い教官ではあるが、それとは裏腹に手厚いサポートを施してくれる彼の門下生になった冒険者の殆どは大成するというもっぱら噂の教官となる。