第10話:暗き心の忌み児
「あそこんには、わしゃあらの情報っつぅもんがあるからな。そん時にぃ穢れがばれたら女も追放になる。穢されたぁ嘘ついて陥れっ場合も同じだぁわ」
その言葉に和姫は深く感心した。
どうやらこの世界ではきちんとDNA検査みたいなものが為されてからその判断を下しているようだ。これならば下手に間違えることはないだろう。
「と言ぅても、ガルフはぁ甘いんから、同意の穢れ女ぇでも、余所ん村へ移住して終わりにすんがぁな」
ケネックは気心の知れている豪快に笑いながら自分の兄弟の方をばんばんと叩いた。一緒にいるラロウフも「確かにぃな」と頷いて見せている。
少し照れたのか、顔を赤くしたガルフはケネックの手を優しく跳ね除けてから、小さく咳払いをした。
「ぅんで、穢れ女ぇが産んだんが忌み児ぉになる」
大体の流れでわかったが、その言葉で理解した和姫はもう一人の黒衣の女性を見た。先ほどからずっと腕を隠そうとしているが、隠し切れない両腕には忌む者として刻まれた対の印がしっかりと見えていた。
「忌み児ぉは村で管理しにゃならん。すぐ解るよぅ両腕に同じ刻印を刻みつけぇ」
どうやらその刻印は両親の刻印の中で重なっているものと同じものが刻まれるらしい。
「そんで男んなら大きくなったら追放。女ぁはここで一生子供の世話をする。自分の子供なんぞ作られんようにぃできる限り男んとぉの接触は禁止じゃぁな」
両腕に同じ刻印を持つ女はぎょろりとした目で物言いたそうにこちらを見ていた。その口元は口惜しさの表れか硬く結ばれている。
「問題が起きたりしないの?」
「追放されっと解っててするもんはいないな」
まるでそうされたくなかったら、という高圧的なニュアンスを含めた言葉に彼女は視線をそらした。しかしその顔に浮かんだ憎悪は隠しきれていない。本当にこの人が世話役で大丈夫なのだろうか、と思うが、和姫にはそれ以上口を挟む権利はない様も思えた。
「お腹の子供の父親がわからない場合は?」
とりあえず、話を切り替えるために和姫は最後の質問を彼らに投げつけた。その質問に彼らは曖昧な表情を浮かべた。
「村の男じゃぁないわけだから刻印のない『欠け児』ぉと呼ばれる存在になる。これは成長すれば村に戻されぇが、母親んが引き取らん場合が多ぃな」
先ほどまで、子供を……それも赤ん坊ならすべて村全体で育てるニュアンスでいた。母親も『候補者』から外れたら迎えに来ると。それなのに、その行動は矛盾しているように思えた。
「どうして?」
当然くるだろう質問に彼らは頭をかき、少し困ったように説明をする。
「村ん外の相手とぉの子供ん場合は狩に出て追放者に襲われたんが多い。自分の意思で出来たん子供じゃなけりゃ愛情もわかんというとこだろぅ」
子供を作る相手を女性が決めているこの村では、意思もなく襲われ、追放された忌み児かもしれない男の子供を身篭るなど屈辱的なことなのだろう。
それでも村のために、とりあえず出産はする。しかしその後生まれた子供に愛情が注げるかといえば、微妙になるのは当然だ。
和姫も言葉の中からそれらのニュアンスを感じ取り「そうかもしれないわ」と肯定した。
「ああぁ、立ち話で時間食ぅちまったぁな。とりあえず、ベネカ、こん娘ぇは確実に生人形ん候補になる。人形師のとこ連れてく娘だ。少しの傷でもついたら、そのまんま村ん外放ぉり出すから、大事に扱うんだぞ」
本気の篭ったガルフの言葉に、ベネカと呼ばれた忌み児の女は小さく舌打ちをした。
「わかってぇよぉ、ガルフ兄さん。ラロウフ兄さんもぉ」
と返してきた。
驚いて彼女の腕を見ると刻印がガルフやラロウフの右腕の紋章に少し似ていた。
遜りながらも反抗的な心理を隠さない女の態度に彼らは大きな舌打ちをした。どうやら二人とも彼女に対して何がしか憂慮する部分があるのか、その言動に芽を光らせていた。
長時間の立ち話、その2です。よくよく考えたら妊婦が立ちっぱなしってかなりまずいよね。ちなみに忌み児・ベネカはガルフ達の母親が、腹違いの弟に襲われてできた妹です。彼女の父親は追放、ガルフ達の母親は彼女を産んだ後、自分の身に起きた穢れに耐え切れず、精神を病み、自殺しています。