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蓮華堂夜勤日誌  作者: 空気りずむ
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エクスプロージョン・レクイエム

その夜は疲れきって寝落ちしてしまった。

和馬も同様に早く寝たが、一度どこかで目が覚めたらしく、私が起きたのは彼の腕の中だった。

まだ寝息を立てて眠っているので、そのまま寝かせておく。

もぞもぞと彼の腕の中から抜け出して、パジャマから着替えて鏡を見る。

泣きすぎたせいで、目がパンパンに腫れていた。

「酷い顔」

顔を洗って少しマッサージをしてから下に降りると、レイさんが「おはよう」と迎えてくれた。

私と同じように目が腫れている。

「おはようございます」

「お互い目がパンパンね」

そう笑うと、サラダとトーストを準備し始めた。

「青蓮は?」

「洗面所で一生懸命マッサージしてたわ。私たちよりも酷い顔してる。ライラちゃん、コーヒー入れてくれる?」

「はい」

コーヒーメーカーのスイッチを入れてマグをセットしていたら、青蓮が戻ってきた。

確かに目が真っ赤に腫れてすごい顔になっていた。

「おはよう、らいらちゃん。大丈夫?」

「私はもう大丈夫だから。青蓮、目が凄いことになってる」

「あんまり見ないでよー。はぁー、それにしても…むかつく。本当にむかつく!!出てった人間に指図されたのもむかつくし、らいらちゃんに酷いことされたのも、みんな泣かされたのも悔しい!!」

青蓮はそう言うと椅子に座って食パンの袋からパンを全部出すと、ホイップバターとジャムを塗りたくり、はちみつをドバドバとかけて食べ始めた。

「青蓮ちゃん、ちょっと…」

レイさんが制する前に、次のパンに同じことをして食べる。

サラダも大きなボウルの中身を1人でたいらげ、私とレイさんが呆然としてる間に全てを食べ尽くして「いってきます!」とぷりぷり怒りながら勝手口から出ていった。

「おはよう…朝飯は」

和馬が寝ぼけ眼でダイニングに来た時には、空のお皿と瓶が散乱していた。

「和馬、コンビニ行ってパン買ってきてちょうだい…」

レイさんがようやく声を絞り出した。

「お、おう」

テーブルの惨状を目にした和馬が何かを察して、バイクの鍵を取ると慌てて買い物に出かけた。

「青蓮、相当腹に据えかねてたんですかね…」

ようやく私も声が出た。

先ほどいれたコーヒーはすっかり冷めていた。



和馬が買ってきてくれたパンと作り直したサラダで遅めの食事をとり、部屋に戻って論文の作業をしていると、下から和馬が呼ぶ声がする。

「南木さんがちょっと話を聞きたいって。大丈夫か?」

「すぐ行く!」

作業を一旦止めて下に降りていくと、南木さんが心配そうな顔で迎えてくれた。

「蕾良ちゃん、大丈夫か?事情は大体聞いたが…。この前も尾行されたり昨日は同僚が亡くなったり散々だな」

「ほんとに…。何か引き寄せちゃう体質なんでしょうか」

「まぁ無事なら何よりだ。今日は文彦くんは」

私の冗談をサラリと流して、南木さんが尋ねる。

「今日は一日大学で授業です。戻るのは夕方になるかと」

「そりゃタイミングが悪かった。昨日のホトケさんのことでちょっと聞きたいことがあったんだがな」

お土産のお茶菓子をレイさんに渡して、手馴れた様子でお茶を入れて飲み始めた。

「美紗さんはとりあえず警察病院で監視付きの部屋に入院させた。脚が腫れて当分動けないだろうし、まずは殺人未遂、銃刀法違反で逮捕が決まってる。ようやく黒孔雀のしっぽが掴めた、ありがとう」

あらたまってお礼を言われるとどうしたらいいか分からないけど、とりあえず「とんでもない」と言って頭を下げる。

「それと、蕾良ちゃんの同僚の事件に関連した話だ。ホトケさん、何かアレルギーがあったか知ってるかい?」

唐突な質問だ。

「いえ、特には聞いてませんが。春先はマスクしていたのは覚えてますので、花粉症かもしれません」

「そうかい。念の為遺族にも聞いたんだが、分からないってことでな」

「何か検死で分かったんですか?」

レイさんが口を挟む。

「背中にほんの少しだが、蕁麻疹の跡が見つかったんだ。監察医が妊娠初期の体調の変化か、アレルギー反応かわかりかねていてな。アレルギー反応ってのは死後時間が経過するとどんどん分からなくなるみたいなんだ」

「文彦が何か知ってるかもしれないから、聞いてみましょうか?」

「そうだな、頼んだよ。…ちょっと失礼」

南木さんの電話が鳴って、席を外す。

「とりあえず今夜から暫く、文彦には園川教授の所に行ってもらうわ。護衛も兼ねて、家の中から様子を見てもらう。和馬は倉庫で飛び道具の手入れ、それとライラちゃんの護衛ね。慎一郎と私は暫くPC画面とにらめっこ。」

レイさんがお茶を入れていると、南木さんが戻ってきた。

「血液検査の結果が出たが、死後は精度が落ちる。正確な数値ではないけど、スギ花粉、ブタクサ花粉、それとウリ科の野菜と果物にアレルギー反応があったそうだ。ただ、これがどの程度まで酷いかが分からなくてな…」

「胃の中は薬だけだったんですよね」

「ああ、毒物もなかった。」

南木さんとレイさんが首を捻る。

「とにかく文彦くんの情報待ちだな。俺はこれから警察病院で美紗さんの取り調べの付き添いがあるから、また何かあれば連絡するか、お邪魔するよ」

南木さんはそう言って表玄関から出ていった。

「ありがとうございます」

レイさんと和馬と3人で見送る。

「でも全然分かんないよな、美紗さんと蕾良の同僚の関係。あの録音もいつのものか分からないし」

ダイニングに戻った和馬がお茶菓子を1つ食べながらぼやく。

「本人たちにしか分からないわよね。そういえばロシア語は美紗さんは何かを誤魔化したり相手にしたくない時、蓮人さんと喧嘩した時に使ってたわ」

「笠置さんももしかしたら相手にしたくなかったとか」

「その可能性はあるわ。」

レイさんが私たちにもお茶をいれてくれた。

「でも笠置さんは何処でロシア語を」

「それが分からないんだよな…。」

「石蕗先生にきいてみましょうか」

カウンセリングをしていたなら、笠置さんのプライベートも多少は知っているはずだ。

ちょうど今なら授業もないから研究室にいる。

急いで石蕗先生に電話をすると、すぐに出てくれた。

スピーカーをオンにして、和馬とレイさんにも聞こえるようにする。

『御堂さん、どうかした?』

「先生すみません、少しお伺いしたい事が」

『ええ、何かしら』

「急にすみません。笠置さん、ロシア語がかなり話せたって聞いたんですけど…」

唐突な質問に、石蕗先生は一瞬黙るが、教えてくれた。

『彼女は中学2年生から5年間、お父様の仕事の都合でロシアにいたそうよ。』

「そうだったんですね、ありがとうございます。すみませんお忙しいところ」

『そういえば御堂さん、体調は大丈夫なの?』

体調不良を理由に在宅作業にしている事をすっかり忘れていた。

「あ、お陰様で…来週の講義からは通学予定です」

『笠置さんのお通夜と告別式はご実家のある九州で行うそうよ。研究室からは私と三上先生が参列する事にした。お香典は一旦私が立て替えるから…』

石蕗先生の声が詰まる。

「先生…」

『ごめんなさいね、まだ辛くて…』

「先生もあまりご無理はなさらないでください。長々とすみません、失礼します」

そう言って電話を終わらせた。

「なるほど、5年もいたら覚えるか。あと、石蕗先生と蕾良の温度差が凄かった」

「故人の事は悪く言いたくないけど、他人の事を根掘り葉掘り聞きたがるような人は嫌いよ」

「何はともあれロシア語の件は解決ね。あとは文彦の帰りを待ちましょう。そうだライラちゃん、この前使っちゃったから新しい睡眠ガスのタブレット」

レイさんがジッパー袋に入った丸薬を渡してくれた。

見た目が怪し過ぎて、職務質問されたら1発アウトになりそうだ。

「ありがとうございます」

お礼を言って2階に戻り、ポーチに丸薬をしまってから、また論文の作業に戻った。

その日の夕方に藤砂先生が戻って来たので、南木さんの質問をぶつける。

「笠置さんのアレルギーですか。そういえば以前園川先生のゼミ生で飲み会をやった時に、何かを食べてすぐにトイレに駆け込んでたのは記憶にあるんですけど…。ゼミで使う飲み会のお店はいつも同じ所で同じコース料理なので、ネットで調べてみますか」

そう言ってスマートフォンで居酒屋のコース料理一覧を出す。

「枝豆、漬物盛り合わせ、鶏の唐揚げとポテト、刺身盛り合わせ、焼きおにぎり、特製プリン…わぁ懐かしい」

「ノスタルジーに浸らないで思い出しなさい」

レイさんが後ろから睨む。

「この中のどれと言われてもなぁ…。レイちゃんは何が好き?」

「…あ?」

明らかにレイさんが不機嫌になる。

「うそうそ冗談だよ。確か漬物の盛り合わせだったはず。」

藤砂先生が漬物の写真をアップにする。キャベツときゅうり、それに大根がのっていた。

「南木さん、ウリ科にアレルギー反応が出たって言ってたぞ」

「じゃあこれだね。トイレに駆け込んだレベルだから、かなり強く反応したってことだけど。それなら本人はウリ科の食物は避けるはずだよね。あとは体調によって症状が重かったり軽かったりするから…」

「妊娠初期なら悪阻もあっただろうし、悪化する可能性もあるわね」

レイさんが煙草を取り出すと、換気扇を回して火をつけた。

「レイちゃんあんまりタバコ吸うと、体からヤニのにおいするようになっちゃうよ」

「これでも1日10本までって決めてるわ」

和馬の一言にニコッと笑って返す。

「レイちゃん、肌荒れの原因もタバコ?」

「あんたはどうして人のアラを抉るのかしらね?」

藤砂先生には鬼の形相で睨みつける。

「そういえば文兄はいつからここで働いてるの?」

和馬がすかさずフォローのように話題を変える。

「僕は高校2年から大学入学まで住んでたよ。両親がここの元従業員だったから、子供の頃から出入りはしてたけど。レイちゃんには受験の時に家庭教師もやってもらったなぁ」

「ずっとヘラヘラ無駄話してる癖に模試の成績だけはトップクラスなのが腹立つのよね」

レイさんが藤砂先生を睨む。

「高校の時に両親が交通事故で亡くなって、先代が大学入学までは…って置いてくれたんだ。バイト代も稼げたし」

藤砂先生は懐かしそうに笑う。

「文兄結構苦労人なんだな。…レイちゃんは先代とは親戚なんだろ?」

「そう、私の父親と先代が従兄弟同士。更に言うと、 文彦と私も遠縁だから、この店は広義の親族経営ね」

「そうなのか?」

「レイちゃんのお祖父さんと僕の祖母が従兄妹なので」

レイさんが嫌そうな顔で藤砂先生を見る。

「これと少しでも血の繋がりがあるのは…」

ため息をついて、タバコの煙を吸い込む。

「レイちゃん、肌荒れるよ」

藤砂先生が笑顔で灰皿を差し出す。

「次言ったらあんたの手を灰皿にするわよ」

レイさんがこれまで見たことの無いような怖い顔で藤砂先生を睨みつけた。

「文兄とレイちゃん、夫婦漫才みたいだな」

和馬の何気ない一言が、レイさんの怒りに触れた。

「和馬、こいつと夫婦とか冗談でも言わないでね。次言ったら二度とダーツ出来なくなるわよ」

「ごめん…」

和馬が本気で怯えている。私の後ろに隠れてしまった。

「僕はレイちゃんとなら結婚してもいいのに。あ、やっぱり年下の方が可愛げがあるかな」

次の瞬間、藤砂先生の顎に強烈なパンチが入ったように見えたが、間一髪交わしたようでいつものようにニコニコ…というよりはヘラヘラしている。

「ちっ」とレイさんが舌打ちをする。

「慎一郎なら少し掠ったかもしれないけど、僕に一発食らわすのはレイちゃんじゃ無理だよ。」

「あ?調子こいてんじゃないわよ」

藤砂先生の煽りに対して、怒りが最高潮に達したレイさんの拳が物凄いスピードで振り下ろされたが、その拳を藤砂先生はかわした上に手首を掴んでニコリと笑う。

「ほら、無理って言ったのに」

「…いつか絶対殺してやる」

藤砂先生の手を振りほどいて、レイさんがスマートフォンの画面に拡大されているきゅうりの浅漬けの写真を一瞥する。

「にしても、どうやってアレルゲンの食物を体内に入れたのかしら。胃の中からも出ない、注射跡もない…」

「色々考え出したら止まらなくなるから、そろそろ食事にしましょう。今日は僕が作りますよ」

「え、藤砂先生料理出来るんですか?」

「これでもここに住んでましたからね、先代に教わって一通りは」

藤砂先生はそう言うと、冷蔵庫の中から食材を出す。

「ただいまー!!」

表玄関から青蓮の声がした。慎一郎も一緒に入ってきた。

「おっす」

「お帰りなさい、青蓮ちゃん。今日は覚悟しなさいよ、文彦が食事当番だから」

レイさんのひと言に青蓮の顔が一瞬にして曇った。

「うう…レイちゃん、私の分だけ分けてもらっていい?今日、課題めちゃくちゃ出されたから…」

そう言うと青蓮は深いため息をついて、部屋に戻っていった。

状況が飲み込めてない私を和馬が廊下に呼んで、耳打ちする。

「蕾良、覚悟しておけ。文兄の飯は…すんごい辛い」

「辛いのはある程度平気だけど…」

「並の辛さじゃない。翌日の腹の具合がめちゃめちゃ最悪になる」

それを聞いて、こくこくと無言で応えるしかなかった。

夕飯は藤砂先生特製の薬膳火鍋だったが、確かに辛さが尋常では無かった。

花椒と唐辛子の量がおかしい。胡麻のつけダレにも激辛の辣油がかなり入っている。

それにニンニクが大量に入っていて、よく言えばパンチのある臭いがして、湯気で目が痛い。

「毎回毎回言うけどね、あんた唐辛子入れすぎなのよ!あと花椒も!!辛すぎて食べられないでしょ」

夕方の件もあり、レイさんがキレ散らかしている。

青蓮の前には小さめの鍋が置かれていて、火鍋の具材を和風だしで煮込んでいる。

「私辛いの食べられないから…」

火鍋の匂いで少し具合が悪そうな顔をしている。

慎一郎もげんなりした表情で、真っ赤な鍋から具材を取り出してむせながら食べている。

「火鍋はこの位辛くないと美味しくないじゃない」

藤砂先生は平然と食べ続けているが、何をどうしたらこの辛さのものを食べられるのかと思う位には箸が進まない。

和馬もさっきから全く箸が動かさずに、爪楊枝でたくあんを食べ続けている。

「もう無理。他のスープで食べる」

レイさんがそう言って、別の鍋とカセットコンロを取り出しした。パントリーからレトルトの鍋スープを出して沸かすと、具材を入れて私たちに出してくれた。

市販のスープがとんでもなく美味しい。和馬も嬉しそうに食べ進めている。

「青蓮ちゃんも食べる?」

「うん!」

青蓮の目が輝く。慎一郎も無言でレイさんが作った鍋を食べていた。

「大体ねえ、文彦。あんたこれから園川先生のお宅に行くのに何でこんなもの食べてるのよ!失礼でしょ!?」

「僕と園川先生の間柄だから大丈夫だよ」

「信じられない…。リンゴとレモン食べて行きなさい」

そう言って冷蔵庫からレモンを出して、くし型に切ったものを藤砂先生に差し出した。

「やっぱりレイちゃん優しいねぇ。そういうとこ好きだよ」

「私はあんたなんか大嫌いだけどね」

笑顔の藤砂先生と、冷めきった顔のレイさんが対照的だ。



藤砂先生は1人で火鍋を食べきった後で牛乳を飲み、口臭エチケットのグミとりんご、レモンを食べてから園川教授の家に出かけた。

あの細い体の何処に食べた物が消えているのだろう。

慎一郎とレイさんは2階のパソコン部屋に篭っている。

青蓮は暫くダイニングで課題を片付けていたが、眠くなったのか部屋に戻っていったので、私と和馬も客間に引き上げた。

「この先一週間は夜勤メインになるから、蕾良も大学で一人にならないように気をつけるんだぞ。文兄がいるから大丈夫だとは思うけど…」

和馬がダーツの矢に毒を仕込み終えて、ソファーに寝転ぶと、私の膝に頭をのせてきた。

「分かった。和馬も気をつけて。黒孔雀も札辻も、何時どこから狙って来るか分からない」

和馬の髪を撫でる。薄い茶色のサラサラの髪が心地よい。

「蕾良…ありがとう」

そういうと、ぎゅっと抱きついてくる。

「昨日の事考えたら、今こうして蕾良に触れていられるの、奇跡みたいだな」

「本当に。あのまま美紗さんに撃たれていたら、きっと私…」

「それ以上は言うな」

そう言いかけた私の口に指をあてる。

「そうね、やめておく。和馬、明日の予定は?」

「俺は明日は今野の葬儀会場近辺で張り込み。南木さんも警察もいるから何も無いと思うけど、念のため。」

「気をつけて。明日は藤砂先生と大学に行くから」

和馬の頬に手を当てると、その手を包むように重ねてくる。

「寒いわね、早く寝ましょう」

秋が駆け足で過ぎていくような肌寒い日だ。



大学の講義は午後からなので、藤砂先生が帰ってくるのを待ってから向かう。

「和馬くんがヤキモチ妬くといけないから」という理由で、並んで歩かずに藤砂先生が私の後ろを歩いてもらう算段だ。

青蓮は朝早くに一人で朝食を済ませて学校に行ったらしく、空になったパンの袋とヨーグルトのボウル、それに野菜ジュースのパックがテーブルに残っていた。

「せめて片付けてから行けよ…」

と和馬がぼやきながら後片付けをしていた。

和馬もその後すぐに葬儀場に出かけ、私はボーッとする頭でレイさんと慎一郎の様子を見にいった。

煙草の吸殻とエナジードリンクの空き缶が、朝まで格闘していた事を物語っている。

「…おはようございます」

「おう」

「ライラちゃんおはよう、今何時?」

「10時過ぎです。2人とも、大丈夫ですか?」

目の下が真っ黒に近いような色の慎一郎と、化粧が溶けきったレイさんの顔が大変な事になっている。

「文彦帰ってきた?」

「いえ、まだ…」

「あいつ、先生の所に何しに行ったのよ…」

大きな欠伸をしながら、レイさんは「んーーー」と背筋を伸ばす。

「朝ごはん、どうします?」

「いらないわ…寝かしてもらいます」

レイさんはそう言ってシャワーを浴びに下におりていった。

「俺もこのまま寝る」

慎一郎が声を絞り出すと、仮眠用のソファーに寝転んでそのまま眠ってしまった。

肌寒い日なのに冷房が入っている。

「これでよく眠れるわね…」

慎一郎に毛布を掛けてから下に降りると、藤砂先生も戻っていた。

「お帰りなさい」

私のひと言に「ただいま」と返して、椅子に座るとパンとコーヒーを口に放り込む。

「園川先生の家で少し話したらすっかり眠ってしまって…」

はははと笑いながらコーヒーを口にした先生の背後から、レイさんがゲンコツを振り下ろした。

「あんたねぇ…何しに行ったのよ!!先生のお宅の周りの様子を探るのが仕事でしょ!」

「いやあ、ごめんごめん。出されたハーブティーが美味しくてさ、調子に乗って沢山飲んだら眠気が」

間一髪拳をかわした藤砂先生が服にこぼれたコーヒーを拭きながらヘラヘラと謝る。

「でも、昨夜と今朝は怪しい車は見当たらなかったし、それに…」

藤砂先生の言葉を遮るように電話が鳴った。和馬からだ。

「もしもし、和馬どうしたの」

『今、南木さんと一緒なんだけどさ。斎場が燃えてる…』

どこか呆然としたような声の和馬の背後から南木さんの「伏せろ!」という声がした後、ドォン!!とすごい音がする。

「和馬…和馬、無事!?」

電話はそこで切れたが、すぐにメッセージで「俺も南木さんも無事」と連絡が入った。

「よかった…」安心したら涙が出てきたが、手が震えて止まらない。

「斎場って大通り沿いの白菊ホールよね。ここからなら10分もあれば…文彦、車出して!とりあえず2人を迎えに行く!ライラちゃん、身支度一式持って一緒に行きましょう!」

藤砂先生が頷いて、車の鍵を棚から取り出すとガレージに向かった。

私も涙を拭って、急いで客間に荷物を取りに行ってからガレージに行く。

ワゴン車に乗り込むと、藤砂先生はなかなかのスピードで車を出した。

「無事は確認出来たけど、やっぱり心配だものね…」

車の中で、レイさんが私の手を握ってくれた。

現場は騒然としていて、交通制限も出されていた。

消防車が何台も来て消火活動をしつつ、救急車もひっきりなしに来ている。

ホールは見る影もなく吹き飛ばされていて、怪我をした人がまだ搬送を待っている状態だった。

隣のパチンコ屋のオーナーが店のお得意さんなので、レイさんの顔パスで車を停めさせてもらって和馬と南木さんの元に急ぐ。

2人は大通りを挟んで、ホールの向かいの立体駐車場にいた。

和馬は怪我もなく、至って元気だった。

たまたまバイクで出かけてグローブを嵌めたまま、ヘルメットを被っていたのが幸いしたと本人が言っていた。

南木さんも怪我はしていないが、目にゴミやチリが入ったとのことで、目薬をひっきりなしにさしている。

「蕾良、来てくれたのか」

「レイさんと藤砂先生が車出してくれたの…良かった…」

思わず抱きついてキスをしてしまったのだが、その後でみんなが見ている事に気づいて恥ずかしくなった。

「さすがアメリカ育ち…」

レイさんが少し恥ずかしそうにこちらを見る。

「すみません、感情が爆発しました…」

顔から火が出そうなくらい熱い。

和馬も真っ赤な顔だが、ずっと私を抱きしめたままだった。

「お二人さん、早く結婚しちゃいな」

南木さんが笑いながら茶化してくる。

「とにかく2人とも無事で何より。バイクはあとで慎一郎が起きたら取りに来てもらうから、何があったか車の中で聞かせて」

藤砂先生の言葉で、全員で車に向かう。



「俺が南木さんとの待ち合わせ場所…さっきの立駐に着いたらさ、ホールの奥の方から煙が上がったんだ。火事かなと思ったら、南木さんが伏せろって叫んで…そしたらホールの入口が爆発したんだ。ちょうど出棺のタイミングだったと思う」

車の中で和馬がスマートフォンの動画を見せてくれた。

「さっき連絡があった。死者3名、意識不明の重体5名、重傷者12名だそうだ。今現場に残ってるのは軽傷者だな。身元は確認中だが、今日の葬儀はホールのスタッフは使わず、会場だけ貸し出したそうだから、全員札辻の人間だろう。言い方は悪いが、そこだけは不幸中の幸いか」

南木さんはまだ目に違和感があるのか、ゴシゴシと擦っている。

「南木さん、帰ったら薬水作るのでそれ使って下さい。文彦、ライラちゃん、このまま大学送って行くわ」

「ありがとうございます。でも…和馬が」

「え、心配してくれるのか!?」

心底嬉しそうな声で和馬が寄りかかってくる。

「いえ、大丈夫っぽいのでやっぱり大学で授業してきます…。石蕗先生に笠置さんのお香典渡したりしたいし」

和馬の顔が一気に悲しさに曇る。

「僕もこのまま大学に行くよ。御堂さん、今日は4限まででしたっけ?」

藤砂先生に向かって頷く。

「じゃあ一緒に帰りましょう。南木さん、僕らが帰る頃なら亡くなった人の身元も分かりますかね?」

「遺体の損傷具合によるが、多分な」

南木さんが目を押さえたまま返す。

「僕も園川先生のところで気づいた事があるので、後で話します」

大学の近くまで着いたので、運転を和馬に託すと、藤砂先生は先に車を降りた。

少し時間を置いてからワゴン車をおりて、藤砂先生の後を追う。

「御堂さん、今日の帰りはタクシー使います。夜勤前は体力温存したいので」

「わかりました。でも流石に学校の前で相乗りはまずいので、どこかで待ち合わせて…」

「そうですね、和馬くんに怒られます。では、教員用の駐車場に16:30待ち合わせでどうでしょう?」

「わかりました、よろしくお願いします」

そう言って、それぞれの学部棟に向かった。

授業を終えてから、教員用の駐車場に向かうと、藤砂先生はまだ来ていなかった。急いでタクシーの配車を頼む。

カサカサと落ち葉が風に舞っていて、ニットにトレンチコートを着ても少し寒い。

「御堂さん、お待たせしました」

藤砂先生が走ってきた。タクシーはあと数分で到着するそうだ。

「ちょっと僕の家に立ち寄ってから帰りますね」

「はい」

私が怪訝な顔をしていたのだろうか、先生は「荷物置いたり取ったりするだけですから」とフォローを入れる。

そうこうしているうちにタクシーが来て、藤砂先生の家に一旦向かってもらった。

大学から車で15分ほどのところにある先生の家はごくごく普通の一軒家だ。少し古さを感じるが、小さな庭は手入れされているし、エクステリアも修繕が行き届いている。ご両親が既にいないと言っていたので、一人で住んでいるのだろうか。

「お待たせしました。じゃあ、蓮華堂に帰りましょう」

ボストンバッグを持って、乗り込んできた。

「先生はおひとりであの家に?」

「ええ。でも、たまに来客もあるので寂しくはないですよ。」

そう言って、スマートフォンの写真を見せてくれた。

「野良猫ですね、可愛い」

キジトラの猫と黒猫が軒先で寛いでいる。

「いつかうちの子にしたいんですけど、なかなか懐いてはくれませんね」

「猫は意外と甘えんぼですよ」

他愛のない会話をしているうちに、蓮華堂に着いた。



午後は店を開けていたので、勝手口から入る。

ダイニングでは慎一郎が食事の支度をしていた。

「お、帰ったか。早く店の方手伝ってくれ。南木さんが7時に来るそうだ」

慎一郎が例のダサいエプロンで調理を進めている。

「分かったよ、すぐ店に行く」

「私も」

店先では青蓮と和馬がお客さんの注文を取り、レイさんが調剤と会計を行っていた。

藤砂先生は白衣を纏うと、よそ行きの笑顔で次々と調剤を進める。

私はレイさんからレジを引き継いで、会計とレシート作成に着手した。

19時を回った頃には客足は落ち着いたので、青蓮の判断で早めに店を閉めた。

ダイニングに戻ると、南木さんが来ていた。

慎一郎と一緒に食卓におかずを並べている。

目の具合はたいぶ落ち着いたようだ。

「あれから眼科に行ってな、ちゃんと洗って目薬もらってきた。レイちゃんの洗浄液もよくきいたよ、ありがとう」

「それは何よりです。お食事まだだったらご一緒に」

「いや、もう済ませて来たからみんなゆっくり食べててくれ。俺はTVでも見させてもらうよ」

そう言ってソファに腰掛けて、野球中継を見始める。

「そういえばジャパンシリーズの最終戦でしたね。」

「家にいると奥さんがずっとドラマ見ててな」

いい意味で自分の家のように寛いでいる。

「ほら、飯だぞ」

夕食は唐揚げとかぼちゃの煮物、ナスの炒め煮、大根の酢漬け、ご飯ときのこの味噌汁だ。

「わー、めっちゃ美味しそう!いっただきまーす!」

青蓮の歓声とともに、みんな手を合わせていただきますと言って食事を始める。

慎一郎の料理は相変わらずどれも美味しい。

唐揚げも味がしみているし、煮物はほくほくに甘く、ナスもジューシーで美味しい。

「南木さんもたべなよー、唐揚げ美味しいよ!」

青蓮が唐揚げを小皿に載せて、漬物と一緒に持っていく。

「ありがとう、いただくよ」

そう言ってあっという間にたいらげた。相当気に入ったらしい。

「後でレシピ教えてくれ、カミさんに作ってやりたい」

「わかりました」

食事を終えてソファーに移動すると、南木さんはテレビの音量を下げた。

青蓮はお風呂に向かった。その間に青蓮には聞かせたくない事を話すらしい。

「今日の爆発の死者は、札辻のアタマ…組長の辻本と、その護衛だ。意識不明の重体は幹部と今野の後任で若頭になる予定だった森岡、それと下っ端が何人か重傷で入院してる。

こんな形で…とは思ったが、札辻はこれで壊滅だろうな。他にも見張りで近くにいた公安の人間が数人怪我をした。」

「爆発の原因は」

「最初は給湯スペースのガス爆発かと思ったんだが…。時限式の小型爆弾の残骸が見つかった。」

爆弾と聞いて、レイさんと藤砂先生が顔を見合わせた。

「それ…もしかして蓮人さんじゃ…」

「俺も同じことを考えた。でも前日の防犯カメラや近くの道路カメラにも何も映り込んでなかったからな、どうやって仕掛けたか証拠もない。」

南木さんは煙草に火をつける。

「青蓮の親父さんて、爆弾作れんのか」

「ええ、1時間もあれば簡単なものなら」

レイさんがこめかみを押さえる。

「この件は一旦置いて。僕からは園川先生のお宅で気になった事を。昨日先生のお宅で出されたハーブティー、多分睡眠薬が入ってた」

「どういうこと?」

「僕が先生の家に着いたのが昨夜10時、その後で先生がお茶を出してくれて、起きたら8時。しかもソファーで寝こけたはずなのに、起きたら客間のベッドだった。」

藤砂先生はお茶菓子の煎餅の袋を開けて、ぼりぼりと食べ始めた。

「あんた昨夜火鍋食べすぎて眠くなっただけじゃないの?」

レイさんが横から煎餅を1枚取って、食べる。

「僕があんまり寝ないの、レイちゃんよく知ってるでしょ」

「そういえばそうだったわね」

興味なさそうに気のない返事をする。

「僕が10時間以上記憶なく眠ることは殆どないんだ。特に昨日の火鍋を食べた後で爆睡は無理だよ」

「でも何で園川教授が文兄に睡眠薬飲ませる必要あるんだよ。」

和馬も煎餅を食べながら藤砂先生の方を向く。

「うーん、よく分からないんだけど…。朝起きた後に他の人が来ていた形跡があった。何がどうって説明が出来ないんだけど」

「匂いとか、物の配置が変わったとかあるだろ」

慎一郎の一言に、藤砂先生が「あっ」と声をあげた。

「そうだ、匂いだよ!香水の匂い!あれは…美紗さんのと同じ…」

一同がビクッとなる。

「でも美紗さん今は警察病院だろ」

慎一郎が煎餅を袋から取りながら突っ込むが、藤砂先生の顔が苦い顔に変わる。

「もう1人、同じ匂いの人がいる。…蓮人さんだ」

レイさんがきゅっと下唇を噛み締める。

「園川教授と蓮人くん、確か大学の同期だったな。」

南木さんがお茶を1口飲み下して、ようやく声を出す。

「そうです、2人は大親友です。園川先生は昔よくここに遊びに来てましたし、多分昨夜も…」

「夫婦で同じ香水使うとか、結構仲良しなんだな」

和馬が急須の茶葉を取替えながら、呟く。

「仲良しというか、ここにいた頃は美紗さんが蓮人さんにベッタリだったのよね…あの変人の何に惹かれたのかがさっぱり分からないけど」

レイさんの一言に藤砂先生と南木さんもうんうんと頷く。

「爆竹作りまくって先代に怒られたり、ニトログリセリン自作しようとして先代にめっちゃ怒られたり、アニメ見すぎて夜勤すっぽかして先代に怒鳴られたり…。今思い返すと相当ヤバい跡継ぎだったよね、あの人」

「薬学部所属のくせに建築学部の授業取りすぎて留年するようなアホだから…」

「だから美紗さんと知り合ったのか。その変人の血は青蓮にしっかり受け継がれてるな」

全員妙に納得してしまった。

「話を戻すけど、園川先生の所に蓮人さんが来てたとなると、美紗さんの監視を強めた方がいいかも。青蓮ちゃんの学校の行き帰りも気をつけてもらって」

藤砂先生が珍しく真面目な口調だ。

「今夜もこれから園川先生の家に行くから、ちょっと探ってみるよ」

「気をつけてな、文兄。あとこれ持っていく?」

和馬が脱脂綿を渡す。

「あははありがとう、今夜は向こうに行っても何も口にしないでおく」

「俺も文彦くんと一緒に帰るよ。駅まで歩くかい」

南木さんが立ち上がる。

「遅くまでありがとうございます、目の調子がおかしかったら言ってくださいね」

レイさんはそう言うと目薬を渡す。

「南木さん、レシピ」

慎一郎もさっきからカリカリと書いていた唐揚げもレシピを手渡した。

「ありがとよレイちゃん、慎一郎くん。それじゃ、おやすみ」

「行ってきます」

2人を見送ると、青蓮が降りてきた。

「私が聞かない方がいい話終わった?」

「ええ、終わり。青蓮ちゃん、明日からしばらく学校の行き帰りは慎に送り迎えさせるわ。バイクか車、どっちがいい?」

青蓮はお茶を大きめのマグに注ぎながら「バイク」とだけ言うと、マグを持ってまた2階に戻った。

「和馬とライラちゃんは明日は青蓮ちゃんと店番お願い。夕方は私達も手伝う」

「分かりました。土曜日は観光客がメインになるので、入浴剤と薬膳鍋の素を多めに準備ですね。」

「ありがとう、よろしくね。和馬、明日の朝から入浴剤の詰め作業お願い。それと来週は夜勤メインになるから、体調整えておいて。」

レイさんはそう言うと保温ポットにお湯を移し替える。

テレビはジャパンシリーズの試合が佳境を迎えていた。

「蕾良、食洗機に入り切らない食器洗ってくれ。俺は風呂掃除してくる」

慎一郎がテーブルの食器を片付けている。

「ごめん、気づかなかった!すぐやるわ」

「俺も手伝う」

すかさず和馬がついてくる。

「和馬は私と入浴剤の調合。薬膳鍋の素材も倉庫から持ってきて」

レイさんに襟元を掴まれて、和馬は倉庫に連れていかれた。

「みんなもあとで手伝ってくれよー」

和馬が悲しげな顔でレイさんと倉庫に向かった。

「あいつ大丈夫か…」

慎一郎が引き気味に和馬を見やる。

「大型犬みたいで可愛いわよ」

そう返したら、更に引いたような顔で見られた。

「お前ら…いや、なんでもない」

慎一郎は何かを言いかけたが、口をつぐんでお風呂の掃除に向かった。食洗機に入り切らない食器は大皿と取り皿だけなので、ササッと洗って拭いてしまう。

倉庫に和馬とレイさんの手伝いに向かうと、ちょうど大きな袋をいくつか抱えて出てきた。

「ライラちゃんちょうどよかった、これ持ってくれる?」

乾燥ナツメと陳皮、朝鮮人参の袋を渡される。

「ここに木耳、花椒、八角、枸杞、それからすこーしだけ冬虫夏草と岩塩を入れたら薬膳鍋の素が出来るわ。水で戻して好きなお出汁で煮出して食べると美味しいわよ」

「以前サンプルで頂いたのがとっても美味しかったです」

「これは温の配合だけど、美肌鍋も作ろうかしら」

どうやら藤砂先生に言われた事を気にしているらしい。

「レイさん、お肌の悩みなんて無さそうですけど」

「30過ぎると急に衰えるのよ…ライラちゃんも覚悟なさい」

死んだ魚のような目で微笑みかけられた。

「…はい」

私たちの後ろから和馬が塩の大袋と八角の袋を抱えてきた。

「重いから早く歩いてくれ…」

そう言われて、私たちは早足で調合スペースに向かった。



その後で慎一郎と青蓮も来て、全員で薬膳鍋の素と入浴剤の配合とパッキングをする。

「入浴剤はドクダミとカミツレ、橙皮、桂皮、甘草と柚子の精油を少しまぶした岩塩を混ぜると香りも良いし温まる」

和馬がレイさん仕込みの配合でサクサクと入浴剤を作って瓶に詰めていく。

私は瓶の蓋を閉めてシールを貼って、箱に詰めていく。

「この調子ならすぐ終わるわね」

レイさんがセットした薬膳鍋の素を青蓮がパッキングして、慎一郎がラベルを貼って箱に詰める。

大きなダンボール箱に2つ分仕込み終えると、レイさんと慎一郎はPCの作業に向かった。

青蓮は5分で入浴を終えると、「おやすみー、あとは2人でごゆっくり」と言って2階に上がっていった。

「先にお風呂いただくわね」

「おう」

和馬はソファーに寝転んでスマートフォンを見ている。

「うたた寝しちゃだめよ」

そう声をかけて、お風呂に向かう。

湯船にゆっくり浸かる時間は至福だ。

「慎一郎、お風呂掃除してくれたのに明け方まで入れないのか…」

ちょっと申し訳ない気持ちになるが、有難く温まらせてもらう。

お風呂からあがってダイニングに戻ると、和馬はまだ起きていたが、かなり眠そうだ。

「和馬、お風呂空いたから入って!私先に上に行くけど、大丈夫?」

「なんか疲れて…俺が行くまで起きててくれよな…」

和馬はうとうとしながらお風呂に向かった。

保温ポットのお湯をマグに入れて、2階に上がる。

タブレットで石蕗先生の論文を読み返していると、和馬が上がってきた。

まだ11時過ぎだが、随分と眠そうだ。

「和馬、今日はゆっくり寝て」

「ああ、そうさせてもらう…」

そう言ってベッドに入ると、直ぐに寝息が聞こえてきた。

「私も寝るか」

論文の記事をブックマークして、ベッドに潜る。すやすやと眠る和馬の頬を起こさないように撫でて、眠りについた。

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