「アクセル全開で、母は」
車の運転をさせると
いつでも
アクセル全開の母は
人生最期の道程ですら
猛スピードで駆け抜けて行った
覚悟って
どうやればできるのかなんて
分からない私を置き去りに
ユーミンの歌を聴きながら
主をなくした洋服達を
段ボールに詰め込む
あなたとドライブに行くと
いつも流れていた
ユーミンの歌声は
ずっと変わらないけれど
共に聞く相手をなくした私は
変わってしまった日常を
生きる事で精一杯だった
いつしか
あなたを思い出して
涙を流す事はなくなって
あなたを思い出して
淋しく思う事が
増えてきたけど
淋しさ癒えぬこの気持ちと
いつまで手を繋ごうか
いつか誰しも
いなくなってしまうと
分かっていても
明日もきっと彷徨ってる
答えなんてあるのかしら
「一ヶ月は保たないでしょう」と
告げるお医者様は
どんな表情だったか
夢なのか現実なのか
「まもなく、お別れです」と
告げる看護師さんの表情は
どうだったか
夢なのか現実なのか
映画の中の台詞の様で
まるで現実味のない
あの最期の瞬間
そんな時まで
猛スピードで駆け抜けなくても
良かったじゃない
まぁね、母らしいと言えば
母らしいわね
せっかちで性急で
効率的で決断が早い
だからいつまでも
過去に生きては
いけないわよね
立ち止まってても
先に進める訳じゃない
即断即決
その遺伝子は
繋がっているはずだから
覚悟なんて
どうすればできるのかを
知らない私を置き去りに
猛スピードで、母は
人生最期の峠道を
アクセル全開で
駆け抜けて行ったけど
ウジウジめそめそしてるのは
性に合わないから
猛スピードで、私は
淋しさ癒えぬ
この気持ちと共に
主をなくした遺品達を
段ボールに詰め込んでいく




