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世界の半分

作者: ひな

世界にあるネガティブな感情の半分はおじさんが作っている。

ある日、まだ学生の時、友達と二人で飲んでいるときに口からついてでた一言は、それからずっと私の頭の片隅にある。もしかしたら気づいていなかっただけで、それ以前も私を縛っていたのかもしれない。

 私はその日、アルバイトのスーパーでのレジ打ちをしているときに、ポイントをつけ忘れて怒鳴られた。あまりに急に耳に飛び込んできた怒声は、その内容というよりも大きさで私の心に突き刺さった。その理不尽さについてスタッフに共感してもらった後も私の中にそのショックは残った。

「原因が、結局はこっちにあったからかなあ」

とそのショックを引きずったまま私は友達にこぼした。

「原因じゃなくてさあ、きっかけでしょ。原因はどう考えてもそいつの性格じゃん」

そういうやつって絶対に数百円でキレるんだよね、数千円とか数万円とかじゃなくて、と同じような経験を交えて話してくれた。ゲームセンターで百円の返金を求めて警察を呼ぶと騒ぎを起こした人の話だった。

 そこまで言ってくれても私はまだもやもやしていた。もうすでに自分が悪いとは思っていなかったが、何かがまだわだかまっている。そのときにふと、あるコーヒーのCMが頭をよぎった。世界の多くはおじさんが作っている、という感じのCM。

「結局さあ、世界にある苦しみの半分はおじさんが作ってるよね」

友達には極端だと笑われた。でも私の胸はすっとした。世界の半分の苦しみ。怒号、クラクション、説教、強制、すれちがい、会議、戦争。おじさんが消えたら、それも全部なくなるんじゃないかな。

酔いすぎだよ、と笑いながらも、友達は追加の酒を取りに行った。


 ある長崎への家族旅行の帰り道、私は後部座席で涙を流していた。きっかけは運転していた父との言い合いだ。軽い言い合い。同乗していた母と兄がなだめてすぐにおさまった。長く反抗期は続いていたが、最近ではすっかり仲良くなった父だった。ただ旅行で疲れ切っていたから、気が立っていただけだ。そう思っても、涙は止まらなかった。マスクをして窓側を向いて寝たふりをしたまま泣いた。父の理不尽に、何度も風呂場で泣いたことが自然と思い出されて、何度も瞼に涙がたまった。マスクが濡れて透けていませんように、と思った。そのうち本当に眠ってしまった。

 目が覚めると車が止まっていた。どこかのSAに停まった様だ。家族は全員出かけていったようだ。そのうち帰ってきた母と兄は、片手にバーガーを持っていた。最後に佐世保バーガーを食べていなかったことに気づいたのだという。父は煙草を吸いに行っているようだった。私は食欲もなく、イヤホンで音楽を聴いて空を眺めていた。

 そのうち父が帰ってきて、車を運転し始めた。私がまだぼーっと空を眺めていると、母が佐世保バーガーの残りをくれた。目玉焼きがパリッとしていた。ボリュームのあるレタスに対しても負けないくらいパテが重厚だ。食欲は無いわけではなく、隠れていただけみたいだ。

「だいぶ並んだけど、並ぶだけあったね。旨いわ」

母が言った。

「おばちゃんが作ってたね。なんか意外」

という兄の言葉に私はソースを舐めながら思った。

「世界の幸せの半分は、おばちゃんが作ってるのかも」

そう言うと、極端だな、と父が笑った。

 


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― 新着の感想 ―
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