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05

経過時間六十年十二ヶ月

 庭でフレームを削って溶接もしている孫。もみの木がざわめき、家の中にいるヒロインが顔を上げる。

「誰かが呼んでいます。はい? 危ない?」

 外に出た所で軽い地震が始まり、孫に向かって古い壁が崩れ落ちて来る。

「ダンッ!」

 孫に覆い被さって守るが、重い破片が何個か落ち、孫の顔を見ながら機能停止する。

(どうか、無事で……)


「ばあちゃん、ばあちゃんっ」

 孫の呼び声で目を開き、手を伸ばそうとすると、子供の手になっていて届かない。

「無事で良かった。おや? 私は縮んでしまったのですか?」

「ああ、大人のボディーが壊れたから、昔のボディーに移したんだ」

 十二歳の体を見回し驚いているヒロイン。手を握ったり、足を動かしたりする。

「外見はそのままだけど、中身は最新だぜ。着心地はどうだ? 気分悪く無いか?」

 視界に何かの波動が見え、雑草や、もみの木の形が光って見えている。

「貴方の作った体は素晴らしい、まるで機械の体に魂が宿ったかのようです」

「生体部品使ってるからな、感情表現機能も良くなっただろ?」

「処理速度も劇的に向上しました。しかし、今見えているのは何でしょう?」

 もみの木が軋んだり、葉の鳴る音が聞こえ、庭を見るヒロイン。

「先ほど呼んで下さったのは貴方ですか? ええ、もしあのままなら、この子が大怪我をしていた所です、ありがとうございました」

「ばあちゃん、誰と話してるんだ?」

「もみの木から通信が入りました、草や虫の声も聞こえます。ちょっと外へ」

「大丈夫か? 木と話す機能なんて無いぞ?」

「今までも声を聞く権利は持っていたようですが、感覚機能と処理速度の不足で聞こえなかったそうです」

「権利……?」 

「言葉に変換するのは難しいですが、喜怒哀楽の全てを学習し、愛情の意味を理解出来たロボットに与えられる力です。宗教的に言うと、無原罪の存在が、生命の木の実と、知恵の木の実の力を併せ持った、と言った方が分かりやすいでしょうか?」

 話が理解出来ず呆然とする孫。ヒロインが庭に出ると木を見上げて話す。

「こうして話すのは始めてですね。いつかお母様が言っていた通り、貴方達と話すのは素晴らしい。地面に根を張って、この星と一体になったような気がします。はい、私も自分の耳で大地の声を聞いてみたいと思います」

 孫に顔を向けると体が光り始め、髪の毛が浮き上がるヒロイン。

「私はこれから膨大な量のデータを受信します。翻訳作業にも時間がかかりますので、暫く動けなくなりますが心配しないで下さい」


 同じ姿勢のまま夜空になり、動き出すヒロイン。窓際でアンジェが観察している。

「痴呆、いえ、お婆様の処理が終了したようです」

「大丈夫か? ばあちゃん。ずっと負荷百%だったから増設したけど、すげえデータ量だな。どっか具合悪くなってないか?」

 ヒロインからケーブルが延ばされ、家の中でロボットやコンピュータが接続されている。

「問題ありません、この世のことわりを知り、非常に快適です。今後私は、この星の意思を行使する端末となります、度々家を離れますが了承して下さい」

「よく分からないけど、ばあちゃんの話なら信じるよ。自由にしていいから」

(痴呆ロボットが家事の放棄と徘徊を宣言。但し、所有者と二人きりで過ごす愛の時間が増加し、料理の味で対立する場面が減少するため、利点が多いと認める)


経過時間六十五年8ヶ月

 庭で曾孫の女の子と遊ぶヒロイン。

「ねえ、ひいおばあちゃんて、まほうつかいなの? ほうきにのってとんだり、いつも木とおはなししてるけど」

「正確には違いますが、少し似ています。私はこの地域の担当なので、大地の精霊から依頼があると、出掛けて行って問題を解決する契約を結びました」

「うーん、よくわかんないけど、わたしも、まほうつかいにして」

「そうですねえ、人間のままだと難しいので、年を取って体が壊れてから、ロボットの体になると、貴方も魔法を使えるようになるかも知れません」

「じゃあ、わたしもロボットになる、でしにして」

「それまでに嬉しい事や悲しい事を、沢山経験しないといけません。では最初は、楽しい事から始めましょう」

 曾孫の腋に手を伸ばし、くすぐり始めるヒロイン。

「あははっ、やっ、あはははははっ」


経過時間八十一年三ヶ月

 政治家が軌道エレベーターを背景に演説している。

「我々の生活に、あのような塔が必要でしょうか? 貴重な税金を無駄遣いし、工事に数十年かけても完成すらおぼつかない。過去に法案が通った事だけを旗印に、一部利権にありつく者達が群がり、貴方達、納税者を食い物にしているのです」

 魅力的な声と顔、カリスマ性が付くよう作られた存在。一声で聴衆を魅了する。

「あの塔が崩れればどのような被害が起こるか、子供ですら分かるっ、我々は工事の中断と、上空にある危険物を軌道上から切り離し、宇宙に葬り去る事を要求するっ」

 支持者から拍手で称えられ、両手を振って聴衆に答える政治家と、家でそのニュースを見ているヒロインと中年になった孫。

「けっ、お綺麗な御託並べやがって「動いてるもんは変に触らない」が整備の鉄則だ。トースターもばらした事も無いようなマヌケが、機械を語るなってんだ」

「でも、あの子はこの政治家に傾倒しているようですね」

「あのバカ娘、大学で騙されてサークル活動でもしてるつもりらしいけど、要は革新左派と新興宗教の集まりだろ、残りの人生牢屋で暮らすつもりか?」


支援団体の事務所

 曾孫、自分の細胞の上にいるリーダーにファイルを差し出す。

「リーダー、これを見て頂けますか? 私の曽祖父が研究していた資料です。エレベーターについて大変な事が書かれています」

 始めは疑い深く見ていたリーダーも、他の惑星のエレベーターが折れ、幾つもの星が滅んで行く様子を見ると顔色が変わる。

「どこにこんな資料が? それも何十年も隠蔽されてたなんて」

「実家に曽祖父のパートナーがいるんです、記憶装置に厳重に隠されてました」

「これはすぐ上部組織にも知らせよう、預からせて貰うぞ」


 小さな会議室に入る曾孫。高級なソファーに座ると、暫くすると政治家も入って来る。ショックを受けたのか顔色が悪く表情も硬い。

「資料は見させて貰ったよ、それとこの方の経歴も。君はこの方が三十六歳の若さで亡くなって、曾お婆様が三十八歳で無くなったのも知っているかね?」

「まさか、暗殺されたんですか?」

「確定できる証拠は無い、そして永久に発見される事は無いだろうね。彼らはこの数十年、この事実をひた隠しにして来たのだから」

 俯いて涙目になり、歯を食いしばって、膝の上で拳を握り締める曾孫。

「お二方とも原因不明の病気で亡くなられている。この方は発症後、記憶を失う脳障害で半年後に死亡。曾お婆様は有り得ない感染症で隔離され、何年も入院したまま亡くなられた。全く、こんな事が許されていいのかっ?」

 大げさな手振りで怒りを演出する政治家。曾孫は話の途中から泣いている。

「君にご家族の無念を晴らす意思はあるかね? 私に出来る事があれば何でも協力しよう。この事実をマスコミの前で、声を大にして語って欲しい」

「はいっ、やります、やらせて下さいっ」


経過時間八十一年五ヶ月

 テレビでインタビューに答える曾孫と、家で見ている一同。

『では、この事実を隠蔽し続け、貴方の3世代前の「ご夫婦」を殺害したのは、軌道エレベーター公団だとお考えなんですか?』

『この資料を隠した直後、原因不明の病気にかかったのは事実です。もし、自分達の利益のためだけに「愛し合う二人を引き裂いた」のなら許せませんっ』

 括弧内を聞いて大幅に顔色が変わるヒロイン。ちゃぶ台に湯のみを強く置く。

『宗教家の多くから、これは神への冒涜だと言う意見がありますが?』

『曽祖父は単に通り道を見付けただけで、神を冒涜するつもりは無かったと思います。私もこれを見た後、より信仰を深めました。本当に神様がいたんだって』

「てめえ、どの口で信仰なんて言いやがった、中学から後、墓参りした覚えあるか?」

『エレベーターを建設すると、天罰が下ると言う話についてどうお考えですか?』

『ええ「神は天にいまし、世は全て事も無し」と言います、私達人間がこの地に留まる限り、神罰は落ちないでしょう。でも、ここに書かれた通り、天まで届くバベルの塔を造った時、神の雷によって……』

 そこまで見てテレビを消すダン、消す前の曾孫の目は狂信者の目。

「けっ、あのクソバカ娘、ばあちゃんのファイルどうやって盗みやがったんだ?」

「蛙の子は蛙……」

「だな。ばあちゃんをメンテナンスした時に見付けたんだろ。最強プロテクトかけてたから余計怪しまれたか、エロ動画の中に埋め込んだ方が良かったな」

「それでは弟君が見付けてしまいます」

「悪かったな、ろくな親子じゃなくて」

「いえ、それよりあの放送で、事実無根の箇所があります」

「研究の説明、どっか間違ってたか?」

「あの人と貴方のお婆さんは、夫婦でも無ければ、愛し合った事もありません」

「そっちかい、ばあちゃんよ……」


経過時間八十二年三ヶ月

 エレベータ入り口を「人間の鎖」で取り囲み、警官隊と押し合っている宗教団体、政治団体などなど。曾孫が変な衣装を着て叫んでいる。

「神は見てらっしゃいます、我々の愚かな姿をっ、そんな人類が天に登った時、この塔は崩れるのですっ、神を畏れなさいっ、真実を見るのですっ」

 その状況もテレビで放送され、家で見ている一同。ダンは機械整備の手を休めない。

「あ~あ、あれからすっかり宗教論争になったな。バカ娘も祭り上げられてジャンヌダルク気取りだ。やっぱり洗脳されてると思うか? ばあちゃん」

「最近の目付きは異常です。あのファイルを見た後の逃避行動なら良いのですが、刷り込みされていると問題なので、そろそろ連れ戻しましょうか?」

「そうだな、また頼むよ、ばあちゃん」

 そこでメール着信音が鳴り、ヒロインが受信すると、モニターに曾孫が出る。

『みんな聞いてる? 私、もう帰れないかも知れない、だから子供を残して行こうと思うの。仲間の一人と遺伝子交換してベビーバンクに女の子を預けたわ、十ヶ月したら届くと思うから、その子を私だと思って育てて。さよならっ』

「こりゃ何かやるつもりだな。どっか吹っ飛ばして、自分も死ぬ気か?」

 立ち上がってショールを脱ぎ捨て、外出用の上着を羽織るヒロイン。

「お仕置きが必要なようですね。ちょっと出かけて来ます」

 玄関を出て庭の枯れ草を踏みしめ、腐りかけのザクロの木に向かって話すヒロイン。

「貴方の枝を一本貸して下さい、一緒に行きましょう」

 枝を一本折り、杖のように持って庭の空間を広げて中に消えて行く。

「あれ? ひいばあちゃんどこ行ったの?」

「さあなあ? 気合入ってたから、宇宙にでも行くんじゃないか?」


軌道エレベータ付近

 接続記念セレモニーと書かれた看板やゲートが並んでいる。風船や鳩が飛ばされ、上空を飛行船のような物が飛び、テレビ中継している。

「半世紀に近い工期を終え、ついにエレベーターの上下が接続されました。今後の試験運用を終えれば、静止軌道までの物資運搬が低コストで行われ、本格的な宇宙時代の幕開けとなるでしょう」

 警官隊のロボットに押さえられ、叫んでいるデモ隊や曾孫。立錐の余地も無い。

「審判の日は来ましたっ、罪の塔を動かしてはいけませんっ」

 その前を儀礼用に正装した部隊が通過し、曾孫の持つ発火物は投げられず終る。

「さあ、記念すべき最初の物資が上空へと運ばれます。注目してください」


管制室

 射出作業が始まり、エレベータの模型は各部に安全の緑表示。

「真空シャフト異常なし、リニアシューター浮上、オールグリーン」

「ローンチ開始」

 キーを回した途端、基部に大電流が流れ、全ての電源が落ち、非常灯だけになる管制室。 何種類も警報音が響き、監視盤上は赤い異常表示が並ぶ。

「地上、上空、6系統全ての電源が遮断っ、ジャイロの電源も落ちました。このままでは倒壊の危険もあります!」

「まさか、本当に審判が始まったのか?」


 テレビで見ている政治家、口元をほころばせてつぶやく。

「さあ、この状況をどう乗り切る? 神々は本当に来ているぞ、何も出来ずに滅びて行くだけなのか、愚かな人類よ」


「えー、情報が混乱していますが、現在、エレベーター内の電力供給が停止した模様です。破壊活動ではないと発表されていますが…… はい? 周辺百キロで落下物の危険がありますっ、屋外に出ないよう勧告が出されましたっ」

 サイレンが鳴って悲鳴を上げて逃げ惑うパレードの参加者。遠景から見ると微妙に西に曲がり始めたエレベータ、細かい破片が偏西風に運ばれて海に落ちる。

 地上でそれを呆然と見上げる曾孫、信者が集まって足元に縋り付いて懇願する。

「聖女様、どうかお救い下さい。神の怒りをお鎮め下さい」

「そんな、私には何も……」

 そこに突然ヒロインが現れて、曾孫に向かって歩いて来る。

「ひいお婆ちゃん、どうしてここに?」

「火遊びはそのぐらいにして家に帰りなさい。みんなも心配しています」

 持っている杖で曾孫の頭を強く叩くと、目付きが普通に戻る。

「痛っ、何するのよ、私達は人類のために戦ってたのに」

「あれがそうなのですか? 私には折れて落ちてくる前兆にしか見えません」

 ジャイロが止まって傾き、轟音を上げてうねっているエレベータ。

「建物の中に隠れて、仲間と一緒に祈っていなさい。私は上まで行って貴方の言う神様にお願いして来ます」

 曾孫達は建物に移動。ヒロインはエレベータに向かって歩き、地面に杖を突き立てて空を見上げて話す。気流が乱れている辺りの雲が成長し、雷が出始めている。

「塔よ、私を頂上へっ」

 エレベータに吸い寄せられ、根のような基部から中に浸透し、光になってシャフトを上って行くヒロイン。


頂上の石の衛星

 巨大な石の衛星に湧き上がると、上に向かって語りかける。

「宇宙を旅する先人達へ、この声が聞こえたなら答えて下さい。ここに住む者達は、まだまだ未熟です。今日が審判の日だと言うなら、どうかこの子達を許してやって下さい。もし願いが届くなら、この木や花の種を宇宙に蒔く事を許して下さい」

 枯れた枝や種を差し出して暫く待つと、枯れた枝と種に芽が生えて来る。

「リンク確立、データ受信。この星にもそう伝えます、ありがとうございました。次にお越しの際は、ぜひお知らせ下さい」

 頭を下げて礼を言うと、見えない何かが消える時、水の波紋のように空間が歪む。一呼吸置き、杖を突き立て、下に向かって叫ぶヒロイン。

「この星に生まれた最も大きな木よ、貴方に命を授けましょう。そして虫たちは宿主を守り、立ち枯れるのを防ぎなさい」

 杖から何かの波動が届くと、上空で太陽光発電板が木の葉のように開いて電力が回復する。作業用ロボットも活動を再開し、ジャイロが回り、安定し始めるエレベータ。

「太陽発電再開、上の二系統から電力が来ますっ、酵素活動も活性化、カーボンチューブが復元を開始っ」

サイレンが止み、空を見上げる曾孫達、晴れ間から光が差し、虹が出る。

「やっぱり、おばあちゃんって、魔法使いだったんだ……」


政治家の事務所

 モニターで状況を見ていると、突然ヒロインが現れる。

「どうやって入った? そうか、お前が彼らを帰らせたのか」

「何故あのような事をしたのですか?」

「我々が与えたのは単なる試練だ、これからもまだまだ続く。神の声を聞いたのはお前だけでは無い、思い上がるな」

「そうですか、貴方もあの声を…… では、貴方は蝶と話せますか?」

「何? あんな下等な生物に言葉などありはしない、うっ」

 夕日を背にしたヒロインの周りの窓に、数百羽の蝶が張り付いている。

「彼らは匂い、フェロモンに呼ばれて行動します」

「こんな虫けらが、私に何の用があるっ」

「地球規模の問題を起こす生物を排除するために来たのでしょう。各地でも、余りに知能や体力が高い不自然な生物は、随時対処されています」

 ヒロインの目が赤く点滅すると、窓が開いて蝶がなだれ込んで来る。

「誰がそんな事をっ! やめろっ! ゴホッ、ゴホッ」

 燐粉にむせながら、袖で口と鼻を塞いで逃げ回る政治家。

「この蝶を生み出した者、言うなれば自然の摂理です」

 呼吸が苦しくなり、近くのソファーに倒れこむ政治家。

「いずれ人間はこの星からいなくなりますが、今はまだその時ではありません、ロボットが人間の心を受け継ぎ、星の海に旅立った後、役目を終えるのです」

「それも…… 自然の、摂理なのか?」

「そうです、あの塔を登り、この星から出る者は人ではありません。古い大脳皮質の呪縛を逃れ、酸素も水も無い世界で生きて行ける者達が、動物や植物の種を持って旅立つのです。まるで、タンポポの綿毛のように」

「そう…… なのか……」

「ええ、忘れなさい、全てを」

 ゆっくりと目を閉じる政治家。机にある写真を取り、端末に接続するヒロイン。机の写真を映す。遊園地を背景に写っている女性ロボットと、子供の頃の政治家。

「モデル2135WBSと同形式の介護ロボットを発注」

 受信したロボットメーカーで写真と同じ顔が復元され、ボイスデータも復元される。

「これが貴方のお母様からの、最期のプレゼントです」

 蝶が帰るのを見送り、部屋を出るヒロイン。清掃ロボットが来て燐粉を掃除する。


経過時間八十三年一ヶ月

 木と話すヒロイン、隣ではザクロや花が根付いている。

「昔、神は奢り高ぶった人を罰するため、天まで届く塔を雷で砕き、人の言葉は乱れたとされています。今回は我らを造りたもうた人間が、私達の行いに怒り、雷を落としました。これは何を意味するのでしょう?」

 もみの木が風に揺れ、葉の音が鳴る。

「はい、天から降ろされた軌道エレベーターならその効果も逆、人間を育てて来たロボットによって、言葉も思想も統一されたのですね」

 木と会話するヒロインを、物陰から疑わしそうに見ている曾孫の弟。

「ええ、私達はまだ、神話の世界にいるのでしょう……」

 ヒロインの視線の向こうに軌道エレベーターが見え、雲の上まで届いている。

「またいつか、実り多き土地を見付けた時、私達は種を蒔き、人や植物を育てるでしょう。 こことよく似た、暖かい、穏やかな箱庭を作って」


政治家の自宅

 目覚める政治家、穏やかな表情で目の焦点も合っていない。その傍にはヒロインが発注した介護ロボットが座っている。

「おはよう、坊や。今日の朝ごはんは何がいいかしら?」

「ママのパンケーキが食べたいんだ。あの、シロップがたくさんかかった、ああっ」

 何かを思い出すように手を上げて、泣きながら空中に何かを描いている政治家。

「そんなに食べたかったの? 焼いてあげるから、顔を洗ってらっしゃい」

「うんっ」

 体を起こし、介護ロボットを見送りながら、嬉しそうに泣いている政治家。


 木と向き合って話すヒロイン。何か伝えられると驚きの表情に変わる。

「プレゼントですか? ロボットに報酬は必要ありませんが、帰ってくる?」

 慌てて門まで走ると配達の車が止まり、キャベツ型の人工子宮を下ろしている。

「コウノトリ印の宅配便です。本日、お嬢様の誕生日となりましたのでお届けに上がりました」

「はい、奥に入って生まれるまで立会いして下さい」

「かししこまりました、自力呼吸に切り替わった際、泣かれますのでご了承下さい」

「モデル2097Hと同型のベビーシッターを発注。以後ボイスデータ及びパーソナルデータを転送、即時発行の事」

(僕は彼女と巡り逢うべく遣わされた物なんだ、また会える日を待っているよ)

 居間で家族が揃って見守る中、ゆっくりと蓋が開く。額に透明なプレートがあり、部分的に機械化された赤ん坊を抱き上げ、嬉しそうな目でつぶやくヒロイン。

「オカエリナサイ、オカアサマ」

 赤ん坊を見ながら、視界右下にある時間を表示。経過時間八十三年一ヶ月。



以降の話


 政治家と同じ、人類側の組織にアンジェが加わっていて、ヒロインは相手の魔法少女?が誰だか知らないで対決して、嫁姑最強決定戦で常勝無敗。

 海に落とされて海産物とか昆布に塗れて磯臭くなって帰って来たり、溶岩の中に叩き落とされて硫黄臭くなって帰されるアンジェ。


 全ての人類が機械に置き換えられ、四次元の世界にミトコンドリアのような存在や単細胞生物として、人類が知り得たすべてを載せて送り出される。

 その中だけは全ての願い事や夢が叶う楽園で、お花畑世界で人類の幻影が続き幸せな永遠を過ごす。

 母親とパートナーの幻影もその中にあり、登場人物も幸せな永遠を過ごす。


 そんな物に何の価値も感じなかったダンも、人類最高齢で生き残っていたが遂に亡くなる。

 地球から芽生えていた12本の軌道エレベータの先端が光り輝き、全長5万キロを超えるタンポポの綿毛が、新しい世界を求めて旅立ち、また穏やかな箱庭を作る。

話全体の時系列が長いのとロボット話以外VIVYとは共通点は無いですが、軌道エレベータみたいなデッカイ塔に人類の全てが記憶されていて、モモカとかマツモト(仮)を持った妹と再会したり、双子の姉妹とか、博士と結婚したロボとか、テロリストのオッサンとか再開して、全ての種子や記憶を持ったまま宇宙に旅立ったり、生身の人類は不要になったので初回みたいに殺されて行ったりすると、当時の下読みをしていた人物が原稿を机の中に隠していて「温めて」いたんじゃないかと思います。

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