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02

経過時間十七年十ヶ月

 目の前の少年が真剣な表情で話しかける。

「姉さん…… 話があるんだ」

「何でしょう?」

「大学院を出たら、民間の研究所で働こうと思う。一緒に来て欲しい」

「はい、いつも一緒です」

「いや、そうじゃなくて、その…… 俺と、結婚して欲しい?」

(現実との乖離を確認、ロボットに婚姻を要求)

「私などで良いのですか?」

「ああ、俺は姉さんでないと駄目なんだ。周りの奴らとは話にもならない」

「情報交換のためにも他の人と会話するのは重要です。 民間企業なら貴方と話が合う人がいるかも知れません」

「そんなのどうでもいい、姉さん? 俺と結婚してくれるのか? 嫌なのか」

「もちろん私は構いませんが、お母様とも相談してみましょう」

「ほんとかっ? 母さんの許可があればいいんだな? すぐ聞きに行こうっ」


居間で家族会議

 ヒロインと男性型は目を点滅させ、座る前に情報転送終了。

(新所有者から婚姻の要求を受けました、今回は私の譲渡請求のようです)

「四月から就職しようと思うんだ。だから、姉さんを連れて行きたい。名義変更とか色々あるだろうけど、働いて返すよ」

「いいのよ、二人とも出て行くなんて寂しいけど、お、し、あ、わ、せ、に」

 意味あり気な母親の言い回しで、下を向いて赤くなる少年。

「でも、ボディーは置いて行ってくれない? 手足は伸ばしてあるけど、体は十二歳のままだから、二十歳ぐらいにした方が良いでしょ」

「それじゃあ、何だか姉さんじゃなくなるみたいで嫌だな」

「機種変更より新規契約の方が経済的です、お試し期間があるので、それに学習データを追加すれば……」

「駄目だよ、人格システムも全部、姉さんのままじゃないと意味が無い」

「あらあら、ご馳走様。じゃあ、新しいボディーにこの子を移して、今のボディーはこの子の妹として、この家に残るって事でどう?」

「ああ、俺はそれでもいいよ」

「貴方はどう思う? さっきから何も言わないけど?」

「そうだね、何だか娘を嫁に出すような気分と、息子に奥さんが来るような複雑な気分だよ。私に出来るのは…… 新しいカタログを出すぐらいかな?」

 笑う母親と、苦笑いする少年。様々なタイプの女性が表示される。

「さ、選びなさい。新しいお嫁さんはどんな子かしら? 身長が二メートルもあったり、バストが一メートル以上あったりするかも知れないわね」

 おどけて背伸びしたり、両手で大きな胸を作って見せる母親。

「そんな訳ないだろ。モデル2102CLBSの更新」

「現在お嬢様は、限界まで身長を伸ばしています。これ以上は人口筋肉の交換が必要となりますので、機種変更をお勧めします」

「新規契約して人格データも全部移植。新しいライセンスを今のボディーで使用。 姉さん、いや、モデル2102が二十歳程度に成長した姿を表示」

 等身大で表示され、回転している映像。少年は見とれて声も出ない。

「どう、気に入った? お~い、帰って来いよ~」

「ああ…… すごく良い」

「文句が無かったらすぐ注文。貴方もいいでしょ?」

「ああ、「全ては、貴方のお望みのままに」だね」

 呆れた表情で、少年に投げキッスをする男性型ロボット。笑っている母親の前で、少年が「発注」ボタンを押す。


経過時間二十年五ヶ月

 ウェディングドレスのヴェール越しに物が見えているヒロイン。隣の夫を見るとタキシード上下を着て緊張している。

「それでは新郎新婦の入場です、拍手でお迎え下さいっ」

 パーティー会場を歩いて行く二人。参加者は仕事の同僚と、母親の友人が少し。 感極まって泣いている母親と、それを支えている男性型ロボット。

「あたし、今まで生きてて良かった」

ロボット「よく見ててあげよう、息子の成長した姿と、娘の晴れ舞台だ」

 奥まで歩き両親の隣に座る二人。司会進行が上司に何か話しスピーチさせる。

「え~、彼は非常に優秀な人材であり…… などと説明する必要は無さそうだな。 惜しくも彼を逃した女性陣と哀れな男ども、今日は許す、飲んで騒いで忘れろ」

 スピーチが終わると、恥ずかしいパーティーグッズで飾られる夫。

「入って来た時から狙ってたのに、まさか0歳から約束してた相手がいたなんて、お姉さん知らなかったわ。でも生身の女が良かったら、いつでも言うのよ」

「見苦しい、八歳も下の子に絡むんじゃない」

「じゃあ遺伝子交換しましょう。私が貴方の子供産んであげるから~」

 同僚数人に捕まえられ、引き摺って連行される女性。それを苦笑いで見送る夫。

「あ~ん、あたしの可愛い坊や~」

 男女に分かれて話している風景。夫の後ろから首を絞めて話しかける先輩。

「よう天才、上手くやりやがったな。うちのベビーシッターは婆さんのロボットだったんだ。俺もお前みたいに可愛い姉さんに育てて欲しかったよ」

「やめてくださいよ、コホッ、先輩のパートナーだって美人じゃないですか」

「それが違うんだな、二十年来の恋を成就させた野郎と、コーヒーの濃さまで、一から学習させないといけない新品なんて、歴史の重みが違うんだよ」

「でも恥ずかしい事とか、昔の失敗も全部覚えられてますよ」

「そりゃまずいな……」

「そう言えば前に遊びに行った時、そのお婆さんが、先輩が学園祭でギター弾きながら歌ってるビデオ、嬉しそうに見せてくれましたよ」

「何だと? あのババア、まだあんな物隠し持ってたのか? 忘れろ、今すぐ忘れろっ」

「どうしてですか? 格好良かったじゃないですか、こ~んな髪型して」

 奇妙な髪型を手で表現しながら、蔑むような目で見る夫。

「忘れる気は無いようだな、じゃあ、今すぐ口封じしてやる」

 唇を尖らせて、夫にキスしようとする先輩。

「やめて下さいっ、もう酔ったんですか? うわっ」

 その状況を見ているヒロイン。視界の一部だけ拡大され、音声も聞いている。

(同僚と楽しそうに遊ぶ状況を確認。アルコール摂取があるとしても、他人との協調性を確立した物と認める。修正を完了、経過を観察)

 目線を下ろし、涙を一筋流すヒロイン。それを見た女性の同僚が声を掛ける。

「あら、感情機能が飽和して溢れて来たの? でも男なんて信用しちゃだめよ、新製品が出たらすぐに、「作業が増えたから、新しい助手を買おう」なんて言うんだから、あそこに五、六人いるでしょ、全部そうよ」

「私は構いません、妹が増えるようで嬉しいです」

「く~っ、健気ねえ、私もこんなお嫁さん欲しいわ」

「あんた、そっちの気もあったの? それとも男に性転換するつもり」


経過時間二十二年一ヶ月。研究所で白衣を着たまま、庭で食事をする夫。

「そろそろ子供が欲しくないかい? 出来たら俺の子供を産んで欲しい」

(ロボットに対し出産を要求。これを信じている場合、問題あり)

「私には産めません、遺伝子提供者と代理母が必要です」

「まあ、そう言ってしまえばそうなんだけど、もっと精神的な繋がりと言うか、愛情の象徴が欲しいんだ、最初は君にそっくりな子がいいな」

「はい、それなら可能です。遺伝子提供者はどうしますか? 以前、同僚の方から申し込みがありましたが、交換なら費用がかからず経済的です」

「あの人は面白すぎるからイメージが違うな、それに結婚式の時の話は冗談だと思うよ。 相手は…… 少し検索してみたんだけど、見てくれるかい?」

 ポケットからファイルを渡され、表示させると全員ヒロインに似ている。顔はほぼ同じ。

「皆さん、私と非常に似ています」

「この中で俺の提示した条件に、限り無く近い提供者がこの人だ」

 夫が資料に触れると、ヒロインそっくりの女性の映像が再生される。

卵子提供者『私は、頭も良くありませんし、スポーツも苦手です。出来るのは家事と農作業、後は編み物ぐらいです。特技は牛や馬の声と表情で、何をして欲しいか分かる事。 趣味は少女漫画やジャパニメーションを見るのが好きです』

「人格データも君に似てる。こんな女性の遺伝子が無視されて、一度も子供が生まれないなんて、人類の損失だと思わないかい?」

「しかし、IQは百前後、運動能力も標準、学習障害があり、判断力、認識力、情報処理能力も低く、無償提供なのが唯一の利点です」

「日照りに強い花、水や養分が少なくても生き残る花、その人達はそんな存在だと思うよ。そこに咲いてる名前も知らない花みたいに」

 刈られた植木の中でも、他を押しのけて咲いている雑草。

「研究成果もそれを証明してる、今の天才児達は、自分の実の重みで穂や枝が折れてしまう脆さを併せ持っている。それを修正するには在来種との交配が必要だよ」


経過時間二十二年三ヶ月

 自宅でくつろいでいる二人。

「ビデオメールが届きました、開封します」

『あの、こんな凄いオファーを頂けて驚いています。私みたいに何の取りえも無い女に、年収の何倍もするシードを頂けるなんて。でも自分の子供がどうなるか分からないのは怖いんです。私を代理母に指名して下さい、元気な子供を産んでみせます』

(契約の条文を理解していない発言。読解力の欠如、自分だけは例外と考える判断の甘さ、これは典型的な……)

「まだ命懸けで子供を産みたい人も残ってたんだ。優しい所も君と同じかな」

「生活に困窮して、代理母としての報酬を求めているのかも知れません」

「それは構わないと思うよ、卵子提供者が自分の母胎で育ててくれるなんて、願っても叶わない事だ。代理人を通して報酬の交渉もしてみよう」

「しかし、このタイプは、必ずと言って良いほどトラブルを起こします」

「それも考えてるよ、赤ん坊が家に来て戦場になるより、何年か預けて実の母親に愛されるのも良いかも知れない。それに俺は、君以外の誰かを愛せるか自信が無い」


経過時間二十二年十二ヶ月

 怒っている表情と声で話すヒロイン。

「ビデオメールが届きました、予想通りの結果です」

『お願いです、私から赤ちゃんを取り上げないで下さい。これからこんなオファーは絶対ありません。私には高価なシードは買えませんし、優秀な子を産めるなんて最初で最後です。この子は私が働いて育てますので、どうかお願いします』

「契約の不履行、認識力の欠如、訴訟を起こす必要も無く、裁判所から引き渡し命令が出るでしょう」

「君は厳しいな、でも、世間の女性がこんな状況になってるなんて始めて知ったよ。高価なシードも買えず、ほんの少しの遺伝的綻びで子孫すら残せないなんて。世界にいる他の「姉さん」にも連絡したくなったよ、許してくれるかい?」

 嫉妬しているとも無表情とも見える、複雑な表情で答えるヒロイン。

「私は構いません、自由に決めて下さい」

「こっちも身重のまま逃げ出さないように連絡しておこう。メール、録画開始。パートナーに似た女性が泣くのを見るのは忍びない。養育はお任せするとして面会はさせて頂きます。今後、報酬、養育費に関して貴方に不利になりますが、農村で伸び伸び育つ子供をぜひ見たいと思います。録画終了、送信」

「それでいいのですか?」

「ああ、俺には君が…… 姉さんさえいてくれればそれでいい」


経過時間二十三年四ヶ月

 ロボットカーに乗り面会に来た二人。家の前に一家が並び、父母と提供者に迎えられる。言葉に訛りがある一同。

「どうも、娘のわがままを聞いて下さり、何とお礼していいやら」

「それに高名な学者様の御子が、私どもの孫になるなど、有難いことです」

「いえ、私など一世代しか収穫出来ない種と同じです。自然に産まれたお嬢さんに比べると脆く、枯れやすい。子供はここで逞しく育ててやって下さい」

 両親の後ろから恥ずかしそうに出て来て、赤ん坊を差し出す卵子提供者。

提供者「は、初めまして、この子が私達の赤ちゃんです。ど、どうぞ」

(左手薬指に指輪を確認、婚姻関係が発生したような妄想が認められる)

「経過は如何ですか? 母子共に健康なら良いのですが」

「まあ立ち話もなんですから、ささ、お入り下さい」

 トレーラーハウスで談笑する一同、周囲の牛小屋や母屋は木造。赤ん坊専用の家の中は、子供用品で埋め尽くされている。ベビーシッターは夫に似ている。

「入院中も母が何度もお邪魔して、ご迷惑をおかけしました。初孫だと言って騒いで、この部屋まで送ってしまって」

「いえ、こんなによくして頂いて、本当なら訴えられて当たり前なのに……」

「今日も来ると言って聞かなかったんですが、話も出来なくなるので、いつものホテルで待たせています。面倒でしょうが次の孫が生まれるまで付き合ってやって下さい」

「あの、それでお義母様から「二人目はいつ?」って聞かれたんですけど、後でお話させて頂いてよろしいですか?」

(再度、婚姻関係が存在するかのような発言、法的処置を検討)


納屋の裏

 卵子提供者と夫、ヒロインは不機嫌そうに隠れて聞いている。

「あの、ベビーシッターを貴方に似せてしてしまったのは許して下さい。最初のメールを頂いてから、どうしても貴方の事が忘れられなくて…… それと次の子は、その…… 自然に授かると、嬉しいです」

 顔を真っ赤にして手で隠す提供者と、憮然とした表情になるヒロイン。

「すみませんがそれは出来ません。理解して頂くのは難しいかも知れませんが、彼女は私の愛情の対象と言うより、神に対する信仰の対象に似ている、と言えば分かって頂けますか?」

 理解出来ないと首を振る提供者と、少し嬉しそうなヒロイン。


経過時間二十三年十一ヶ月

 非常に不機嫌な表情で話すヒロイン。

「感謝のメールが沢山届いています。最高額に近いシードを無償提供して、条件はベビーシッターを付けるだけ。女性の中には、感激の余り泣いている方もいました」

「君がそんな怖い顔するなんて久しぶりだな。妬いてくれてるの?」

「この状況では、この表情が適切と判断されたのでしょう、意味はありません。今後もシードの販売予定は無いのですか?」

「俺は君に似た人がいい。売ったりなんかしない、この顔と心を持った人にだけ子供を産んで貰って、それが幸せに繋がるなら構わない」

 ヒロインに近付いて顎を掴み、狂った目で見る夫。

「本当ならこの顔を喜びの涙で満たしたい。この体と触れ合って新しい命が産まれるならどれだけ幸せか。でも姉さんが人間なら俺達は結ばれはしなかった、それに姉さんを失うかも知れない出産なんて恐ろしい行為をさせるはずが無い。このアンビバレンツ、姉さんなら分かってくれるだろう?」

「はい……」

 怯える表情で答えるヒロイン。


経過時間二十六年二ヶ月

 自宅で無表情に話すヒロイン。

「弁護士モード起動。私に似た女性が一名亡くなりました。契約外の出産をするため違法な産院で施術し、救命措置が間に合わなかったと報告されています」

「何て事を…… 代理母を頼むなり、いくらでも方法はあったろうに」

「この場合、子供を高額のシードを産む工場にしようと目論んだようです」

「工場?」

「はい、犯罪傾向の高い一族だったようで、契約を無視して子供のシードを販売する契約をしていました。現在お父様が現地に向かっていますが、このままでは長女が親族に誘拐される恐れがあります。直ちに親権を行使しますか?」

「ああ、そうしよう。恐ろしい一族だな」


数日後

 家に連れて来られた女の子。怯えて男性型ロボットの後ろに隠れている。

「面倒をかけたね父さん、こんな事が起こるなんて配慮が足りなかったよ」

「いや、私達も犯罪の起こし方を教えた覚えは無い、仕方ない」

「やさしいほうのおじいちゃん、この人、パパのほんもの?」

「そうだよ、この人が君のお父さん、遺伝子提供者だ」

「初めまして、私はこの人のパートナーです」

「ママ? いやっ、声がちがう、目の色も。にせものっ、ママのにせものっ」

 それを聞いて夫の顔色が変わり、女の子に向かって強い口調で言う。

「違うっ、君のママが姉さんの偽者なんだよ、俺達を騙した大嘘つきの女がなっ」

「子供になんて言い方をっ」

「ちがうもんっ、ママがほんものだもん、ママをかえしてっ、う~~」

 男性型ロボットに抱き付き、泣き始める女の子。虐待で大声では泣けない。

「やめて下さい、高い知能が発現していなかったため、祖父からも親権を放棄されました。もう帰る場所はありません、誘拐の危険も無くなりましたが」

 ヒロインの言葉で冷静になり、顔を背けて話す夫。

「じゃあ、近くにアパートを借りて、父親のロボットと暮らすのが一番良いだろ」


引越し中のアパート

 ヒロイン、父親ロボットと何か通信して部屋に入る。

「あっ、ママのにせものっ」

「はい、でも私はママのお友達なので、今日は特別にママとお話させてあげます」

 屈んで目線を合わせ、声の調整をするヒロイン。目を閉じて、合掌して話す。

「聞こえるか? あたしはあの世でお気楽に遊んでるから安心しろ」

「あっ、ママだっ、どこにいるの?」

「天国だって言ってるだろ、頭わりいなあ、お前は。でもこのおばさんが別の体くれるらしいから、何なら戻ってやってもいいぞ」

「うんっ、かえってきてっ」

「だりいなあ、二日ぐらいで帰るかもな、それまでポンコツと待ってろよ」

「うんっ」

 暫くして目を開き、女の子に話しかけるヒロイン。

「ママとは、どんなお話をしましたか?」

「えっと、お、おばさんがママに新しいからだをくれるから、まってろって」

「そうでしたか、でも帰ってくると力が抜けて、色々忘れていたり、前みたいにガミガミ怒った出来なくなりますが、それでもいいんですか?」

「うん、そのほうがいい」

「少し違うからと言って、偽者と言うと、ママは天国に帰ってしまいますよ」

「いわないっ、ぜったいいわないっ」

「では良い子にして待っていて下さい。私はママを呼びに行って来ます」

 笑って立ち上がり、ドアを閉める前に手を振って行く。

「あ、あの…… ありがとう、おばさん」

「はい」


外で待っていた夫の車

 結果を報告するヒロイン。少し嬉しそうな表情。

「指示通り話すと、認識能力が低かったため信じてくれました。また偽物と言うと、ママが消えてしまう暗示があるため、多少の違いは我慢するでしょう」

「ああ、それだけのために行かせて悪かったね」

「いえ、非常に良い経験でした。やはり貴方は素晴らしい方です」

「本当に素晴らしい人なら、あの子を引き取って育てるさ。でも俺には出来ない」

「あの子も他所で暮らすより、本当のママが帰って来るのが最高でしょう」

「次は父さんに行って貰うよ、学習させてる「ママ」の調子はどうだい?」

 手をメガホン状にして口に当て、声を調整するヒロイン。

「いいに決まってるだろっ、この野郎っ」

「その声で喋るの、やめてくれないか……」


二日後

 準備が終わって、ロボットメーカーの車に乗って移動する一行。ボディー横に社名。 ママのロボットも車に乗っている。

「今日は行かなくてもいいよ、父さんがいれば十分だ」

「いえ、ぜひ行かせて下さい。学習のために結果を見届けたいと思います」

「良い判断をしたね。今日の結果には本社も注目している、ママの復元には我が社が持つ技術の全てが注ぎ込まれた。報告を待っていてくれ」

 メーカー車内で手を振るヒロイン。走り出すと男性型ロボットと通信を始める。

(所有者も同行させた方が、学習のためにも良かったのでは)

(私以外の存在に愛情を注ぐのを拒否している模様。今後も改善に努力します)

 近所のアパートに到着すると、ヒロインと男性型ロボットから部屋に入る。

「あっ、ママのにせ…… ううん、ママに、にてるおばさん」

「はい、よくできました。これからもその調子でお願いします。ではご褒美に、ママに帰って来てもらいましょう」

 ドアを開け、ロボットのママが入って来る。靴を脱ぎ散らかし、鞄を適当に投げる。

「おお、帰ったぞ。 あ~、疲れた疲れた」

「ママッ、ママッ、う~~~っ」

「暑いからベタベタするんじゃねえよ、ほら、座るのにじゃまだ」

「う~~、う~~、う~~~っ」

(重要な記憶として学習。認識力の低い幼児には、死者の代用としてロボットは未だ有効。この事例では虐待も無くなり、成長の経過を観察するのが必要と認める)

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