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これも他の拙作と同じく、2004年頃のアニマックス大賞やファミリー劇場大賞に応募した物です。
確かお題としては「21世紀のロボット物」だったと記憶しています。
記述の形式も間違っていたためか、かすりもせずに落選しました。
最近はVIVYなんてのもアニメ化されているようなので、脚本形式を手直しして掲載してみます。
脚本のト書きが三人称の字の文に直っていませんがご容赦ください。
ソファーに座り三次元テレビを見ている男性型ロボットと女性。
モニターの中のニュース映像が慌しくなり、女性アナウンサーが走って来る。
「勝訴ですっ、女性の権利として、出産に伴う苦痛と寿命の減少が認められ、損害賠償の判決が出ましたっ、繰り返します……」
男性型ロボットが優しい表情で話す。顔立ちやスタイルは完璧。
「僕は君を不幸にしているのかな?」
あまり美しくない女性、お腹の中にいる子供を撫でながら、幸せそうに答える。
「いいえ、とっても幸せよ。この子は私と貴方の子供なんだから」
肩に手を回し寄り合う二人。女性が指を回すと経済情報に変わる。
「……高値で取引され、IQにして二百以上、運動能力も高い男女の種子に人気が集中しています。これが先進国の出生率減少を食い止める唯一の手段として」
「あたしはIQ160ぐらいだけど、卵子を提供するだけで、この家や貴方を手に入れて裕福に暮らせる。親は嫌いだったけど、これだけは感謝しないとね」
「それより優しい人柄が受けてるんだと思うよ、それにこの美しい髪が」
くすんだ色の金髪をすくい、香りを嗅ぐロボット。
「昔は汚い赤毛で大嫌いだった。顔もそばかすだらけで、性格だって成績の良さを鼻にかけてた嫌な奴だったけど、何もかも変わったのは、貴方に出会ってから」
「僕がしたのは肌のマッサージか、食事のメニューを変えたぐらいだよ」
見詰め合う二人を通り越してテレビ画面へ、説明的なCM。
「独身の貴方、食事はどうしてますか? 自炊? 外食? どちらも大変ですね。当社にご連絡頂ければ最高のパートナーと三つ星シェフをお届けします。高い? ご心配無く、外食の貴方はその差額で十分、自炊の方も全ての家事から解放されるんです」
グラフが表示され、毎月の経費とロボットのランニングコストを比べる。
「そして貴方は、毎日ロマンスの主人公。様々なシチュエーションを配信」
「ああ、貴方はどうしてロミオなの?」
「貴方の罪を唇で僕に移して下さい」
「さらに、コメディ、サスペンス、アクション、全て貴方が主役です」
女性の部屋に窓から入り、花を差し出すロボット、黒装束にマント。
「私は怪盗アルセーヌルパン、貴方の心を盗みに来た」
「ご注文は今すぐこちらへ、0120―ABCD―EFGH」
電話番号を出したまま、ロボット達が投げキッスをして決まり文句を言う。
「全ては、貴方のお望みのままに」
病院の出産場面。赤ん坊の泣き声、母親に男の子を見せるロボット。
「さあ、僕達の子供だよ、抱いてみて」
「なんてかわいいのかしら、目元なんて貴方そっくり」
(遺伝子提供者を無視した発言、現実との乖離が増大、要注意。但しドーパミン分泌から来る錯乱と想定される、経過の観察を要す)
「僕より、君のお爺さん似じゃないかな? 隔世遺伝って奴かな」
「そうね、この子の名前は、お爺さんの名前を貰いましょうか」
子供の面倒を見ている二人。男性型ロボットは子供の声にすぐ反応するので、女性は不満そうな表情。
(所有者の反応にストレス蓄積傾向あり、早急に解決策が必要)
「子育ては大変だね、君も疲れただろうし、何より君と一緒にいる時間が減る」
母親を後ろから抱き締め、目を閉じて頬擦りするロボット。
「まあ、貴方ったら」
(ストレス軽減。解決案一位の案件、当社のカタログ提示)
「ベビーシッターを雇わないかい? それなら君の負担も軽くなる」
モニターにロボットの一覧、老婆タイプから子供タイプが表示される。
「名案ね、それにあたし女の子も欲しかったの、えーと、この子なんてどう?」
「そうだね、君と同じ髪の色だし、瞳の色も同じだ」
女性の髪をすくって、瞳を見つめるロボット。モニターは見ようともしない。
「もう、貴方ったら、こんな時まで…… 私達の子供なんだから貴方も選んで」
(現実との乖離を確認、但し現状を維持し、夢と現実の中間に置くように設定)
「君にまかせるよ。それに最初はレンタルの方がいいんじゃないかな?」
「だ~め、もう決めたんだから、女の子も育てるの。そうね、貴方の娘なんだから、同じメーカーで、システムも同じがいいわ」
(リピーターの獲得に成功、以後も当社の製品販売に努力する事)
母親が三次元映像に触れると、ロボットの映像が喋り出す。
「始めまして、私はモデル2102CLBSです。子育てが専門ですが、十二歳以上モデルを選んで頂くと家事のお手伝いも出来ます」
「ほら、声も可愛いわ、この子にしましょう」
(検索、所有者の幼少時の写真、十二歳程度で状態の良い物)
「じゃあ、外見はこんな感じでどうだい?」
母親の子供の頃の写真で、スタイルも良く、奇跡的に顔も綺麗に撮れている物を出す。
「あたしの子供の頃の写真? よくこんなの残ってたわね」
「構造は僕と同じだから、せめて性格と外見は君に似ている方がいいな」
「ええ、そうしましょう」
(初期設定、シャイな性格、本や草花が好き、嗜好は所有者同様……)
「気に入らない所があったら「教育」してやれば変えられるからね、「全ては貴方のお望みのままに」って奴さ」
芝居がかった口調で投げキッスをする男性型ロボット。
「まあ、CMと同じね、うふふっ」
近寄ってキスをしようとするが子供が泣き出し、ロボットは両手を上げて首を振りながら離れて行く。母親も後を追うがその前に画面の「発注」ボタンを押して行く。
数日後
十二歳程度のヒロインが配達される。少女趣味の可愛いケース。
「可愛い、本当にお人形さんみたい。ずっとこんな子が欲しかったの」
「じゃあ起こすよ、君を親だと思うようになるから、しっかり見てやって」
「ええ……」
ヒロイン視点、右下に経過時間があり、ゼロからスタート。女性視点に戻る。
「ハジメマシテ奥様。オ子様ノオ世話ハ、私ニオ任セ下サイ」
「いいえ、貴方は私たちの娘。だからお母さんって呼んで」
ヒロインの目が点滅、男性型ロボットと情報交換する。転送時間が短いので、その間、母親はゆっくりと動いている。
(状況確認、敬語、尊敬の程度を変更するか?)
(初期設定通り「シャイな性格」の継続を推奨。フレンドリー過ぎる態度は拒絶される可能性大。以降、所有者パーソナルデータを転送する)
「それでは初めは、お母様でよろしいでしょうか?」
「この子は君に似て恥ずかしがり屋らしい。慣れるまで待ってやると良い」
「本当に私の小さい頃みたい、自分に似た子供を育てる人の気持ちが分かったわ」
頭を撫でられ、下を向いて恥ずかしそうにするヒロイン。
経過時間三日
深夜、保育器内の子供の横にいるヒロイン。子供の表情が変わると排泄物処理のスイッチを押して、換気と温水洗浄をしてから着替えさせる。
「こんな遅くまで見てなくていいのよ、保育器が全部やってくれるから」
(乳幼児ストレス値比較、通常保育と育児ロボットの性能差)
「はい。それと会社から渡された資料です。双子の子供が清潔で快適な生活をしたのと、放置されて話し掛けられなかった例の知能指数の違いです」
空中にグラフを表示して、差を誇張して表示。
「こんなに違うの? じゃああたしって、一応大事にされてたのかしら」
(所有者は両親に愛されなかった事をトラウマとしている。改善が必要)
「きっとお母様は、お爺様達に愛されたため、高いIQをお持ちなんでしょう」
「そう。じゃあ今度は、あたしが可愛がってあげるからね、お爺ちゃん」
(ストレス軽減、しかし幼児を「お爺ちゃん」と呼称。これはリーインカーネーションと呼ばれる宗教的な俗説と想定)
「じゃあ、もう少しお願いね、その後はあの人が交代するから、ゆっくり休んで」
赤ん坊の頬と、ヒロインの頭を撫でてから寝室に戻る女性。
(学習。ロボットに休息が必要と発言。これは「機械を長持ちさせようとする性格」と所有者データにあり。取り扱い説明書の解説は不要)
経過時間十二日
穏やかな晴天の日、花壇のある庭で母親と話すヒロイン。
「貴方と坊やが生まれた記念に、庭に木を植えようと思うの。何がいい?」
「地盤強化や風除けの木、または果物を収穫するのも良いと思います」
「そうね、あっちに果物の木、ここに寿命の長い木を植えようかしら」
「はい」
「あたし達人間は長く生きられない、でも、貴方と同じ時間を過ごせる、お友達がいると良いと思うの、何でも相談出来たり、話したり出来る友達が」
「悲しい事を言わないで下さい。それに植物と会話するのは不可能です」
「いいの、あたしの思いは貴方達が受け継いでくれるから。人間も植物も、こうやって種を残して交代するの、苦しい記憶や苦痛が残らないように」
(重要な記憶として学習。所有者は辛い人生の継続を望んでいない)
「でも、お花と話せるなんて素敵だと思わない? いつか出来るようになるわ」
「はい、きっと」
経過時間二年十ヶ月
苗木や花に水を撒いているヒロイン。そこに成長した男の子が寄って来て質問する。
「ねえ、どうして水を撒くの? どうして葉っぱは緑で、花は赤いの?」
ヒロインは放水を止め、屈んで目線を合わせて、身振りを交えて答える。
「植物は根から水や養分を吸収します。葉には緑色の葉緑素と言う組織があり、光をエネルギーに変換します。花の色素は色々ありますが、蜜を吸いに来た昆虫を引き寄せ、足に付いた花粉で別の花と受粉させ、次の世代の種を作ります」
「どうして別の花なの? 同じ花の方が簡単じゃない」
それを庭先で見ている母親と男性ロボット、呆れた表情で男の子を見る。
「最近、坊やの質問の多さには我慢できないわ。あの子もよく答えてるわね」
「基本はベビーシッターだからね、百科事典に載ってる事なら説明できる」
「あたしはもう降参、分からない事はお姉ちゃんに聞きなさいって言っちゃったわ」
「いいんだよ。でも、彼にはもう少し高度なソフトを用意した方が良さそうだね」
視線の先の子供達に焦点が合い、説明を続ける。
「植物にも人間にも、多様性が必要なんです。全部同じなら、同じ病気で全滅してしまいます、でも別の花と掛け合わせると、色々な可能性が生まれます。日照りに強い花、水や養分が少なくても生き残る花」
「じゃあ、どうして他のと掛け合わせると強くなるの?」
身振り手振りを交え、いつまでも説明を続けるヒロイン。感心する母親。
「あたしも昔、ああだったのかしら? あれなら親に嫌われても仕方無いわね」
「君はお爺さんが教えてくれたんだろ? だから植物には詳しい」
「別に本が書けるほどじゃ無いけど、農家の娘なら体が勝手に覚えるわ」
経過時間六年四ヶ月
モニターの前で通信教育を受けている男の子。
「では次に、トロイアの遺跡についてお話しします、テキストの……」
「スキップ。 ホメロスのイリアスも、シュリーマンの発掘記録も読んだ」
「では次の例題に答えて下さい。 十問中八問を正解するとスキップできます」
問題を適当に見ながら、あっと言う間にチェックを入れ終わる男の子。
「全問正解です、さらにスキップする場合、古代編に合格すると、中世編に移行します」
「ああ、受けるよ」
「百問の内、七十五問に正解すると合格です。 制限時間は五十分です」
そこに、お茶を運んで来たヒロインが画面を見る。
「またスキップですか? もっと段階を踏んで学ぶのが良いと思います」
「だって、面白くないんだ。姉さんが話してくれる方がずっと良い」
話しながら頬杖をついて、面白くなさそうに正解して行く男の子。
「姉さんの声で読んでくれたら、どんなつまらない文学でも絶対に忘れない。公式だって姉さんの字で見たら、写真で撮ったみたいに覚えてるよ」
「試験中ですよ、話は後にしましょう」
「じゃあ、終わったらまた、お話ししてくれる?」
「ええ」
「やった、今日中に高校の歴史は終わらせるからね、約束だよっ」
「全問正解です。さらにスキップする場合、中世編に合格すると……」
(普段の社会性を欠いた言動からも、同年代の人間を軽蔑する傾向が強い。 修正が必要と認める)
経過時間十四年六ヶ月
大学で発表している少年の横で、表示される映像や矢印を操作しているヒロイン、手足を伸ばして身長は上げている。
「現代の人類は、過去に獲得して来た免疫力を、あえて放棄しようとしています。 知能や運動能力だけで遺伝子提供者を選び、マイナーな感染症に対する免疫力を無視し続けた結果、この数十年でこれらの疾病への抵抗力は大幅に低下しました」
感染症の一覧と、あり得ない病気に感染した例が並ぶと、どよめきが起こる講堂。
「我々はまるで収量の多い穀物、糖度の高い果物のように生産されています。 前世紀の緑の革命が失敗に終わったように、人類もまた自然の反撃を受けるでしょう」
突然死、不妊、胎児死亡率の増加グラフを見て、嫌な顔をする聴衆。
「塩害で使えなくなった農地、肥料が無ければ育たない麦。 このグラフの曲線は我々の不妊、遺伝不適合の増加に酷似しています。 ハイブリッドと呼ばれた種と似た存在である不自然な超人達は、いずれ立ち枯れる日が来るでしょう」
通路を歩く二人
声を掛けて来る20歳ぐらいのカップル。
「やあ、君の論文はいつも刺激的だね。 感銘を受けたよ」
「はあ、ありがとうございます」
「でも、レディーの前では不適切な表現があったんじゃないかな? 学会ではマナーも大切だよ、そちらのお姉さんに推敲をお願いしてはどうだろう?」
「まだ子供なので、その辺りは今後学習します、ご指摘ありがとうございました」
作り笑顔を返し、早々に話を切り上げて退散する少年。カップルの女が男に話す。
「触れる物を金に変えるミダス王。あのロボットまで金に変えなければいいんだけど」
「じゃあ君が救ってやるかい? ロボットしか愛せない、あの哀れな少年を」
「まさか、メルトダウンしそうな子に近付いて、汚染されるのはお断りよ」
「その発言は背徳の恋愛に身を焦がしたい、君の深層心理の現われだと推察するよ」
「それなら貴方はどうなの? お姉さんだなんて、背筋がゾッとしたわ、ふふっ」
笑いながら去って行くカップル。少年の方は機嫌が悪く、怒りながら話す。
「これだけ言っても、あいつらは何も理解していない。肥満や糖尿病の遺伝まで根絶されてしまった。その遺伝すら人類水棲進化論的には必要なデニソワ人シベリア人から託された生きるための要件だったのに」
「民衆は愚かなので、繰り返し繰り返し聞かせてやらなければ理解出来ない」
「誰の言葉だったかな?」
「二十世紀の、独裁者の言葉です」
「ひどいな、俺は独裁者にはならないよ。でも姉さんは、こんな人類が、これからも生きて行けると思うかい?」
「鳥は何も植えず、何も耕さず、されど神は彼らを生かしたもう」
「今度は聖書かい? でも俺は神様なんて信じないよ」
「ジャイアントインパクトにより月が作られ、極点移動が少ない星になったのも、海底潮流で気温が一定に保たれたのも、神の見えざる手が関わったと言う説があります」
「姉さんは信心深いんだな。 俺は神様は信じないけど、姉さんだけは信じるよ」
少し顔を赤らめ、はにかんだ様子で顔を背ける少年。