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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第一章 いつかの約束、彼女の笑顔
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7話 ダンジョンアタック

――ロンシャ村付近、突発ダンジョン前


「これは驚いた」


 クラウスはダンジョンの入り口に立ち、その洞穴の上にそびえる一本の巨木を仰ぎ見た。


「聖樹か」


 神秘的なオーラに包まれた、筆舌に尽くしがたい荘厳な威容を放つ樹木。

 ジークも話には聞いたことがあったが、実物を見るのはこれが初めてだ。


「これは杖に出来るのか?」


「樹齢が若すぎる。でも立派な樹だ。あと数十年も経てばとても良い杖の素材になると思う」


 クラウスは根元まで登り樹皮の表面を撫でる。


「とても素直で正直な枝の伸び方だ。扱いやすくてクセのない杖になる」


 そう言うとクラウスは洞穴の前まで飛び降りた。


「残念だけど、僕たちは杖職人じゃない。もっと見ていたい気持ちはあるけど、今はダンジョンアタックに専念しよう」


「おうよ、やっと重い荷物を下ろして剣が振れるぜ」


 ジークが肩を回すのを見てリルは嬉しそうに微笑んだ。


「僕とジークが前衛を張る。リルさんは後方に気を付けつつ障壁魔法で援護してくれ」


「任せとけ!」


 リルは腕まくりすると、背中から杖を下ろし、「マグネタイザー」と呟いた。


 マグネタイザーは手の平に対象をくっつけておく魔法だ。

 魔法使いは杖を失うと無力化されてしまうから、戦う前にマグネタイザーを使う魔法使いは少なくない。


 リルは手の平に固定した杖を構え、二人の後に続く。


 ジークとクラウスは洞穴の中へと入っていくが、暗くて何も見えない。


「リル、そこらの石にクロスライトしてくれ」


 リルはクロスライトと呟くと、足下の石を杖でつつき、魔法の効果を付与した。


 ジークはその石を拾うと、洞穴の中へと放り込む。

 ぼうっと薄暗い洞穴の中に光りが広がり、中の様子が見えるようになった。


 クロスライトは杖でつついたものを発光させる魔法だ。

 魔法使いの家では屋内照明によく使われるが、ダンジョンではこうして松明(たいまつ)のように使われる。


「やっぱり来たか」


 クロスライトの石の周りに、三匹のゴブリンが近寄ってきた。


「ゴブリンは松明の明かりを見ると人間と勘違いして近寄ってくる」


 クラウスが解説している間に、瞬く間にゴブリンたちの喉元に矢が突き刺さった。

 どうやら暗闇の奥にも他のゴブリンたちが潜んでいたらしく、襲いかかるようにしてさらに二匹がクロスライトへと飛びかかる。


「仲間が殺されると獰猛になって襲いかかってくる。その代わり僅かな理性が消し飛び、動きが直線的になって読みやすい」


 新たに二本の矢がゴブリンを貫くと、辺りは静まりかえった。


 ジークはニッと笑い弩をリルに見せ、リルは「ジーク凄い!!」と抱きついた。


「ジーク、君はゴブリンの性質を知っていたのか? 対応があまりに鮮やかだ」


 クラウスはリルがくっついたジークに疑問を投げかける。


「狩りの基本だ。獲物の気持ちを考えて、その動きを先読みする。獣相手のやり方だが、どうやらゴブリンにも通用したみたいだな」


 狩人としての経験が活きた。

 ジークたちは洞穴の中へと入ると、ゴブリンから矢を抜いて回収した。

 貧乏パーティではよくみる光景だ。


「ゴブリンの肉は匂いが酷くて食べられない。先に進もう」


 三人は新たなクロスライトを投げ込みながら先へ先へと進んでいく。


 クロスライトを投げ込んでいくのはゴブリンの奇襲を避けると同時に、自分達がどこから来たのか分かるようにするためだ。光る石を辿って道を戻れば出口まで帰ることが出来る。


「待って。奥に何かいる」


 リルがジークたちを止めると、クロスライトのほうを凝視する。


「ゴブリンじゃない……。なにか、羽が生えた魔物が天井に張り付いてる」


 投げ込まれたクロスライトに反応しない。

 ゴブリンとは違う習性の魔物だ。


「リルさん、僕とジークに身体強化の魔法を」


身体強化(エンチャント)前置き魔法(トリガーイン)―― 回復(ヒール)


 リルはエンチャントと呟き、ジークとクラウスの肩を軽く杖で触れた。


 エンチャントは杖で触れた相手に、一定時間特殊な効果を付与する魔法だ。

 今回は身体強化。つまり、動きのキレが上がって、受けるダメージを低減する効果が付与された。


 ついでに前置き魔法(トリガーイン)でヒールまで付与してくれたらしい。

 トリガーインは前置き魔法というだけあって、予め対象に魔法を設置しておく魔法だ。

 対となる遅延発動(トリガーディレイ)という魔法を使用することで、好きなタイミングで設置した魔法を発動出来ることができる。

 さっきのリルの詠唱「前置き魔法(トリガーイン)―― 回復(ヒール)」という詠唱は、一回だけヒールを遠隔発動することが出来るという意味だ。


 リルがお膳立てしてくれたからと言って、油断していては意味がない。

 ジークとクラウスはダンジョンの奥を慎重に見据える。


「ジーク、左右に広がって攻めよう」


「おうよ」


 二人はクロスライトを持って先へと進んでいく。

 すると、何か擦れるような音が聞こえてきた。


「グロウバッドか」


 二人は袈裟斬りにして飛んできた魔物を両断する。


 グロウバッドはコウモリのような姿の魔物"バッド"の巨大な個体だ。

 これも食べられない。


 次々と飛んでくるグロウバッドを全て空中で両断し、二十匹ほど蹴散らした。


「こんなのが大量でも嬉しくはないんだが……」


「でも入り口付近にグロウバッドがいるってことは、ここはBランク相当のダンジョンだ。奥に進めば絶対に大物がいるよ」


 クラウスは口端を上げて物騒なことを言う。


「何が嬉しいんだか」


「思わぬ珍味があるかもしれない」


 更に奥へと進む道程、クラウスが足を止めた。

 視線の先には僅かに光る緑色の鉱石。


「ジーク、見てくれ。エメラルドの原石だ」


「マジか!?」


 クラウスは壁際で荷物を下ろすとピッケルで周辺を砕き、原石を取り出した。


「そこそこの大粒だ宝石商に高く売れる」


「夢が広がりすぎる……」


 流石は誰も手を付けていない突発ダンジョン。

 宝の山というわけか。


「ダンジョンは奥に行くほど高価なものが手に入るけど、そのぶん危険も多い。気を付けて進もう」


 奥のほうから現れた羊型の魔物を蹴飛ばし、そのまま喉元を掻き斬った。


「グレイシープだ。保存食に加工できる」


 手に入った肉もかなり良い状態だ。


「このグレイシープを持って帰れば目的は達成だな」


 ジークは自分の背中にロープでグレイシープを括り付けて立ち上がる。


 クラウスとジークがダンジョンを後にしようとクロスライトのほうへと歩き始めたとき、ふと、リルが奥の方を見つめているのに気が付いた。


「リル、どうしたんだ?」


「少し先のほうから、強い魔力を感じる」


 クラウスは足を止めて振り返る。


「恐らくはこのダンジョンの主だと思う。首を落とせばギルドで多額の報奨金が得られるけど、僕たちは既に目的を達成している。敢えて危険を冒す必要もないと思う」


「俺もクラウスに同感だ。行こうぜ、リル」


「うん……そうだね。わざわざ倒すまでもないよね」


 リルはジークたちについてクロスライトを辿る。


「ダンジョンでの死傷事故は帰り道が過半数と言われている。気の抜けた冒険者が、背後と前方の両方から挟み撃ちにされて命を落とす。ジークとリルさんも気をつけて」


「おうよ」


 言われてみれば帰り道はクロスライトがあるからラクラクだな、なんて考えていた。

 気を引き締めなければ。


「あれ?」


 リルは頭の耳をピクリと動かしながら振り返った。


「今度はどうした?」


「……近付いてくる。すぐそこまで来てる!」


 そう言うが早いかリルは杖を構え、魔力障壁(ウォールシルト)を展開した。

 瞬間、障壁にバキリとヒビが入る。


 一つじゃない。次々と、銃弾が撃ち込まれたガラスのようにヒビの数が増えていく。


「……投石されているのか」


 クラウスは障壁の周囲にこぶし大ほどの大きさの石が落ちるのを見た。


「ウォールシルトを物理的に傷付けるなんて!」


「急いで外に出よう。リル、まだ障壁は持つか?」


「余裕だよっ! 壊れても新しく張り直す!」


「それなら背後の心配はないな。リル、クラウス! 走って出口を目指すぞ!」


 そう声を掛けたと同時、天井が割れて土埃と小石が散る。

 咳き込みながら腕で顔を覆い、その隙間から向こう側を確認する。


「"人食いの化物"だと……」


 無数の怪物たちが、出口側を埋め尽くしていた。

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