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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第三章 世界の中心に愛を叫ぶ道化
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60話 一緒に寝てもいい?

 ゼーランディアへの潜入は三段構えの作戦だ。


 まずはひとつめ、オルフェリアの偽造パスポートを使用した真正面からの通常入国。

 これでほぼ確実に入れるはずだが、偽造パスポートが通用しなかったときはふたつめの手段を取る。


 ふたつめ、貨物物資の中に隠れて潜入する。

 オルフェリアからギルドに協力を呼びかけ、ギルドが承認した特一級の交易商をこちらへと向かわせているらしい。

 その積み荷に隠れて検問をやり過ごすという方法だ。

 成功率はまあ偽造パスポートとどっこいどっこいと言ったところか。


 みっつめ、上記全ての方法が通用しなかった場合には、強行突破にてゼーランディアへと潜入する。

 最も避けたい手段ではあるが、儀式が絡んでいる以上は悠長に指を咥えて検問を眺めているわけにもいかない。


 みっつめの手段については、交易商に、内部を暗闇で隠蔽する特殊外套を運ばせているらしい。

 騒ぎは広がるだろうが、身元を隠して潜入すれば見つかる危険性も多少は下がるだろう。

 心臓に悪そうだから気乗りはしないが、その時は仕方がない。


 今回のゼーランディア潜入にはダリオ・セシリアのオルフェリア陣営のみでなく、冒険者ギルドからの協力も得られている。

 三陣営間の現在の関係性は非常に微妙なものとなっているが、儀式に関してゼーランディアを脅威として見ているという点では互いの利害は一致している。


 そこらへんの交渉事は全て宮廷の二人に任せてしまったので事の成り行きを全て把握しているわけではないが、やるべきことはハッキリしている。


「問題があるならその問題を斬るまでだ」


 計画書やその他諸々を荷袋の奥にしまい直し、ジークはベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 天井の室内魔石灯を眺め、そこにたかっている一匹の小さな蛾をぼんやりと目で追う。


 しばらくそのままの姿勢でいると、風呂から戻ってきたリルが部屋に戻ってきた。


「ただいまー!! ってジーク、何してるの?」


 ひょいと蛾を捕まえ、窓の外へと放り投げるリル。


「いや……ぼんやりしていただけだ」


「最近のジークはちょっとぼんやりさんだよね~」


 隣に腰を掛け、ニタニタとこちらを見つめてくる。

 しばらく青い瞳を眺め、それからまた室内魔石灯へと視線を逸らした。


 リルは隣に倒れ込み、抱きついてくる。


「今日一緒に寝てもいい?」


「ここツインの部屋なんだが」


「いいでしょ?」


 オルフェリアからの支援のお陰で泊まれる宿のグレードも上がった。

 以前までは個室に二人で泊まっていたのだが、今日の宿は広めのベッドが二つもある。


 別々に寝たら広々なのだが、こうなったリルは言っても聞かないだろう。


「いいけど、何かあったのか?」


 リルの方を見ると、銀の前髪の隙間から、宝石のような青い瞳がこちらを見据えている。


 ジークはたまにリルのことを不思議に思うことがある。

 ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染で、コイツの性格はだいたい分かっている。

 好きなものも嫌いなものも、何をすると怒るのかも。


 だけど、時々リルが何を考えているのか全く分からない時があったりする。

 今がそれだ。


 人というより、神霊の雰囲気と言ったほうがいいのだろうか。

 真っ直ぐすぎて、何を考えているのか分からない瞳だ。


 だけど、それも普通のこと。

 お互いのことが全て分かったら人間そんなに苦労はしない。

 たとえ幼馴染だろうと、分からないものは分からないし、それでいいと思っている。


 まあ、お互いに何かあればすぐに聞くし、すぐに答える間柄だ。

 多少分からないと思うことがあるくらいで、ようやく釣り合いがとれるというもの。


 ジークの問いにリルは眉根を寄せ、不満げな声を出す。


「何かあったのはジークのほうでしょ? ジーク、なんだか疲れてるみたいだよ……。今日だって全然元気なかったし」


 そう言われて、ジークはふーむと考え込む。


 自分自身ではそんな自覚は無いのだが、どうやらリルから見るとそう見えるらしい。

 疲れているかと問われれば、確かに疲れている。

 しかしそれは旅の疲れであって、リルだって自分が疲れているところは道中で何度も目にしていたはずだ。


 何も言わずに考え込んでいると、リルはぎゅっと抱きつく力を強めてくる。


「どうしたんだよ、お前……。本当に何かあったのか? 誰かに何か言われたり」


「今は私がジークの心配をしてるの。ジークが私の心配をする番じゃない」


「お前本当に面倒な性格してるな……」


「いいから答えてよ」


 リルの真剣な瞳に圧されて、ジークは軽くため息をついた。


 リルと出会ってこの方、嘘や隠し事をしたことはほとんどない。

 あるとすれば、マルティナでやった、おばさん主催の誕生日パーティーのサプライズくらいだろうか。


 まあ、ジークは基本思ったことはすぐに言うし、隠し事をするメリットをあまり感じないタイプだ。


 小さい頃に両親を失い、村の知り合いも何人か人食いの化け物に襲われた。

 死というものが、常に身近にあるような気がしていた。


 だから、自分も相手も、もしかしたら明日死ぬかもしれないと思って暮らしている。

 もちろんそんなことにならないように頑張っているつもりだし、リルのことは何としてでも守ると決めている。


 だけど、だからこそ、思ったことは可能な限り伝える努力はしている。

 明日死んでも悔いが残らないように。

 言い残しが無いように。


 ジークは考え込み、それからそっと口を開いた。


「思い当たる節があるとすれば、アアルと殺りあったことくらいか……。と言っても、一か月近くも前の話だからな。今はそこまで気にしてないんだが……」


 あの時のことは確かに堪えた。

 しかし、いつまでも気にしていても仕方がない話だ。


 それに、アアルは死んだ。

 幽霊にでもならない限りは、もう目の前に現れることもないだろう。


 ジークの回答にリルは俯き、それから腕に頭をうずめてきた。


「やっぱり……。あの日から変だもん……」


「変と言われても困るんだが……そりゃあ、あの日は二度も死にかけたんだ。多少は心に何かは残るだろさ。それにしても、もう一か月も前の話なんだぜ? いまさら蒸し返しても仕方がないだろ……」


 ジークは困ったようにリルの頭を撫でる。


 時計の針はもういい時間を指している。

 明日も朝は早い。

 そろそろ寝たほうがいいだろう。


「リル、寝るから明かり消すぞ?」


「うん」


 魔石灯の明かりを消して、毛布を被る。

 この辺りはリーシアより少し寒いが、リルの体温で毛布の中はすぐに温まった。


 折角のツインが台無しではあるが、まあデメリットばかりではないわけだ。


「なあリル、それにしてもくっつきすぎだろ」


 リルが隙間なくピッタリとくっついてくるため、狭くて寝づらい。

 本当に寝ているのか狸寝入りなのか分からないが反応もない。


 仕方がないからスペースを得るために少しズレると、リルも一緒にこちらへとズレてくる。

 ジークとリルは無限にズレ続け、最終的にジークは壁とリルの間に圧し潰された。


「俺はハンバーガーのピクルスか何かか?」

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