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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第一章 いつかの約束、彼女の笑顔
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6話 次の村へ

 リルは両手を挙げて最初の目的地の前に仁王立ちした。


「やってきたぜ! ロンシャ村!」


「お前本当に体力無限だな」


 多少疲れた様子のジークは大荷物を地面に下ろして、ぐっと伸びをした。

 半日以上も歩き続け、太陽が直上を過ぎてから三時間ほど。


 ジーク、リル、クラウスの三人はジードフィルまでの道のりで、最初にして最後の経由地点"ロンシャ村"へと辿り着いた。


「つってもほぼ近所みたいな村だからな。先が長いのはここからだ」


「ロンシャ村からは、野宿をしながら一週間ほど歩くからね。ここでもう一度荷物の確認をしておこう」


 三人は村の関所を通ると、宿屋へと向かった。

 軍資金は豊富じゃない。あまり贅沢は出来ないため三人で相部屋だ。


 それぞれの荷物を床に広げ、不足がないことを確かめる。


「夜までは少し時間がある。僕はギルドの掲示を見てくるけど、君達は?」


「わたしはお店で甘い物でも食べてよっかな。ここから先はしばらく貧相な食事になるだろうし。ジークは?」


「俺も食事だな」


 もともとガサツな性格だ。

 マルティナでもそう頻繁に掲示の確認をしたりはしていなかった。


「夕刻までには宿で合流しよう」


 そういう流れで、クラウスとリル・ジークは別行動を取ることになった。


 今日使ったタオルと服を洗い、外の物干し竿に引っかけると、宿の階下にある喫茶店で適当なものを頼み、二人はテーブルの上に地図を開いた。


「こうして見るとかなり長い道のりだな」


「でも楽しみでしょ?」


 ニタニタとこちらを覗いてくるリルに「そうだな」と答える。


 今までこんな遠路を行ったことはない。

 クラウスという冒険者の補助もある。


「儀式とかはよく分からないが、今はただ、この運命の巡り合わせが俺にはありがたい」


「冒険者として町を出れたこと?」


「俺はあのまま、狩人として生きていくかもしれなかったからな。こうして踏み出せたのはリルとクラウスのお陰だ」


 リルは「へえ」と笑うと、運ばれてきたアイスクリームをぺろりと舐めた。


「おいしい!」


「今朝取れたてのミルクですからね。それより、お客さんたちは冒険者ですか?」


 給仕の娘がそんなことを聞いてくる。

 そうだと答えると、彼女は頬に片手を当てて困ったような表情をした。


「それは大変ですねえ……。こんなタイミングに……」


「どういう意味だ?」


 そこへクラウスが帰ってきた。


「ジーク、北西の方角にダンジョンが発生したらしい。中の魔物が外に這い出て来て、行商人が襲われたと掲示があった」


「北西の方角か……って俺たちの目指すほうじゃねえか!」


 給仕の娘に、どのあたりに発生したのか聞くと、ちょうどジーク達の定めたルート上を指さした。


「おお……これはまたドンピシャ」


「参ったな。最短ルートが通れないとなると食料が足りねえぞ」


 今回のルート選択はとにかく最短であることを重視している。

 旅路が長ければ長いほど大荷物になるからだ。


 食料の確保、ベースキャンプの設置、その他諸々の小道具等等……。


 このルート上には食料になるような魔物が多くない。

 携帯食料の量を考えると、他のルートを行くのは現実的に考えて難しい。


 しかしクラウスは地図のルートを指で辿りながら言った。


「計画は変更しない。このルートで行こう」


「でもダンジョンを通過するのは骨が折れるだろ。疲れて余分に食料を消費しちまったらジードフィルに辿りつけねえ」


 ジークにそれは違うと言い、クラウスは自分の考えを二人に伝えた。


「僕たちの辿るルートには食料になるような魔物があまりいない。最低限の携行食料は持って行くけど、それでも過酷な道のりだ。もしもこのダンジョンに栄養価の高い魔物がいて、それを狩ることが出来れば、僕たちのこれからの旅路はかなり楽になる。それにまだ未探索のダンジョンなら貴重な鉱石や武器の素材が手に入るかもしれない。これを逃す手はない」


 確かに一理ある、とジークは思った。

 ダンジョンの中には森とは違う種類の魔物が数多く生息する。


 栄養価の高い魔物を狩って、その肉を燻して保存食にすれば旅で食事に困ることは無くなる。もしクラウスの言うようにダンジョンで貴重なアイテムが手に入れば、ジードフィルで高値で売って旅の資金にすることも出来るだろう。


「出発を急ごう。余分な荷物は宿に置いて、ダンジョンアタックに必要な物だけを今すぐ揃えてくれ!」


 急かすクラウスにジークはちょっと待ってくれと言った。


「朝まで待ってもいいんじゃねえのか? 夜の森は昼間より危険だぞ」


 それは狩人として真っ当な意見だった。

 だが、今は冒険者としての意見が優先される。


「だからだよ。他の冒険者が辿り着いてからじゃ、高値で売れるようなアイテムは根こそぎ持って行かれてしまう。こういうのは早ければ早いほうがいい」


 流石は長年冒険者をしてきた男だと思った。

 多少の危険はあるかもしれないが、今はリスクを負うことで、先の冒険への備えを固めるべきだ。クラウスはそちらの可能性を取ったらしい。


「このダンジョンはロンシャ村から向かうのが一番近い。ちゃんとした装備でダンジョンアタックに臨めるのはたぶん僕たちだけだ。これは運がいい」


「そういうものか……。まあ冒険者のクラウスが言うんだ、その通りにしたほうが上手くいくだろ」


 そう言うと、三人は戦闘向きの軽装でダンジョンへと向かった。

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