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【連載休止】フェンリルは最強剣士の夢を見る  作者: 高橋
第三章 世界の中心に愛を叫ぶ道化
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59話 次の街について

 宿に荷物を預け、しばらく町のはずれで剣の修練を行った。


「ジーク! そろそろご飯食べよー!」


 宿のほうからリルが叫んでいる。


 ジークは剣の素振りを終えて、クラウスとリルの方へと歩いていく。


「涼しくて鍛練が捗るぜ。それにしても結構時間使った気がしていたんだが……」


 汗を拭いながら見上げた空にはまだ夜の帳が降りきっていない。

 ジークはタオルを首に掛け直し、二人と並んで歩く。


「時間はしっかり経っているよ。リーシアにいた時とは季節と緯度がかなり違うからね」


 中央広場の時計は既に午後の七時を指しており、オルフェリアならこの時間帯にはとっくに陽が沈んでいるはずだと思い返す。


「この辺りの七月の日の入りが午後七時、リーシアの五月の日の入りが午後五時だったからね。北半球では地軸のズレのせいで緯度が高くなるほど、夏の日照時間が長く、冬には短くなるんだ。この辺りはリーシアより北にあるから、夏の日照時間が長いんだよ」


 この時期のリームは四時に日が昇り始め、七時に日が沈む。

 一日の三分の二が昼間というわけだ。


「なるほど……。北にあるか南にあるのかによって太陽の動きも変わるんだな」


「北方地域の冬が厳しいのは日照時間の問題もあるからね。冬は今の逆で一日の三分の二が夜だよ」


「うぇ……滅茶苦茶寒そう……」


「冬になる前にはこっちに戻って来れるようにしよう」


 嫌そうなリルにクラウスが苦笑いで言う。


 ジークとしてもあまりに寒いのは勘弁願いたいところだ。


 これくらいの涼しさなら良い鍛練環境になるが、極寒の中で剣を振り続けろと言われれば、さしものジークもお断り。

 風邪を引いてしまっては却って鍛練が出来なくなってしまうのだから、当然と言えば当然だ。


 三人は宿から少し離れた目的地のレストランに入った。


 内装は割と整っており、飴色に輝く魔石灯が室内を暖かく照らし出している。

 テーブルや椅子もピカピカに磨かれていて、まるでリーシアやジードフィルの人気店のような装いだ。


「小さい町なのに随分と小洒落た飯屋だな。マルティナとは全然違う」


「この辺りも他とは事情が違うからね」


 リームは西方世界の北部に位置する小国だ。


 国土の七割が針葉樹林に覆われ、二割が住居や農業に利用され、残りの一割が川や湖だ。

 国土のほとんどが平坦な土地となっており、整備された道路のお陰で馬車での移動が非常に簡単。


 国土の八割が森林や湖と聞くと、人が住める土地が少ないのではと感じるものだが、小国というだけあって国民人口もオルフェリアの五分の一ほど。首都のゴーレムタウン以外は賑やかというよりは穏やかな印象だ。


 人口的には田舎と言えなくもないこの地域が、何故こうも小綺麗に整っているのか。


 その理由は、リーム王国には毎年ギルドから多額の助成金が出ているからだ。


 無論、賄賂やらなんやら後ろめたいものでは一切ない。

 むしろ西方世界全土でこの助成金は認められているし、積極的に支援されるほどだ。


「で、それはなんでなんだよ?」


 ジークの問いに、クラウスはパスタを巻きながら得意げに語る。


「この辺りはジードフィルと隣接する戦術的に最重要な立地だからね。万が一あの国が西方世界に攻撃を仕掛けるとなったら、まずはこの国が戦場になる。だからみんなでこの国に支援金を出して、とにかくジードフィルに取られないように頑張ってもらおうとしているってわけだよ」


「この辺りは危険ってこと?」


 ステーキを切り分けながらリルが問う。


「潜在的にはね。その可能性はほとんどないだろうけど」


 しかし、もしもの時のための備えは必要だ。

 リームの道路が綺麗に整っているのは、いざという時に周辺諸国から援軍が出しやすいようにだし、各家庭やお店には非常食や十分な魔石の貯蓄が出来るよう国から援助金が出ている。


 金があることや、いざという時に即座に対応出来ることのアピールは重要だ。

 リームが一筋縄ではいかない国家であるとアピールをし続けることで、ゼーランディアは西に攻めにくくなる。

 こういった理由から、各国とギルドはリームを経済的に支援しているわけだ。


「というわけで、この国の事業主は支援金のお陰で余裕があるってわけなんだ」


 そう話している間に、注文していた料理がテーブルに並べられる。

 いつも通りクラウスはこの辺り一帯の郷土料理を、リルは肉だけを注文している。


 二人とも相変わらずだなと思いながら、ジークはピザを切り分ける。


「危険と隣り合わせの代わりに多額の支援金がもらえる……メリットとデメリットが極端な国だな」


「ギルドを基幹とした西方世界と、ほぼ鎖国状態の独裁国家ゼーランディア、その極端なふたつの土地の間に曝されているわけだからね。実際、戦術的に極端にならざるを得ない土地だよ。とはいえ、こうして町の景観は綺麗だろう? 国民性も助け合いや自分たちの人生に重きを置いているから暮らしやすいし、いい国だよ」


「へえ……そういうもんか」


 オルフェリアの中心に近い内陸のジードフィルや、ギルド総本部のある港湾都市リーシア。

 そしてオルフェリアを出て、北方の国境を護る小国リームへ。


 いくつもの国や街を巡ることで、様々な人々の暮らしや事情が見えてくる。

 国民性、気候風土、文化、経済……どの街も違っていて、だからこそ、その全てが尊いものだと思える。


「ここもいつまでも平和だといいんだがな」


 そう言って、ジークはピザを頬張った。

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